貧弱の英雄

カタナヅキ

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忌み子と呼ばれた少年

第89話 渾身の一撃

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「うおおおおっ!!」
「ガアアッ!!」


旋斧と盾を装備したナイは赤毛熊に向かうと、赤毛熊は残された左手の爪を振りかざした。だが、それに対してナイは装着した盾を構え、迫りくる爪を「観察眼」で見極める。


(爺ちゃんの言う通りならこの盾の使い方は……ここだ!!)


二年前にゴマンに大してアルは盾の使い方を間違っている事を指摘し、本来であればこの盾は攻撃に利用するのではなく、相手の攻撃を跳ね返すために作り出された代物である。

ゴマンの家に伝わるこの盾は特殊な魔法金属で構成され、外部から受けた衝撃を倍に増幅させて跳ね返す。しかし、同時に盾を所有する人間にも大きな反動を与えるという弱点が存在する。だからこそ盾を使用する際は反動で体勢を崩さない様に踏み止まる強靭な足腰が必要だった。


(ここだっ!!)


迫りくる赤毛熊の爪の動きを見極め、ナイは正面から爪を受け止めるのではなく、横向きに盾を振り払う。赤毛熊は爪を弾かれるだけではなく、盾から発生した衝撃波によって体勢を崩す。


「ガアアッ……!?」


衝撃波によって赤毛熊の左腕が弾かれ、巨体がよろめく。その一方でナイは盾の反動を耐え抜くと旋斧を握りしめ、隙だらけの赤毛熊に放つ。


「はああっ!!」
「ガハァッ!?」


赤毛熊の腹部に目掛けてナイは旋斧を叩き込み、結果から言えば赤毛熊の肉体に刃は貫通する事はなかったが、それでも相当な衝撃を与えた。

残念ながら旋斧は刃の形状の問題で突きなどの攻撃には適しておらず、赤毛熊を仰け反らせる程度の衝撃しか与えられない。だが、それで十分だった。


(ここで決める!!)


赤毛熊が体勢を崩した瞬間を逃さず、ナイは旋斧を両手で握りしめると、身体を一回転させる勢いで剣を振り抜く。旋斧の重量を最大限に利用し、更に遠心力を加える事でより強烈な一撃を繰り出す。

この二年の間にナイが独力で編み出した剣技であり、円を描くように剣を振り回す事からナイはこの剣技を「円斧」と名付けていた。


「うおおおおっ!!」
「アガァアアアッ!?」


振り回される事で威力が増加した刃が赤毛熊の胴体を斬りつけると、派手な血飛沫が舞い上がる。流石に切断まではいかなかったが、それでも赤毛熊の肉体を切り裂く事には成功し、巨体が膝を着く。


「ウガァッ……!?」
「これで、終わりだ!!」


ナイは両膝を崩した赤毛熊に旋斧を構え、止めの一撃を放とうとした。だが、それに対して赤毛熊は咄嗟に左腕を地面にめり込ませる。


「ガアアッ!!」
「なっ――!?」


赤毛熊は左手の爪を川原の土砂と小石を巻き上げてナイの視界を奪う。皮肉にも赤毛熊は自分がされた「目潰し」を真似し、今度はナイが視界を奪われる事態に陥る。

目に巻き上げた泥が入ってナイは視界が封じられ、赤毛熊の位置を特定できずに顔を抑える。その隙に赤毛熊は起き上がると、視界が封じられて自分の居場所を捉えきれないナイを見下ろす。


「く、くそっ……何処だ、何処に……!?」
「グゥウウッ……!!」


無我夢中にナイは旋斧を振り回し、何処かにいるはずの赤毛熊に対して攻撃を繰り出そうとする。だが、それを見ながら赤毛熊は距離を取って攻撃の隙を伺う。

迂闊に近づけば負傷している赤毛熊も危険であるため、攻撃を仕掛けるとしたらナイが隙を作った時であり、そしてその時が訪れた。


「うわっ!?」


無茶苦茶に旋斧を振り回していたせいでナイは足元の小石に躓いてしまい、その姿を見て赤毛熊はナイを仕留める絶好の機会だと判断し、頭を噛み潰そうと牙を剥き出しにした。



「アガァアアアアッ!!」
「っ……!?」



渓谷内に赤毛熊の咆哮が響き渡り、その声を耳にしたナイは驚いて顔を向けるが、既に赤毛熊の顔面は迫っていた。そしてナイの頭が噛みつかれる寸前、思いもよらぬ鳴き声が響き渡る。



――ウォオオオンッ!!



赤毛熊の背後から狼の咆哮が響くと、反射的に赤毛熊はナイに対する攻撃を止め、驚愕の表情を浮かべながら振り返る。そこには川の中から這い出すビャクの姿が存在し、先ほどの赤毛熊の攻撃を受けて川に流されたと思っていたビャクだったが、自力で抜け出してきたらしい。

ビャクは身体に血を滲ませながらも赤毛熊の元へ向かい、鋭利な牙を剥き出しにした状態で突っ込み、赤毛熊の左腕に噛みつく。


「アガァッ!!」
「ウガァアアアアッ!?」
「この声は……!?」


左腕を噛み付かれた赤毛熊の悲鳴が響き渡り、必死に赤毛熊は振り払おうとするが、ビャクは決して離さない。そしてナイはビャクの声を耳にすると、彼が生きていた事を喜ぶ前にビャクの声と赤毛熊の悲鳴を耳にして立ち上がる。


(そこかっ!!)


音を頼りにナイは左腕に装着した盾を外し、旋斧を構える。そして音を頼りに踏み込むと、渾身の一撃を繰り出す。
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