貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
891 / 1,110
番外編 獣人国の刺客

第875話 和国の子孫

しおりを挟む
(ナイ君がもしもシノビ君とクノ君が暮らしていた里の出身だとしたら……その事実は隠しておいた方がいいか)


ナイが仮にシノビとクノと同じ出身だった場合、彼を捨てた両親はシノビたちと同様に和国の人間という事になる。それならばシノビとクノに聞けばナイの両親の手掛かりが掴めるかもしれないが、もしもナイが和国の旧領地の里に生まれた人間ならばあまりにも報われない。

仮にナイの両親が里の出身者だった場合、ナイは一方的に捨てられて森の中で魔物に殺される欠けるところ、偶然アルに見つかって保護された。そしてナイは以前に国王から褒美を受け取る際、自分ではなくてシノビの話を聞くように願った。

シノビの願いを国王に聞き遂げるようにナイが告げたのは善意からだが、もしもナイがシノビの一族が管理する里で生まれた人間の場合、知らず知らずにナイは自分を捨てた人間達のために手柄を手放して彼等に得になる願いを叶えた事になる。


(この事は黙っておこう……)


別にナイが自分の出生を知ったとしても今更彼が復讐を考えるような性格ではない事はアルトも知っているが、それでも彼とシノビとクノの関係に何らかの影響を与える可能性もあるため、アルトは隠し通す事にした。

そもそもアルトの推測はこれまでの情報を参考に推理した推論のため、ナイが和国の出身者という証拠はない。黒髪の人間は王国内では珍しい存在だが、別に全くいないというわけではなく、もしかしたらナイの両親は和国の里の人間ではない可能性も残っている。

しかし、ナイが捨てられた場所は辺境の地であり、アルが暮らしていた村以外には近くに人が住める場所はない。その事から考えてもアルトの推測は的外れだとは言い切れず、それでもアルトは黙っておくことにした――





――盛大な宴を終えた後、ナイは自分の部屋へ戻ると反魔の盾を取り出す。亡き親友の形見であり、現在は正式にナイが管理する事を許されている。


「ゴマン、僕もやっと16才になったよ……」


ナイはゴマンの事を思い返しながら反魔の盾を持ち上げた状態でベッドの上に横になり、盾を抱きしめながら眠りにつこうとした。だが、この時に誰かが扉をノックすると、ナイは不思議に思いながらも盾を置いて扉を開けた。


「はい、どなたですか?」
『あっ……えっと、ナイ君。中に入っていいかな?』
「その声は……リーナ?」


声を聞いて相手がリーナだと悟ったナイは扉を開くと、そこには緊張した様子のリーナが立っていた。彼女が自分の部屋に訪れた事にナイは驚くが、とりあえずは中に通す。

リーナはナイの部屋に入るの初めてであり、緊張した様子で背中に隠していた小包を取り出す。それを見たナイは不思議に思ったが、リーナは親友のアルトに作って貰ったお祝いの品を渡す。


「え、えっと……これ!!どうかナイ君に受け取ってほしい!!」
「えっ……でも、リーナからはもうお祝いの品は貰ってるよ」
「あ、あれはお父さんに頼まれた贈り物だよ。だから、僕の贈り物はこっち……受け取ってくれる?」


最初に宴が始まった時にナイは他の人間から色々と贈り物を貰い、この時にリーナとアッシュからはナイは水晶製の像を貰った。美術品としての価値が高い代物であり、売りに出せば恐らくは金貨数十枚の価値がある代物を受け取っている。

アッシュがリーナと共に用意した贈り物は今後も娘と仲良くしてほしいという気持ちもあるが、リーナとしては自分でも贈り物を用意したいと思い、幼馴染であるアルトに頼んで作ってもらった。アルトが制作に必要な素材はリーナが自分で集め、今のナイが一番必要としている魔道具を作り出す。


「これって……もしかして魔法腕輪?」
「う、うん……ナイ君が欲しい物と言ったらこれしかないとアルト君が言ってたから」


ナイは小包を開けると、そこには銀色に光り輝く魔法腕輪が収められていた。現在、ナイが所有している魔法腕輪よりも複雑な紋様と魔石が嵌め込まれており、見るからに価値の高そうな代物だった。


「これは……凄く綺麗だね。でも、こんなに高そうな物……」
「え、遠慮しないで受け取って!!ほら、ナイ君のお陰でこの国は救われたんだよ!?僕だって命を救って貰ったし、遠慮する事なんてないから!!」


断りそうな雰囲気を察したリーナはナイに魔法腕輪を押し付け、その彼女の勢いに押されてナイは魔法腕輪を受け取り、戸惑いながらも腕輪を覗き込む。


(これは……凄い力を持っているな)


触れただけでナイは魔法腕輪の性能を感じ取り、手にしただけで嵌め込まれている魔石の魔力を感じ取る事ができた。今まで利用していた魔法腕輪よりも性能が高く、この魔法腕輪ならば今まで以上に魔法剣を発動させる際に必要な魔力を引き出せると確信を抱く。


「本当にいいの?こんなに良い物を貰って……」
「全然いいよ!!あ、でもお礼ならアルト君にも言ってね……僕は素材を集めただけだから」
「それでも十分だよ。ありがとう、リーナ」
「う、うん……えへへ」


リーナはナイの感謝の言葉に素直に喜び、やがて彼女は意を決したようにナイと向き合う。緊張した様子でリーナはナイを見つめ、そんな彼女の態度にナイは戸惑う。

覚悟を決めたリーナがナイに告白しようとした時、ここで彼女はナイの窓の部屋の外に人影が映し出された事に気付く。この時にナイはリーナの表情を見て異変に気付き、後方を振り返るとそこには窓を開いて机の上に置かれた反魔の盾に手を伸ばす人物がいた。


「なっ!?」
「だ、誰!?」
「ちぃっ!!」


窓を開いて腕を伸ばしていた人物に向けてナイは駆け出すが、いちはやく相手の方が先に盾を手にしてしまい、そのまま盾を取り上げて外へ逃げ出す。


「しまった!!」
「ナイ君、追いかけよう!!」


ナイは窓から逃げた盗人を追うために窓に身を乗り出すと、続けてリーナも出て行こうとした。だが、彼女はナイの誕生日を祝うために今日は普段の動きやすい軽装ではなく、ドレスを身に付けていた事が仇になって足を引っかけてしまう。


「あうっ!?」
「リーナ!?」
「ぼ、僕の事は気にしないで……早く追いかけて!!」


反魔の盾を盗み出した人物は既に建物の屋根の上に目掛けて跳躍し、その様子を見てナイは相手の正体が運動能力の高い獣人族の仕業かと思う。リーナは心配だが、彼女の言う通りにここで追いかけなければ見失ってしまう。


「逃がすか!!」


俊足の技能を生かしてナイは後を追いかけ、屋根の上に逃げた盗人に跳躍の技能で自分も屋根の上に飛び乗る。火竜やシャドウとの戦闘を経てからナイの身体能力はさらに磨きが掛かり、屋根の上を跳び回る盗人との距離を詰めていく。

盗人の方は反魔の盾を抱きしめながら駆け抜け、この時にナイは相手の体型が妙に小さい事に気付き、不思議に思いながらも後を追う。だが、相手も中々に足が速く、身軽な動作で次々と別の建物へ飛び移っていく。


「へへ、追い付いてみろよ!!」
「君は……!?」


その声を聞いた途端、ナイは驚愕の表情を浮かべる。反魔の盾を盗み出した相手はどうやら獣人族の子供らしく、年齢は恐らくは10才程度だった。つまり、10才程度の子供がナイの部屋に忍び込み、リーナが気付くまでナイは彼女の気配を捉えられなかった。


(この子、何者だ……そういえばさっきから気配を全く感じない)


ナイは気配感知などの技能を覚えているにも関わらず、逃げ出す子供から気配の類は全く感じられなかった。ナイのように隠密などの技能を使用しているのかと思われたが、どうにも違和感を感じる。

しかし、ナイは一気に追いつくために瞬間加速を発動させ、距離を縮めようと足元に力を込める。逃げ出す子供に向けてナイは踏み込もうとした時、ここで子供はナイの向かい側に存在する建物の屋根の上に立ち止まった。


「よし、ここらでいいか……ほらよっ!!」
「なっ!?」


少年は何を考えたのか反魔の盾を建物の下の街道に目掛けて投げ飛ばし、それを見たナイは咄嗟に回収するために建物から飛び降りた。落下する反魔の盾を掴もうとナイは腕を伸ばすが、この時に屋根の上の少年は笑みを浮かべて自分の指を手繰り寄せる。


「引っかかった!!」
「うわっ!?」


どうやら事前に反魔の盾に糸を括り付けていたらしく、空中でナイが反魔の盾を掴む寸前で少年は糸を手繰り寄せ、自分の元に引き返す。この時にナイは地上へ着地したが、街道の方から馬車が近付いていた。


「ヒヒンッ!?」
「う、うわぁっ!?」
「くっ!?」
「ほら、轢かれるぞ!!」


迫りくる馬車を見てナイは嵌められた事を知り、少年は街道に馬車が走っている事を知って反魔の盾を投げ捨てた事に気付く。こんな単純な罠に引っかかった事にナイは憤るが、反射的にナイは地面を転がって馬車を回避する。

どうにか馬車を避ける事に成功したナイだったが、屋根の上を見上げると既に少年は消えており、逃げ出していた様子だった。ナイは怒りを抱きながらも後を追いかけようとすると、この時に彼は「心眼」を発動させた。


(何処に消えた……!!)


特殊技能の心眼は五感を研ぎ澄ませ、気配感知などにも反応しない能力を持つ敵でさえも見抜く事ができる。心眼を発動させてナイは少年の行方を捜すと、少し離れた場所に動く物体を感知する。

心眼を頼りにナイは追跡を再開すると、相手はナイを完全に撒いたと油断しているのか、建物から降りて路地裏の方へと移動を行う。以前にナイがヒイロ達と最初に出会った建物に囲まれた空き地に向けて移動しており、すぐにナイは後を追う。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された「霧崎ルノ」彼を召還したのはバルトロス帝国の33代目の皇帝だった。現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が帝国領土に出現し、数多くの人々に被害を与えていた。そのために皇帝は魔王軍に対抗するため、帝国に古から伝わる召喚魔法を利用して異世界から「勇者」の素質を持つ人間を呼び出す。しかし、どういう事なのか召喚されたルノはこの帝国では「最弱職」として扱われる職業の人間だと発覚する。 彼の「初級魔術師」の職業とは普通の魔術師が覚えられる砲撃魔法と呼ばれる魔法を覚えられない職業であり、彼の職業は帝国では「最弱職」と呼ばれている職業だった。王国の人間は自分達が召喚したにも関わらずに身勝手にも彼を城外に追い出す。 だが、追い出されたルノには「成長」と呼ばれる能力が存在し、この能力は常人の数十倍の速度でレベルが上昇するスキルであり、彼は瞬く間にレベルを上げて最弱の魔法と言われた「初級魔法」を現実世界の知恵で工夫を重ねて威力を上昇させ、他の職業の魔術師にも真似できない「形態魔法」を生み出す―― ※リメイク版です。付与魔術師や支援魔術師とは違う職業です。前半は「最強の職業は付与魔術師かもしれない」と「最弱職と追い出されたけど、スキル無双で生き残ります」に投稿していた話が多いですが、後半からは大きく変わります。 (旧題:最弱職の初級魔術師ですが、初級魔法を極めたら何時の間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。)

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...