貧弱の英雄

カタナヅキ

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番外編 獣人国の刺客

第875話 和国の子孫

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(ナイ君がもしもシノビ君とクノ君が暮らしていた里の出身だとしたら……その事実は隠しておいた方がいいか)


ナイが仮にシノビとクノと同じ出身だった場合、彼を捨てた両親はシノビたちと同様に和国の人間という事になる。それならばシノビとクノに聞けばナイの両親の手掛かりが掴めるかもしれないが、もしもナイが和国の旧領地の里に生まれた人間ならばあまりにも報われない。

仮にナイの両親が里の出身者だった場合、ナイは一方的に捨てられて森の中で魔物に殺される欠けるところ、偶然アルに見つかって保護された。そしてナイは以前に国王から褒美を受け取る際、自分ではなくてシノビの話を聞くように願った。

シノビの願いを国王に聞き遂げるようにナイが告げたのは善意からだが、もしもナイがシノビの一族が管理する里で生まれた人間の場合、知らず知らずにナイは自分を捨てた人間達のために手柄を手放して彼等に得になる願いを叶えた事になる。


(この事は黙っておこう……)


別にナイが自分の出生を知ったとしても今更彼が復讐を考えるような性格ではない事はアルトも知っているが、それでも彼とシノビとクノの関係に何らかの影響を与える可能性もあるため、アルトは隠し通す事にした。

そもそもアルトの推測はこれまでの情報を参考に推理した推論のため、ナイが和国の出身者という証拠はない。黒髪の人間は王国内では珍しい存在だが、別に全くいないというわけではなく、もしかしたらナイの両親は和国の里の人間ではない可能性も残っている。

しかし、ナイが捨てられた場所は辺境の地であり、アルが暮らしていた村以外には近くに人が住める場所はない。その事から考えてもアルトの推測は的外れだとは言い切れず、それでもアルトは黙っておくことにした――





――盛大な宴を終えた後、ナイは自分の部屋へ戻ると反魔の盾を取り出す。亡き親友の形見であり、現在は正式にナイが管理する事を許されている。


「ゴマン、僕もやっと16才になったよ……」


ナイはゴマンの事を思い返しながら反魔の盾を持ち上げた状態でベッドの上に横になり、盾を抱きしめながら眠りにつこうとした。だが、この時に誰かが扉をノックすると、ナイは不思議に思いながらも盾を置いて扉を開けた。


「はい、どなたですか?」
『あっ……えっと、ナイ君。中に入っていいかな?』
「その声は……リーナ?」


声を聞いて相手がリーナだと悟ったナイは扉を開くと、そこには緊張した様子のリーナが立っていた。彼女が自分の部屋に訪れた事にナイは驚くが、とりあえずは中に通す。

リーナはナイの部屋に入るの初めてであり、緊張した様子で背中に隠していた小包を取り出す。それを見たナイは不思議に思ったが、リーナは親友のアルトに作って貰ったお祝いの品を渡す。


「え、えっと……これ!!どうかナイ君に受け取ってほしい!!」
「えっ……でも、リーナからはもうお祝いの品は貰ってるよ」
「あ、あれはお父さんに頼まれた贈り物だよ。だから、僕の贈り物はこっち……受け取ってくれる?」


最初に宴が始まった時にナイは他の人間から色々と贈り物を貰い、この時にリーナとアッシュからはナイは水晶製の像を貰った。美術品としての価値が高い代物であり、売りに出せば恐らくは金貨数十枚の価値がある代物を受け取っている。

アッシュがリーナと共に用意した贈り物は今後も娘と仲良くしてほしいという気持ちもあるが、リーナとしては自分でも贈り物を用意したいと思い、幼馴染であるアルトに頼んで作ってもらった。アルトが制作に必要な素材はリーナが自分で集め、今のナイが一番必要としている魔道具を作り出す。


「これって……もしかして魔法腕輪?」
「う、うん……ナイ君が欲しい物と言ったらこれしかないとアルト君が言ってたから」


ナイは小包を開けると、そこには銀色に光り輝く魔法腕輪が収められていた。現在、ナイが所有している魔法腕輪よりも複雑な紋様と魔石が嵌め込まれており、見るからに価値の高そうな代物だった。


「これは……凄く綺麗だね。でも、こんなに高そうな物……」
「え、遠慮しないで受け取って!!ほら、ナイ君のお陰でこの国は救われたんだよ!?僕だって命を救って貰ったし、遠慮する事なんてないから!!」


断りそうな雰囲気を察したリーナはナイに魔法腕輪を押し付け、その彼女の勢いに押されてナイは魔法腕輪を受け取り、戸惑いながらも腕輪を覗き込む。


(これは……凄い力を持っているな)


触れただけでナイは魔法腕輪の性能を感じ取り、手にしただけで嵌め込まれている魔石の魔力を感じ取る事ができた。今まで利用していた魔法腕輪よりも性能が高く、この魔法腕輪ならば今まで以上に魔法剣を発動させる際に必要な魔力を引き出せると確信を抱く。


「本当にいいの?こんなに良い物を貰って……」
「全然いいよ!!あ、でもお礼ならアルト君にも言ってね……僕は素材を集めただけだから」
「それでも十分だよ。ありがとう、リーナ」
「う、うん……えへへ」


リーナはナイの感謝の言葉に素直に喜び、やがて彼女は意を決したようにナイと向き合う。緊張した様子でリーナはナイを見つめ、そんな彼女の態度にナイは戸惑う。

覚悟を決めたリーナがナイに告白しようとした時、ここで彼女はナイの窓の部屋の外に人影が映し出された事に気付く。この時にナイはリーナの表情を見て異変に気付き、後方を振り返るとそこには窓を開いて机の上に置かれた反魔の盾に手を伸ばす人物がいた。


「なっ!?」
「だ、誰!?」
「ちぃっ!!」


窓を開いて腕を伸ばしていた人物に向けてナイは駆け出すが、いちはやく相手の方が先に盾を手にしてしまい、そのまま盾を取り上げて外へ逃げ出す。


「しまった!!」
「ナイ君、追いかけよう!!」


ナイは窓から逃げた盗人を追うために窓に身を乗り出すと、続けてリーナも出て行こうとした。だが、彼女はナイの誕生日を祝うために今日は普段の動きやすい軽装ではなく、ドレスを身に付けていた事が仇になって足を引っかけてしまう。


「あうっ!?」
「リーナ!?」
「ぼ、僕の事は気にしないで……早く追いかけて!!」


反魔の盾を盗み出した人物は既に建物の屋根の上に目掛けて跳躍し、その様子を見てナイは相手の正体が運動能力の高い獣人族の仕業かと思う。リーナは心配だが、彼女の言う通りにここで追いかけなければ見失ってしまう。


「逃がすか!!」


俊足の技能を生かしてナイは後を追いかけ、屋根の上に逃げた盗人に跳躍の技能で自分も屋根の上に飛び乗る。火竜やシャドウとの戦闘を経てからナイの身体能力はさらに磨きが掛かり、屋根の上を跳び回る盗人との距離を詰めていく。

盗人の方は反魔の盾を抱きしめながら駆け抜け、この時にナイは相手の体型が妙に小さい事に気付き、不思議に思いながらも後を追う。だが、相手も中々に足が速く、身軽な動作で次々と別の建物へ飛び移っていく。


「へへ、追い付いてみろよ!!」
「君は……!?」


その声を聞いた途端、ナイは驚愕の表情を浮かべる。反魔の盾を盗み出した相手はどうやら獣人族の子供らしく、年齢は恐らくは10才程度だった。つまり、10才程度の子供がナイの部屋に忍び込み、リーナが気付くまでナイは彼女の気配を捉えられなかった。


(この子、何者だ……そういえばさっきから気配を全く感じない)


ナイは気配感知などの技能を覚えているにも関わらず、逃げ出す子供から気配の類は全く感じられなかった。ナイのように隠密などの技能を使用しているのかと思われたが、どうにも違和感を感じる。

しかし、ナイは一気に追いつくために瞬間加速を発動させ、距離を縮めようと足元に力を込める。逃げ出す子供に向けてナイは踏み込もうとした時、ここで子供はナイの向かい側に存在する建物の屋根の上に立ち止まった。


「よし、ここらでいいか……ほらよっ!!」
「なっ!?」


少年は何を考えたのか反魔の盾を建物の下の街道に目掛けて投げ飛ばし、それを見たナイは咄嗟に回収するために建物から飛び降りた。落下する反魔の盾を掴もうとナイは腕を伸ばすが、この時に屋根の上の少年は笑みを浮かべて自分の指を手繰り寄せる。


「引っかかった!!」
「うわっ!?」


どうやら事前に反魔の盾に糸を括り付けていたらしく、空中でナイが反魔の盾を掴む寸前で少年は糸を手繰り寄せ、自分の元に引き返す。この時にナイは地上へ着地したが、街道の方から馬車が近付いていた。


「ヒヒンッ!?」
「う、うわぁっ!?」
「くっ!?」
「ほら、轢かれるぞ!!」


迫りくる馬車を見てナイは嵌められた事を知り、少年は街道に馬車が走っている事を知って反魔の盾を投げ捨てた事に気付く。こんな単純な罠に引っかかった事にナイは憤るが、反射的にナイは地面を転がって馬車を回避する。

どうにか馬車を避ける事に成功したナイだったが、屋根の上を見上げると既に少年は消えており、逃げ出していた様子だった。ナイは怒りを抱きながらも後を追いかけようとすると、この時に彼は「心眼」を発動させた。


(何処に消えた……!!)


特殊技能の心眼は五感を研ぎ澄ませ、気配感知などにも反応しない能力を持つ敵でさえも見抜く事ができる。心眼を発動させてナイは少年の行方を捜すと、少し離れた場所に動く物体を感知する。

心眼を頼りにナイは追跡を再開すると、相手はナイを完全に撒いたと油断しているのか、建物から降りて路地裏の方へと移動を行う。以前にナイがヒイロ達と最初に出会った建物に囲まれた空き地に向けて移動しており、すぐにナイは後を追う。
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