790 / 1,110
王国の闇
第775話 計画の最終段階
しおりを挟む
――同時刻、王都の王城ではシンは国王の代わりに兵士達の報告を聞いて対処を行う。騒動を引き起こしている張本人であるにも関わらず、彼は迅速に行動を行う。
「宰相!!一般区の隔離を完了しました!!工場区の方も間もなく終了するとの事です!!」
「住民の避難も問題なく進んでおります」
「そうか……南門の状況はどうなっておる?」
「アルト王子を人質にした盗賊は現在逃走中です!!」
「王子だけは何としても取り返せ、盗賊の方は見つけ次第に始末しろ」
兵士からの報告を受けたシンは表向きは事態の解決のために動いているが、実際には騒動を引き起こしているのは彼自身であり、これらの指示も全てシンに都合がいいように進んでいる。
国王が目を覚ますまでの間はシンが指揮権を持ち、バッシュもリノもアルトも居ない状態では彼を止める人間はいない。宰相としてシンは王都で起きた騒動の解決に尽力するが、実際は彼の一人芝居に過ぎない。
(もう間もなくのはずだが……)
シンは空を見上げ、もうすぐに昼を迎えようとしている事に気付く。この時に城壁の方で見張りを行う兵士から報告が届く。
「吉報です!!もう間もなく、猛虎騎士団が帰還するそうでございます!!」
「そうか、遂に帰って来たか」
「「「おおっ!!」」」
猛虎騎士団が帰還するという報告に王城内の兵士や家臣は喜びの声を上げ、王国内でも最強の王国騎士団が戻ってくるという事であればこれ以上に心強い存在はいない。そしてシンだけは計画の最終段階を迎えようとしている事を察する。
――猛虎騎士団が到着する前にシンはシャドウと連絡を取り、彼に計画の最終段階を迎えた事を知らせる必要があった。猛虎騎士団のロランはこの国では最も国王と民衆からも信頼が厚いが、更に彼を「英雄」に仕立て上げるために宰相はシャドウを利用して最強の「敵」を用意させていた。
英雄とは人々に崇められる存在でなければならず、その英雄を作り出すには必然的に人々を脅かす存在を用意する必要があった。そのためにシンはシャドウに命じて彼に二つの死体を用意させる。
これからシャドウは死霊術を行使し、最強の二人の剣士を蘇らせる。どちらもかつてはこの国どころか他国にも名前が知れ渡った有名な人物であり、現代最強の冒険者であるゴウカでさえも討ち取れる力を持つとシンは確信していた。
(頼んだぞ、シャドウよ……これを成せば儂の役目は終わる、その時は――)
シンは自分が役目を終えた後の事を考えようとした時、彼の前に思いがけない人物が姿を現す。
「宰相、随分とご機嫌のようじゃな。こんな時だというのに……」
「……何?」
声が聞こえた方向にシンは顔を向けると、そこに立っていたのはこの場には存在しないはずの人間だった。否、正確には彼女は人間ではなく森人族であり、シンの前に現れたのは魔導士であるマホだった。
「おおっ、マホ魔導士!!お戻りでしたか!!」
「魔導士殿が来てくれた!!これで安心できますな!!」
「しかし、今までいったい何処に居られたのですか?」
「うむ、こちらも色々とあってな……遅れて申し訳ない」
マホが現れるとその場に存在した兵士と家臣は歓声を上げ、魔導士であるマホが来てくれただけで心強い。しかし、シンはマホが現れた事に動揺を隠せず、報告によれば昨日の晩にマホは王城へ向かう馬車から逃げ出して姿を消したと聞いていた。
聖女騎士団と行動を共にしていたマホは白猫亭を見張っていた警備兵を騙し、馬車で王城へ向かう途中で兵士達を気絶させ、そのまま姿を消したとだけシンは聞いていた。それにも関わらずにマホがこの王城内に存在する事にシンは戸惑いを隠せない。
(何故、この者がここにいる……!?)
報告を聞いていたシンはマホが市街地に身を隠すと思ったが、堂々と王城に戻ってきている事に動揺を隠せない。しかも現在のマホの顔色を確認する限り、不思議な事に彼女は体調を回復していた。
「マホ魔導士、お身体の方は……」
「うむ、見ての通りじゃ。完全に回復したわけではないが、これならば十分に私も戦えるぞ」
「おおっ、それは心強い!!」
「頼りにしてますぞ、魔導士殿!!」
「はっはっはっ、調子のいい奴等め」
マホは本当に体調が戻ったらしく、騒ぎ立てる家臣や兵士を前にして余裕の笑みを浮かべ、それが演技のようには見えなかったシンはすぐにある結論に至る。彼は拳を握りしめ、近くに隠れているであろう人物を呼び出す。
「イシ!!イリア!!姿を現せ!!」
「さ、宰相!?」
「急にどうされたのですか!?」
イリアの名前を口にした宰相に他の者が驚くが、そんな彼の態度を見てマホは表情を一変させ、彼女は指を鳴らす。すると何処からかイリアが姿を現し、更に彼女の隣にはイシも立っていた。
「宰相!!一般区の隔離を完了しました!!工場区の方も間もなく終了するとの事です!!」
「住民の避難も問題なく進んでおります」
「そうか……南門の状況はどうなっておる?」
「アルト王子を人質にした盗賊は現在逃走中です!!」
「王子だけは何としても取り返せ、盗賊の方は見つけ次第に始末しろ」
兵士からの報告を受けたシンは表向きは事態の解決のために動いているが、実際には騒動を引き起こしているのは彼自身であり、これらの指示も全てシンに都合がいいように進んでいる。
国王が目を覚ますまでの間はシンが指揮権を持ち、バッシュもリノもアルトも居ない状態では彼を止める人間はいない。宰相としてシンは王都で起きた騒動の解決に尽力するが、実際は彼の一人芝居に過ぎない。
(もう間もなくのはずだが……)
シンは空を見上げ、もうすぐに昼を迎えようとしている事に気付く。この時に城壁の方で見張りを行う兵士から報告が届く。
「吉報です!!もう間もなく、猛虎騎士団が帰還するそうでございます!!」
「そうか、遂に帰って来たか」
「「「おおっ!!」」」
猛虎騎士団が帰還するという報告に王城内の兵士や家臣は喜びの声を上げ、王国内でも最強の王国騎士団が戻ってくるという事であればこれ以上に心強い存在はいない。そしてシンだけは計画の最終段階を迎えようとしている事を察する。
――猛虎騎士団が到着する前にシンはシャドウと連絡を取り、彼に計画の最終段階を迎えた事を知らせる必要があった。猛虎騎士団のロランはこの国では最も国王と民衆からも信頼が厚いが、更に彼を「英雄」に仕立て上げるために宰相はシャドウを利用して最強の「敵」を用意させていた。
英雄とは人々に崇められる存在でなければならず、その英雄を作り出すには必然的に人々を脅かす存在を用意する必要があった。そのためにシンはシャドウに命じて彼に二つの死体を用意させる。
これからシャドウは死霊術を行使し、最強の二人の剣士を蘇らせる。どちらもかつてはこの国どころか他国にも名前が知れ渡った有名な人物であり、現代最強の冒険者であるゴウカでさえも討ち取れる力を持つとシンは確信していた。
(頼んだぞ、シャドウよ……これを成せば儂の役目は終わる、その時は――)
シンは自分が役目を終えた後の事を考えようとした時、彼の前に思いがけない人物が姿を現す。
「宰相、随分とご機嫌のようじゃな。こんな時だというのに……」
「……何?」
声が聞こえた方向にシンは顔を向けると、そこに立っていたのはこの場には存在しないはずの人間だった。否、正確には彼女は人間ではなく森人族であり、シンの前に現れたのは魔導士であるマホだった。
「おおっ、マホ魔導士!!お戻りでしたか!!」
「魔導士殿が来てくれた!!これで安心できますな!!」
「しかし、今までいったい何処に居られたのですか?」
「うむ、こちらも色々とあってな……遅れて申し訳ない」
マホが現れるとその場に存在した兵士と家臣は歓声を上げ、魔導士であるマホが来てくれただけで心強い。しかし、シンはマホが現れた事に動揺を隠せず、報告によれば昨日の晩にマホは王城へ向かう馬車から逃げ出して姿を消したと聞いていた。
聖女騎士団と行動を共にしていたマホは白猫亭を見張っていた警備兵を騙し、馬車で王城へ向かう途中で兵士達を気絶させ、そのまま姿を消したとだけシンは聞いていた。それにも関わらずにマホがこの王城内に存在する事にシンは戸惑いを隠せない。
(何故、この者がここにいる……!?)
報告を聞いていたシンはマホが市街地に身を隠すと思ったが、堂々と王城に戻ってきている事に動揺を隠せない。しかも現在のマホの顔色を確認する限り、不思議な事に彼女は体調を回復していた。
「マホ魔導士、お身体の方は……」
「うむ、見ての通りじゃ。完全に回復したわけではないが、これならば十分に私も戦えるぞ」
「おおっ、それは心強い!!」
「頼りにしてますぞ、魔導士殿!!」
「はっはっはっ、調子のいい奴等め」
マホは本当に体調が戻ったらしく、騒ぎ立てる家臣や兵士を前にして余裕の笑みを浮かべ、それが演技のようには見えなかったシンはすぐにある結論に至る。彼は拳を握りしめ、近くに隠れているであろう人物を呼び出す。
「イシ!!イリア!!姿を現せ!!」
「さ、宰相!?」
「急にどうされたのですか!?」
イリアの名前を口にした宰相に他の者が驚くが、そんな彼の態度を見てマホは表情を一変させ、彼女は指を鳴らす。すると何処からかイリアが姿を現し、更に彼女の隣にはイシも立っていた。
0
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草
ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)
10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。
親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。
同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……──
※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました!
※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~
平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。
三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。
そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。
アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。
襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。
果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる