貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
88 / 1,110
忌み子と呼ばれた少年

第88話 二年前とは違う

しおりを挟む
(迎撃が使えないなんて……いや、そんなの関係ない!!)


戦闘では最も役立っていた迎撃の技能が使用できない事はナイも誤算だったが、迎撃以外にも戦闘に役立つ技能はいくらでもある。

刃に毒をこびり付けた刺剣をナイは握りしめ、迎撃に頼れずとも攻撃を仕掛ける事は止めない。しかし、ナイが仕掛ける前に赤毛熊は両腕を振りかざす。


「ガアッ!!」
「くっ!?」


赤毛熊の攻撃をナイは跳躍の技能を生かして後方に跳んで回避し、その一方で赤毛熊はちょこまかと動くナイに対して苛立ちを抱く。赤毛熊の攻撃が当たればナイなど一撃で倒せるだろうが、その攻撃が当たらなければ意味はない。


「グゥウウウッ……!!」
「どうした、かかってこいよ……そんなに俺が怖いのか!!」


無暗に攻撃しても意味はないと悟ったのか、赤毛熊はナイの様子を伺うように四つん這いの状態から動かなくなった。その様子を見てナイは挑発じみた言葉を欠けるが、当然だが赤毛熊には言葉は通じない。

自分の事を観察するように見つめてくる赤毛熊に対し、嫌な感覚を覚えながらもナイは懐に手を伸ばす。そして以前にも利用した目潰しをしかけようとした。


「このっ!!」
「ウガァッ!?」


粉薬が入った小壺をナイは取り出すと、それを見た赤毛熊は二年前の出来事を思い出し、咄嗟に距離を取る。以前にも赤毛熊は粉薬を目に受けて視覚と嗅覚を封じられた事があるため、警戒心を強める。


(やっぱり、目潰しは警戒してたか……けど、お陰で隙ができた)


目潰しは通用しなかったが赤毛熊が距離を取った事でナイは余裕を取り戻すと、ここで彼は毒を塗っていない刺剣を取り出し、それを空中に放り込む。ナイの行動を見て赤毛熊は戸惑うが、空中に放り込んだ刺剣に対してナイは旋斧を振り払う。


「喰らえっ!!」
「ガアッ!?」


空中に放り込まれた刺剣に対してナイは旋斧を叩きつけると、赤毛熊に目掛けて放つ。刺剣は赤毛熊に目掛けて突っ込み、思いもよらぬ攻撃に咄嗟に赤毛熊は爪を振り払う。

旋斧によって叩き込まれた刺剣は赤毛熊の爪に弾かれてしまうが、意表を突いた攻撃だったので赤毛熊に隙が生まれる。その隙を逃さずにナイは旋斧を抱えて赤毛熊に向かう。


(今までの特訓を思い出せ!!今なら斬れる!!)


二年前はナイの攻撃は赤毛熊には全く通用しなかった。しかし、この1年の間にナイは「剛力」を磨き、遂には巨岩をも破壊する程の一撃を繰り出せるようになった。

赤毛熊が体勢を崩した所でナイは力強く踏み込み、両手で掲げた旋斧を振りかざす。その攻撃に対して赤毛熊は咄嗟に刺剣を弾いた腕とは反対の腕を伸ばす。


「ウガァアアッ!!」
「だああっ!!」


赤毛熊の刃物如く鋭い爪がナイの元へ迫るが、それに対してナイは敢えて踏み止まり、その爪に対して旋斧を振りかざす。以前は赤毛熊の爪を欠ける程度の攻撃しか出来なかったが、今回は渾身の力を込めて振り下ろす。



激しい金属音が鳴り響き、火花が散った。結果から言えばナイは後ろによろめき、その一方で赤毛熊の右腕の爪は砕けるどころか右手その物が切り裂かれて血飛沫が舞い上がる。



――アガァアアアッ……!?



赤毛熊の悲鳴が渓谷内に響き渡り、体勢を崩した状態からの攻撃とはいえ、赤毛熊の攻撃に対してナイは正面から打ち合って見事に打ち勝った。赤毛熊の最大の武器である右手の爪は完全に破壊された。

自分の攻撃で赤毛熊が負傷した姿を見てナイは目を見開き、彼のこの二年間の訓練が無駄ではなかった事が証明される。だが、喜んでる暇はなく、怪我を負った赤毛熊の右手を見てナイは旋斧を手放して刺剣を掴む。


「ここだぁっ!!」
「ウガァッ!?」


血を流している赤毛熊の右手に向けてナイは刺剣を握りしめると、傷口に目掛けて刃を突き刺す。毒が塗られた刃物が傷口の中にねじ込まれ、赤毛熊は悲鳴を上げながら倒れ込む。

普通に刺剣で突き射そうとしても赤毛熊の頑丈な毛皮や鋼鉄のような筋肉には刃は通じない。しかし、傷口から直接差し込めば話は別であり、右腕に刺剣が突き刺さった状態で赤毛熊はその場をのたうち回る。


「ガアアアッ……!?」
「くっ……まだ動けるか」


オークやゴブリン程度ならば毒が体内に入り込んだ瞬間に身体が痺れて動けなくなるはずだが、赤毛熊の場合は毒に耐性があるため、身体をふらつかせながらも起き上がった。

赤毛熊は自分の右手を口元に近付け、信じられない事に自分の右手に噛みつき、右手の肉ごと噛み千切って体内に突き刺さった刺剣を取り出す。


「フゥッ……フゥッ……!!」
「まだ、動けるのか……」


赤毛熊は完全に右手を失ったが、それでも毒の短剣が突き刺された箇所から血を流し、毒が完全に体内に回る前に外へ放出する。その様子を見てナイは旋斧を持ち上げ、ここでゴマンから借りた盾を装着し、右手に旋斧を構えて左手で盾を装備する。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

処理中です...