貧弱の英雄

カタナヅキ

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番外編 獣人国の刺客

第885話 魔銃の特性

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――両親を殺した後、カノンは他国に逃亡して最初は冒険者や傭兵になろうかと考えた。だが、彼女自身は細工以外に特別な能力を持っているわけではなく、魔銃がなければ戦う事もできない。だから獣人国に残って暗殺者になるしかなかった。

もしも正体を隠してカノンが冒険者や傭兵になっていた場合、魔銃はあまりにも目立つ武器なので瞬く間に彼女の存在は有名になるだろう。そうなれば彼女の素性を調べようとする輩が現れてもおかしくないため、もしも両親を殺した指名手配犯だと気付かれる可能性が高い。だから結果的には暗殺者として目立たずに生きてきた事でカノンは命拾いしたかもしれない。


『渡さない……これだけは渡してやるもんか』


最初の頃は魔銃を奪われる事を極端に恐れたカノンは、盗賊紛いの行動をして多くの人間から金を巻き上げ、時には魔石弾の材料となる魔石を盗み出す。そんな事をすれば当然だが国の兵士に目を付けられるが、運よく彼女の噂を聞きつけた裏社会の人間が彼女に接触を図る。


『お前が魔銃使いのカノンか……噂は聞いているぞ。どうだ、うちで働いてみないか?』
『何よ、あんた等……』
『我々は黒牙だ……名前ぐらいは聞いた事があるだろう』
『まさか……あの有名な闇ギルドの!?』


カノンの元に訪れたのは獣人国に存在する闇ギルドの中で最も規模が大きく、そしてシバイ大臣とも繋がりがある闇ギルドだった。カノンは闇ギルドに暗殺者として勧誘され、彼女のその後は暗殺者として生きていく。

魔銃の最大の利点は「速射性」に優れている事であり、カノンが使用する魔銃は殺傷能力が高く、で絶大な効果を発揮する。だから彼女は瞬く間に暗殺者として成功を収める。

例えば魔術師の場合は攻撃を行う際は杖や魔法腕輪を利用し、砲撃魔法や広域魔法のような強力な威力の魔法を発動する場合、大抵の人間は「詠唱」を行う。王国の魔導士の位に就くマホやマジクでさえも強力な魔法を扱う際は魔法の「名前」を口にしなければ発動できない。

しかし、カノンの所有する魔銃の場合は違う。事前に魔石弾を弾倉に装填していれば、彼女は瞬時に発砲して相手を仕留められる。更に魔石弾に余裕があれば連射できるため、この点が魔術師との戦闘でも大いに役立つ。


『な、何だ貴様は!?私を誰だと思っている!?』
『いいから、杖を構えなさいよ』
『くっ、馬鹿にしおって!!ファイ……』
『遅過ぎよ』
『ぐはぁっ!?』


魔術師の暗殺を初めて依頼された時、カノンは相手が魔法を発動させる前に魔銃で撃ち殺した。この時の出来事は彼女は忘れられず、獣人国では魔術師は王国よりも恐れられているが、そんな魔術師を自分一人で一瞬で始末できた事に興奮した。

どんなに優れた腕を持つ魔術師だろうと、カノンがが魔銃を撃ち込むだけで殺す事ができた。だからカノンは魔術師だろうと何だろうと相手が人間ならば自分は負けるはずがないと確信した。


『貴様!!この俺を誰だと思って……ぎゃああっ!?』
『おのれ、人間如きが……ぐああっ!?』
『この俺様を誰だと……うぎゃあああっ!?』
『……何よ、口ほどにもないわね』


その後もカノンは名のある傭兵や冒険者を暗殺し、どんな相手だろうと彼女が魔銃を撃ち込むだけで決着がついた。相手が火竜のような化物ならともかく、ただの人間なら自分に勝てる存在はいないという自信を抱く。

本の数年でカノンは獣人国一の暗殺者となり、細工師として親が決めた人生を生きるよりも彼女は暗殺者として刺激的な生活を送る事に満足していた――





――そして時は現代へと戻り、王都へ辿り着いた彼女はナイが宿泊しているという噂の「白猫亭」へと辿り着く。彼女の目的は「白猫亭」に赴くはずのナイを狙い、始末する計画を立てる。

大胆にも暗殺対象が宿泊する宿屋にカノンは乗り込み、暗殺対象が現れた瞬間に魔銃で撃ち殺すつもりだった。場合によっては魔銃で遠方から「狙撃」する事も考慮し、とりあえずはカノンは白猫亭に泊まるために足を踏み入れる。


「へえっ……思っていたよりも立派な建物ね。これは壊しがいがありそうだわ」


カノンは白猫亭を見上げて笑みを浮かべ、仮にこの建物に自分が魔銃を発砲した場合はどんな風に壊れるのか考えると楽しくなり、リョフイが持ち帰った情報によれば暗殺対象のナイという少年はこの宿に出入りしていると聞いており、彼女は宿泊の手続きを行おうとした。

だが、彼女が宿屋に入り込もうとした瞬間、驚くべき事に暗殺対象のナイが出てきた。ナイの顔を見るのは初めてのカノンは違和感を抱くが、リョフイが描いた暗殺対象の似顔絵を思い出す。


「じゃあ、今夜もまた来るよ」
「ええ、モモも喜ぶと思うわ」


ナイは宿屋の仮の主人であるヒナに見送られ、扉を通り抜けて出て行こうとした。しかし、この時に彼は自分の前で立ち尽くすカノンに気付き、不思議そうに首を傾げる。


「……あの、どうかしました?」
「……いえ、何でもないわ。そこ、退いてくれるかしら?」
「あ、はい。すいません……」
「いらっしゃいませ、お一人様ですか?」


カノンはナイの言葉を聞いて咄嗟に一般客を装い、彼の横を素通りする。この時にナイと話していたヒナが対応を行い、その間にナイはカノンに背中を向けて歩き出そうとした。

しかし、カノンは思いもよらぬ形で暗殺対象と出会ってしまい、命を狙うのならば絶好の機会だった。カノンは立ち去ろうとするナイに視線を向け、腰に差している魔銃に手を伸ばす。


(まさかこんなに早く会えるなんてね。はあ、もっと王都を観光したかったけど……仕方ないわね)


カノンは街道を歩くナイに視線を向け、彼が十分に離れるまで待つ。その様子を見てヒナはカノンの行動に怪しく思うと、この時に彼女はヒナが腰に差している魔銃に視線を向けた。

ヒナは最初は魔銃を見ても正体が分からず、そもそも彼女が「銃」という武器を見るのは初めてだった。しかし、カノンの雰囲気が変わった事とナイを見つめている事に気付き、嫌な予感を覚えたヒナはカノンに話しかける。


「お客様、どうかされましたか?」
「いいから黙ってなさい……怪我をしたくないなら離れなさい」
「えっ!?」


ナイとの距離が十分に離れたと判断すると、カノンは魔銃を引き抜いて両手で構えた。ナイとの距離は既に10メートル以上は離れており、射線上には人の姿はなかった。

奇襲を仕掛けるのならば絶好の機会だと判断したカノンは魔銃を構えると、ナイに目掛けて引き金を引こうとした。しかし、いちはやくヒナが危険を察してナイに声をかけた。


「ナイ君、危ない!?」
「えっ?」
「ちっ!?」


ヒナの言葉にカノンは舌打ちするが、ナイはヒナの声を聞いて咄嗟に振り返ると、魔銃を構えたカノンの姿が見えた。カノンは標的が自分に気付いてしまったが、それでも構わずに彼女は引き金を引く。


(もう遅いわよ!!この距離なら外さないわ!!)


相手に気付かれようと構わずにカノンは魔銃を発射させ、が銃口から射出された。



――魔銃から発射された弾丸はナイに目掛けて放たれ、カノンは敢えて狙いを彼の足元に絞る。頭部や胸元などの急所に撃ち込めば確実に殺せるが、それでも足元を狙ったのは万が一にナイが回避行動に移った場合、弾丸を避けられる事を想定して地面に衝突する角度で撃ち込む。



仮にナイが魔石弾を避けたとしても、地面に衝突すれば魔石弾は暴発し、激しい爆発を引き起こす。それに巻き込まれれば人間などひとたまりもなく、最低でも致命傷、運が悪ければ死ぬ。仮に生き残れても大怪我は免れず、そこにカノンが二発目の弾丸を撃ち込めば確実に仕留められる。

但し、カノンの考えはあくまでも相手が「普通の人間」を想定して立てた作戦dしかない。もしも暗殺対象がを持つ存在の場合、彼女の計画通りにはいかない。


(――何だ、これ?)


カノンが魔銃を発砲する寸前、ナイは「観察眼」の技能を発動させた。数々の強敵を倒したお陰でナイが覚えている技能の殆どは子供の事は比べ物にならない程に強化され、今のナイの動体視力ならば弾丸程の速さで動く物体も捉える事ができた。

数々の死線を乗り越えた事でナイは極限の集中力を身に付け、そのお陰で窮地に達した場合は信じられない思考速度を発揮し、冷静に考えられるようになった。この力はSPを消費して覚える技能の類ではなく、心眼と同様の特殊な能力だった。


(この色合いと輝きから魔石みたいだけど、変な形をしてるな。この速度で硬い物に当たれば砕けて大変なことが起きそうだ……さて、どうしようかな?)


迫りくる魔石弾の正体を観察眼の技能で見抜き、下手に触れれば無事では済まないと判断する。しかし、回避するのも危険な予感がするため、咄嗟に右腕に装着している反魔の盾を利用する。


(ここだ!!)


ナイは「剛力」を発動させて肉体の身体能力をある程度まで上昇させると、反魔の盾で魔石弾を下から押し上げる形で弾き返す。弾丸は反魔の盾に触れた瞬間、軌道が変化して上空に向かう。

反魔の盾は外部から受けた衝撃を跳ね返す性質を持ち、これを上手く利用すれば卵のように割れやすい物でも跳ね返す事ができる。しかし、軌道を反らすと言っても弾丸並の速度で動く物体を弾くなど常人には真似できない。

並外れた思考能力と身体能力を持つナイだからこそできた芸当であり、弾かれた魔石弾は上空へ移動すると、ある程度の高度まで到達すると勝手に罅割れて爆発する。その光景を見たカノンは愕然とするが、その一方でナイは上空で派手に爆発した魔石弾を見て冷や汗をかく。
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