氷弾の魔術師

カタナヅキ

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王都での日常

第30話 いやがらせ

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――翌朝を迎えるとバルルが教室に訪れた際にコオリは「圧縮氷弾」の報告を行う。彼女は魔力を圧縮させる事で氷塊の硬度を高めたと聞いて驚く。


「魔力を圧縮させるなんて簡単にできることじゃないよ。あんた、本当にそんな事ができるようになったのかい?」
「本当ですよ!!嘘だと思うなら確かめてください!!」
「随分と自信ありそうだね。それなら見せてもらおうかね」


礼の生徒の捜索前にバルルはコオリが編み出した「圧縮氷弾」を確かめるため、彼女はコオリを連れて訓練場に赴く。まだ授業が始まる前の時刻なので誰も訓練場は使用しておらず、気兼ねなく力を試せた。


「よし、さあ見せてみな」
「はい、ちょっと待ってくださいね……まだ慣れてなくて発動に時間が少しかかるので」
「ならさっさと準備しな。こっちはあんまり時間がないからね、ちゃちゃっと見せとくれよ」


バルルの前でコオリは杖を構えると、集中力を高めて魔力を送り込む。そして無詠唱で魔力を圧縮させた氷塊を作り出す。

前回の時は氷塊を作り出した後に魔力を圧縮させて縮小化させたが、今回は最初から魔力を圧縮させた状態の氷塊を作り出す。このような芸当ができるのは魔力操作の技術を磨いたからであり、訓練を始める前のコオリでは不可能な芸当だった。


「はあっ!!」
「うおっ!?」


圧縮氷弾が放たれた瞬間、衝撃波が発生してコオリとバルルの身体が揺らぐ。撃ち込まれた圧縮氷弾は昨日と同じく木像人形の胸元を貫通し、数十メートル離れたところで自然と消え去る。それを見てコオリは全身から汗を流しながらも声を上げる。


「や、やった!!」
「……なるほど、こいつは確かに中々の魔法だね」


木造人形のを確認してバルルは素直に感心した。威力だけならば中級魔法並を誇り、この数日の間にコオリの魔力操作の技術が格段に上がっている事を認めなければならない。


(先生の言っていた通り、もしかしたらこいつは……)


通常であれば普通の魔術師ならば数日程度の訓練で魔力操作の技術をここまで磨き上げる事はできない。それなのに並の魔術師よりも魔力量が大きく劣るコオリがここまで成長した理由、それは彼の身体に秘密があった。だが、それを教えるのはまだ早いと判断したバルルは黙っておく。


「大したもんじゃないかい。相当に訓練したようだね」
「へへっ……頑張りましたから」
「だけど、あんた戦う時に毎回あんなに時間をかけて魔法を作り出す気かい?あたしが悪党だったら魔法をぶっ放す前にあんたを仕留められるよ」
「うぐっ!?」


バルルの指摘にコオリは痛い所を突かれ、彼本人も圧縮氷弾を生み出すのに時間が掛かり過ぎている事は理解していた。圧縮氷弾は威力は強化されたが、その反面に発動までの時間が掛かり過ぎた。

通常の氷弾ならば今のコオリならば瞬時に撃ち込めるが、圧縮氷弾の場合は最低でも十秒近くの時間が掛かる。尤も今よりも魔力操作の技術を磨けば時間も短縮できる可能性は十分にあった。


「前よりは魔力操作ができるようになったみたいだけど、まだまだ粗削りだね。でも、この魔法を瞬時に撃てるようになれば役に立つかもしれない。これからも真面目に訓練を続けるんだね」
「は、はい……頑張ります」
「あ、そうそう……今度からは魔法を使う時は吸魔石も持っておくんだよ」
「えっ!?でも、あれを持っていると魔法が上手く使えないんですけど……」
「吸魔石を持った状態でも魔法を使えるようになれば、魔力操作の技術も格段に磨かれるんだよ」


バルルは吸魔石を何処からともなく取り出し、それをコオリの左手にしっかりと握りしめさせる。吸魔石を受け取ったコオリは戸惑いの表情を浮かべるが、彼女の言う通りに魔力操作の技術を完璧に身に着けるには吸魔石の訓練はまだまだ必要だった。


「それじゃあ、あたしは行くよ。ちゃんとあんたの指導をしてやれなくて悪かったね……だけど、今日こそはを捕まえてくるよ」
「はあっ……その生徒さん、まだ捕まえられないんですか?」
「ふん、今日こそ捕まえてやるよ。それとさっきの圧縮氷弾とやらは他の生徒に知られないように気をつけな」


コオリが生み出した圧縮氷弾に関してはバルルは他の人間に知られないように注意し、今は他の者に内緒にしておくほうが彼のためになると考えた。そして彼女は今日も例の生徒の捜索へ向かう。

氷刃の存在を明かすなと言われたコオリは不思議に思いながらもバルルにも考えがあると思い、彼女を信じて他の生徒に氷刃の存在を気付かれないように注意する。


(仕方ない……教室に戻るか)


新しい吸魔石を手にしたコオリは自分の教室へ戻ろうと考え、校舎の中へ入ろうとした。しかし、この時に彼は廊下で他の生徒と遭遇する。


「ん?お前……この間の!?」
「あ、どうも……」


コオリが出会ったのは彼と同じ一年生の生徒であり、前にセマカの授業を受けていた生徒の一人だった。外見はすこし小太りの少年であり、以前にセマカに対しても突っかかっていた「男爵家」の子供だった。コオリの顔を見るなり、彼は何故か怒った様子で詰め寄る。


「お前のせいだ!!お前のせいで僕達は酷い目にあったんだぞ!!」
「な、何!?いきなり何の話だよ!?」
「口答えするな!!僕を誰だと思っている!?」


唐突に自分に突っかかってきた少年にコオリは戸惑い、別に彼に何かした覚えはないが、少年が言うにはコオリが授業に参加した後からセマカの指導が厳しくなったという。


「お前があの時に的当ての授業で目だったせいで僕達は大変なんだぞ!!あのくそ教師、僕達が魔法をちゃんと当てられるようになるまで放課後も補習を行うようになったんだ!!」
「し、知らないよそんな事……」
「それにお前、新しく入った女教師の生徒になったんだろ!?そのせいでうちの教師が対抗心を抱いて前よりも厳しく指導してくるようになったんだ!!平民の分際で僕に迷惑をかけやがって!!」
「うわっ!?」


コオリは少年に突き飛ばされて尻餅を着く。少年の方はまだ文句を言い足りないのか床に座り込んだコオリに言い放つ。


「あの教師、事ある事にお前の事を見習えと言ってくるんだぞ!!的を外す度にねちねちと叱りつけてやがって!!」
「だから知らないって!!文句があるなら先生に言いなよ!?」
「このっ……平民の分際で貴族の僕に逆らうつもりか!?」
「うぐっ!?」


貴族の少年はコオリの顔に蹴りを食らわせ、口元が切れて血が流れる。そんな彼の姿を見て少年は鼻を鳴らす。だが、流石のコオリも我慢の限界を迎えて立ち去ろうとする少年に杖を構える。


(後ろから不意打ちなんて卑怯な真似はしない……けど、これぐらいなら!!)


コオリはボウの足元に視線を向け、無詠唱で魔法を発動させて氷の欠片を生み出す。相手に気付かれないように足の裏に氷の欠片を滑り込ませると、少年は足が滑って派手に転んでしまう。


「ふぎゃっ!?」
「……(←笑いをこらえる)」


無様な悲鳴を上げて転んだ少年を見てコオリの溜飲が下がると、自分のせいだと気付かれる前に早々に立ち去る――





――他の生徒へのささやかな仕返しが済んだ後、コオリはバルルに言われた通りに吸魔石を手にした状態で魔法の練習を行う。左手で吸魔石を抱えた状態でコオリは杖から圧縮氷弾を作り出し、高速回転を加えた状態で対空させる。


「ふうっ……よし、だんだん慣れてきた気がする」


何度も繰り返して練習してきたお陰で吸魔石を手にした状態でも圧縮氷弾を作り出す事ができるようになり、少しずつではあるが氷塊を作り出す時間も縮まっていた。まだまだ実戦で扱うには不安な点もあるが、それでも着実にコオリは成長していた。


「無詠唱魔法も大分慣れて来たな」


通常の氷弾ならば瞬時に撃ちだせるようになり、今の訓練を続ければいずれは圧縮氷弾も瞬間的に作り出して撃ち込めると思われた。だが、その段階に至るまでには地道に訓練を続けるしかなく、コオリは黙々と練習を続けた――
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