貧弱の英雄

カタナヅキ

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王国の闇

第821話 アルトの奥の手

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「んなぁっ!?」


迫りくる船の残骸に対してアルトは奇声を上げてしまい、反射的に彼は最後の魔石弾を放つ。発射された魔石弾はリザードゴブリンが投げ飛ばした船の残骸に衝突すると、爆発を引き起こす。

もしもアルトがリザードゴブリンの怪力で投げ放たれた残骸を受けていた場合、即死は免れなかっただろう。しかし、彼は自分の身を守るために遂に最後の魔石弾を使用してしまった。

爆炎によって残骸は粉々に吹き飛び、黒煙が舞い上がる。その光景を見てアルトは愕然としていると、黒煙を振り払いながらリザードゴブリンが姿を現す。


「シャギャアアッ!!」
「っ――!?」


リザードゴブリンはアルトに魔石弾を使用させると、今度は自らが黒煙に紛れて接近する。その姿を見てアルトは驚愕し、咄嗟に右腕のボーガンを構えた。しかし、既にボーガンには魔石弾は装填されていない。

勝利を確信したリザードゴブリンはアルトの身体に喰らいつこうとした時、アルトが向けるボーガンの方向が自分ではない事に気付く。アルトは何故か飛行船の方に向けて腕を伸ばし、手元で操作を行う。


「ここだっ!!」
「シャギャアッ!?」


アルトは手元を曲げた瞬間、腕手甲に装着していたボーガンが凄まじい勢いで吹っ飛び、そのまま飛行船の壁へ突き刺さる。この時までリザードゴブリンは気付いていなかったが、ボーガンの先端部分は金属であり、非常に尖っていた。



――実を言えばアルトが作り出したこちらのボーガンは腕手甲と組み合わせる事で真の効果を発揮し、アルトがナイの闘拳に組み込んだ「フックショット」も搭載していた。



ボーガンが船の壁に突き刺さった瞬間にアルトは腕手甲に装着していた風属性の魔石を操作すると、ボーガンと腕手甲に取り付けられた鋼線が引き寄せられ、アルトの身体が浮き上がる。

リザードゴブリンの牙はアルトの身体を掠る事もできず、そのままアルトは船の壁に目掛けて移動を行う。あまりに勢いが強すぎてアルトは顔面からぶつかってしまい、鼻血を噴き出す。


「ぶふぅっ!?」
「シャギャアッ……!?」


アルトは鼻を抑えながらもどうにか逃げる事に成功すると、リザードゴブリンはその姿を確認して愕然とするが、すぐに目つきを鋭くさせて彼に向けて飛び掛かろうとした。


「シャギャアアッ!!」
「……かかったなっ!!」


フックショットを利用して逃げたとしてもリザードゴブリンが追いかけてくる事はアルトも予測しており、リザードゴブリンの行動を確認したアルトは即座に腕手甲を解除すると、彼は地面に向けて落下する。

リザードゴブリンは勢いを止められずに壁に激突する寸前、慌てて自分の手足の爪を利用して壁に留まる。まるでヤモリのように張り付くリザードゴブリンの姿は滑稽だが、それを見てアルトは笑みを浮かべた。


「僕の勝ちだっ!!」
「シャッ……!?」


落下しながらも勝利を確信したようにアルトは微笑むと、その直後にリザードマンの耳元に何かが砕ける音が届いた。リザードゴブリンは顔を向けると、そこには飛行船の壁に突き刺さったボーガンと、それを鋼線でつなぎ合わせた腕手甲が存在した。

この時に腕手甲に装着された風属性の魔石に亀裂が入り、それを見たリザードゴブリンは目を見開く。落下する前にアルトは腕手甲に最初から装着していた風属性の魔石に細工を施す。

反射的にリザードゴブリンは逃げ出そうとしたが、その手足の爪は飛行船の壁に食い込み、簡単には抜け出せない。そのため、リザードゴブリンは逃げる事も出来ずに至近距離から風属性の魔石の暴発によって発生した風圧を受けた。



――ギャアアアッ!?



最後は人間のような悲鳴を上げながらリザードゴブリンは派手に吹き飛び、造船所の天井をも突き破って遠方へと吹き飛ぶ。この際にアルトは既に床に倒れていたが、彼は満足気な表情を浮かべた。


「い、生き残れた……ははっ、これで皆に話せる自慢話が出来たな……」


自分がリザードゴブリンを撃退する事に成功した事に安堵すると、アルトはそのまま意識を失う――





――時は少し前に遡り、白狼騎士団は冒険者達と共に行動していた。白狼騎士団は最も団員が少ないため、黄金級冒険者のリーナとガオウが参加し、他にもクノがクロを連れて同行してくれた。


「ハマーンさん、急に行っちゃったけど……大丈夫かな?」
「こんな時にアルト王子と一緒に何処へ行かれたのでしょうか……」
「爺さんと一緒なら平気だろ、ああ見えても腕利きだからな!!それよりも今は任務に集中しろ!!」
「ガオウ殿の言う通りでござるな、今は他人の心配をしている場合ではないでござる!!」


商業区の地下に存在する白面の施設へ向かい、白狼騎士団と冒険者達は動いていた。ちなみにシノビはリノの元へ戻って彼女の護衛を行う。リノがまた命を狙われている可能性もあるため、彼女を守る人間は必要不可欠だった。

商業区は冒険者ギルドが存在するため、ここの地区だけが最も被害を最小限に抑えられていた。白面も冒険者を相手にするのは避けたいらしく、シンも冒険者を危険視したからこそ、王命などと偽って冒険者達を警備兵に抑えつけていたのだろう。

最もその冒険者の中で誰よりも大きな戦力になるはずの黄金級冒険者のゴウカとマリンは行方知れずであり、未だに二人が何処にいるのか判明していない。特にゴウカは放ってはおけず、ガオウも彼に敗れた事を思い出して腹立たしく思う。


(あの野郎、今度また現れたら覚えておけよ……おっと、今は仕事に集中しないとな)


ゴウカに対して腹を立てながらも一番の年長者であるガオウは心を落ち着かせ、白狼騎士団と他の冒険者と共に下水道の出入口を探す。しかし、その途中で彼等の前に予想外の存在が立ちはだかる。


「「「シャアアッ!!」」」
「なっ!?は、白面!?」
「まだ居たの……しつこい」
「ねえ、止めてよ!!貴方達を救う解毒薬はもう完成してるんだよ!?」


白面の集団が白狼騎士団と冒険者達の前に現れ、そんな彼等に対してリーナは慌てて解毒薬の存在を明かす。だが、その言葉に対して白面の内の一人が口を開く。


「解毒薬?そんな都合が良い物があるはずないだろう……我々は騙されんぞ」
「お前等のせいであの御方は死んだ……ならば我々の命運も尽きたも同然だ」
「殺してやる、一人でも多くな!!」
「ちっ……聞く耳持たねえか」


リーナの話を聞いても白面達は信用せず、確かに彼等からすれば自分達を指示していた人間が消え去り、そして自分達を何年も苦しめ続けてきた毒薬から解放すると言われても信用できるはずがない。

解毒薬の存在を知っているのはシンとイシとイリアの3人だけであり、白面の間では自分達を苦しめる毒を完全に解毒するための薬が存在するなど知らなかった。だからこそ彼等はリーナ達の話に聞く耳を持たない。自分達の人生を狂わせた毒薬の解毒薬がそう簡単に手に入るはずがない。


「お前達は道連れだ……一人でも多く殺せ!!」
「「「シャアッ!!」」」
「く、狂っている……」
「……可哀想」
「同情している暇なんてあるか!!おい、いくぞ!!」


迫りくる白面に対してガオウは武器を抜き、他の者達も交戦は避けられないと判断して構えた――
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