貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
838 / 1,110
王国の闇

第822話 因縁の決着

しおりを挟む
――アルトによって吹き飛ばされたリザードゴブリンは造船所から離れた闘技場近くの街道まで飛ばされ、派手に地面に叩き付けられた。死霊人形でなければ死んでもおかしくはない程の衝撃を受け、リザードゴブリンの肉体は歪な形に折れ曲がる。


「シャギャアッ……!?」
「ひいいっ!?ま、魔物だぁっ!?」
「ど、どうして上から落ちてきたんだ!?」
「馬鹿、そんなのいいから取り囲め!!大分弱っている様子だぞ!!」


街道には警備兵達が巡回しており、急に落ちてきたリザードゴブリンに対して警戒する。その一方でリザードゴブリンの方は身体を痛めながらも起き上がり、直後に肉体に異変が生じた。


「グゥウウウッ……!!」
「う、うわっ!?な、何だこいつは!?」
「ほ、骨が……!?」


衝突の際にあちこち折れ曲がっていた肉体が徐々に戻り始め、やがて元の姿へと戻る。肉体を動かす闇属性の魔力が無理やりに折れた骨を元に戻し、怪我を闇属性の魔力で覆い込む。

リザードゴブリンは元通りの姿に戻ると、怒りの表情を浮かべながら自分を取り囲む警備兵達に視線を向けた。正直に言えば自分をこんな目に遭わせたアルトを殺しに向かいたい所だが、まずはこの邪魔者たちを蹴散らそうとリザードゴブリンは動き出す。


「シャアアッ!!」
「ひいいっ!?」
「こ、殺されるぅっ!?」
「お退きなさい!!」


あまりのリザードゴブリンの迫力に警備兵が怖気づく中、ここで何者かがリザードゴブリンの前に立ちはだかり、真紅のランスを突き出す。


「爆槍!!」
「ギャアアアアアッ!?」
「ド、ドリス様!?」


ランスがリザードゴブリンの身体に的中した瞬間に爆発が発生し、リザードゴブリンは派手に吹き飛ぶ。その光景を見て警備兵達は歓喜の声を上げ、魔槍「真紅」を携えたドリスは笑みを浮かべる。


「ふふふっ……ここにあった死体が残っていなかったからまさとかは思いましたが、やはりまだ生きていたのですね」
「シャギャアッ……!?」


ドリスは闘技場の周辺を調査した時、彼女は他の者達と違って魔物の死体の中からリザードマンとリザードゴブリンの姿がない事に気付いていた。

死体の処理をしていた人間から聞いた話によると、最初からこの場所にはドリスの語る二匹の死体などなかったという。そのため、彼女だけはいち早くリザードマンとリザードゴブリンが生きている事を確信する。


「丁度良かったですわ。私、やられっぱなしなのは我慢できませんの……ここで決着をつけてやりますわ!!」
「シャギャアッ……!!」
「貴方達は下がりなさい!!正直に言って邪魔ですわ!!」
「「「は、はい!!」」」


警備兵を下がらせると、改めてドリスはリザードゴブリンと向かい合う。リザードゴブリンの方もドリスの事は覚えており、彼女から受けた爆槍によってリザードゴブリンの身体には火炎を纏っていた。

この時にリザードゴブリンはアルトの時の様に自分の身体に纏った火炎を喰らい、それを死霊石に送り込む。するとリザードゴブリンの口元から黒い炎が迸り、それを見たドリスは眉をしかめる。


「何ですの、その薄気味悪い炎は……」
「アガァッ……!!」


ドリスに対してリザードゴブリンは顎が外れな兼ねない程に口を開くと、口内から黒炎を放射しようとした。しかし、それに対してドリスは真紅を構えると、全く動じた様子も見せない。



――アガァアアアアッ!!



遂にリザードゴブリンはドリスに対して黒炎を放つと、一直線に彼女の元に黒炎は迫る。それに対してドリスは足元に力を込めると、ランスを握りしめて槍を突き出す。


「はあああああっ!!」
「ッ――――!?」


リザードゴブリンにとっては信じがたい事にドリスは黒炎の中に自ら突っ込み、そのまま彼女は黒炎を蹴散らしながら突き進む。あまりの光景にリザードゴブリンは理解が追いつかない。

自ら焼かれに来たのかと思う程にドリスの行動は常軌を逸した行為であり、普通の人間ならば自殺行為にしか思えないだろう。だが、黒炎の中からランスが飛び出すと黒炎を纏ったドリスがリザードゴブリンの口内に向けて刃先を繰り出す。


「ふぁいやぁあああっ!!」
「オゴォッ!?」


少し変わった気合の雄叫びを上げながらドリスは真紅をリザードゴブリンの口内に突き刺すと、出入口を塞がれた事で黒炎はリザードゴブリンの体内に広まり、やがて胸元から上の部分が膨らんで内側から破裂する。

リザードゴブリンは断末魔の悲鳴を上げる暇もなく上半身が吹き飛び、残されたのは残骸と死霊石だけであった。ドリスは身体に纏った黒炎を振り払うと、彼女は火傷一つ負った様子はなく、外に飛び出した死霊石を見下ろしながら告げる。


「生憎と私に炎は効きませんわ……フレア公爵家は代々、火や熱に対して絶対の耐性を持ってますから」


勝利を確信した笑みを浮かべるとドリスはリザードゴブリンの死霊石に目掛けてランスを突き刺し、破壊に成功した――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

処理中です...