【番外編更新中】桜の記憶 幼馴染は俺の事が好きらしい。…2番目に。

あさひてまり

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解決編

17.

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side蓮中学編11話『それぞれの思惑』、12話『衝動』の中間辺りの遥視点になります。

●●●




(side 南野遥)


その日は、毎月恒例になった切藤家での予定確認を終えた所だった。

拓也さんから晴が遊びに来てるって聞いてシアタールームに向かう途中、言い争うような声が聞こえて。

もしかして、蓮と晴?

だとしたら晴に加勢しなくちゃと、少し隙間の空いたドアを覗いた。

この後、激しく後悔するとも知らずにーー。


そこにいたのは、翔君と『美優』だった。

私の位置からは少し遠いけど、翔君は眉を顰めてて、『美優』は呆れたような顔をしてる。

都内で遭遇した日以来、偶に翔君の口から『美優』の話しが出るようになった。

その度に、また親しくなってるんじゃないかって心配で…。

でも今の様子だと、2人は喧嘩してるよのね?

このまま拗れて、二度と会わなっちゃえばいいんだわ。

そんな風に、悪い願い事をしたから罰があたったのかもしれない。

少し言葉が途切れたと思ったら、翔君がグッと身体を屈めて。


2人の唇が、重なった。




ザッと全身の血の気が引いて、心臓が嫌な音を立てる。

倒れてしまいそうなのに、指一本動かす事ができない。

見たくないのに、視界は2人の姿を捕らえたまま。

ほんの数秒の事だったのに、私にはその時間が永遠に感じられた。

『美優』の頬に触れる大きな手は、宝物に触るみたいに優しくて。

その目はトロリと溶けて、真っ赤になった『美優』を見つめてる。

まるで、愛おしくて仕方ないみたいな、そんな目で。


ーーこんな翔君、私は知らない。


息を呑むのと同時に呪縛が解けて、私は踵を返して走り出した。

広い切藤邸を無我夢中で走って、気付けばシアタールームの前。

無意識に誰を求めてここに来たのかは、明白。

だけど、その扉を開く事はできなかった。

顔を見たらきっと、泣いてしまう。

姉として、そんな所を見せる訳にはいかない。

ズタズタな心を支えたのは、晴の前では完璧でありたいと願う私のプライドだった。

それを縁にして、荒れ狂う心に蓋をして。

『先に帰るね』

そうママにLAINをして、切藤家を後にした。

1人で出歩いた事を怒られると思うけど、今日だけは許して欲しい。

フラフラと辿り着いのは、晴が見つけた桜の木がある神社。

私と蓮と晴、3人の秘密にしようと誓ったこの場所に着いて初めて、涙が頬を流れた。


嫌だ、嫌だ、嫌だ!


他の誰が翔君の彼女になっても、『今だけだから』って自分を奮い立たせてきたのに。

もうそれは、できないーー。

だって、あんなに幸せそうな翔君を私は知らない。

私が幼い頃から『美優』を敵視してきたのはきっと、無意識に分かってたから。

本人も気付いてない、翔君の本当の恋がそこにあるって。

いつか自覚して結ばれるって、分かってたから。



本当はね、知ってたの。


人の機微に敏感な翔君が、私の気持ちに気付かない訳を。


翔君の中で私は、血の繋がった『妹』と同じだから。


『妹』と恋愛関係になるなんて、考えた事も無いからなんだって。


それを認めたくなくて、強がっててだけ。



本当はね、



私に勝ち目なんて、なかったのーー。








泣き続ける私を救ってくれたのは、偶然かかって来た由奈からの電話だった。

明らかに様子のおかしい私を心配して、車で最寄り駅まで来てくれて。

由奈の家に着くと、ひたすら話しを聞いてくれた。

「明日土曜日だし、泊まっていきなよ。」

霊泉家の事以外全部話しきって、もう何も考える気力が無い私にそう言ってくれて。

もう夜になってたし、泣き腫らした顔で帰る訳にもいかないから甘えさせてもらう事にした。

由奈の家にいる3頭のアフガンハウンドに寄り添われながら、広いベッドに身を横たえる。

「ねぇ、遥。翔さんに告白する気はないの?伝えた方が楽になる事もあるかもしれないよ。」

暗い部屋で、由奈がポツリと言った。

告白…それは…。

「可能性がないなら、今の関係性を壊したく無い…。告白なんかしたら、もう翔君と話せないかもしれないもん…。」

『妹』としても思って貰えなくなったら、翔君にとって私は何になるの?

怖い。

それなら『妹』でもいいから、私を特別に思っていて欲しい。

「そっか、分かった。いつでも話し聞くからね。」

そう言ってくれる由奈の存在が、本当に有り難かった。




その出来事があって間もなく、傷心のまま私は中2になった。

私も蓮も背が伸びたけど、1番変わったのは晴。

小柄なままではあるけど、『天使みたいな男の子』から、しなやかな筋肉が付いた『綺麗な男子』になって。

そんな晴を見る周りの目が変わった事に、ボンヤリしてた私は気付かなかった。

で、ようやく危機感を抱いた時には後の祭り。

晴にチョッカイを出そうとした男子を、蓮が叩き潰すって言う事件が起きてた。

不届き物を罰したのはグッジョブだけど、これをきっかけに『萱島のバックに切藤が付いてる』なんて噂が広まって。

なんて事!私の努力が!

頭を抱えたけど、何とか晴の耳にそのトラブルが届かないようにする事はできた。

原因が自分だって知ったら、絶対気にするもの。

晴は自分に魅力があるなんてほんの少しも思ってなくて、警戒心ってものがまるでない。

今だってほら、蓮の香水の匂いに釣られてゼロ距離になってるし。

ダメよ晴!ソイツが1番危険なんだから!

首元に鼻を寄せながら香水を『好き』って言われて、その破壊力に呻く蓮。

「こんな頭悪そうな蓮初めて見たわ。」

思わず出た本音は完全にスルーされた。

味を締めたのか、蓮は数日おきにその香水を身に纏って来る。

匂いに慣れさせないように、逆に毎日つけて来ないのが忌々しい。

しかも、その度にフラフラ近付く晴の腰を抱いたりするようになって。

不味いわね、コイツこのまま晴を囲い込む気だわ。

この時の私はカナダへの留学の意思をほぼ固めてた。

将来の夢の為と、それから…翔君への想いを断ち切るにはこれしか無いと思ったから。

逃げるみたいで狡いと悩んでた私に、由奈が、

『遥は真面目すぎだって!勉強の為の留学に、オマケがプラスされたってだけ。悪い事なんか一切なし!』

なんて言い切ってくれて、気持ちが楽になった。

『無理して忘れる事も無いと思うけどね?
私への連絡は忘れたら許さないけど!』

最後の台詞にギラっと目を光らせた親友に思わずわらってしまった。

由奈と出会えて、私は本当に幸せだわ。


よし、心は決まった。

後は、留学までに私が出来る事をしなければ。

まずはーー根回しね。

入学前に蓮がしたであろう事、私もそっくりそのまま利用させて貰うわよ。




「やあ、南野さん。…いや、今日は私的な場だから遥ちゃんと呼ぼうかな。」

そう言って微笑むのは、蓮達の伯父である豊さん。

私が留学の意思を固めると、彼はカナダの学校の防犯システム等をパパとママに説明してくれた。

霊泉家の権力も海外迄は及ばないって、拓也さんにもお墨付きを貰って。

同席してた私はその時に豊さんに約束を取り付けて、今この理事長室にいる。

恐らく私達3人のクラスが2年連続で同じなのは、この人の裁量によるもの。

ならば、必然的に私が頼むのは彼になる。

「ーー蓮と晴を、離してください。」

「おや。」

「そして、私と蓮の2人だけを同じクラスに。」

少しだけ目を丸くした後、豊さんは楽しそうに笑った。

「それは、遥ちゃんが蓮だけと一緒にいたいからなのかな?」

「断じて違います。」

心底嫌そうな顔をした私に、彼は笑みを深める。

食えない人だわ…学校で起きてる事も私達の関係性も、知ってるんだろうに。

「ご存知でしょう?蓮の囲い込みが原因で、晴が周りから距離を置かれてる事。私がいなくなれば、蓮の行動はヒートアップするに決まってます。」

「そんな事ないと思うよ……とは、言えないね。」

眉を下げた豊さんに、私は畳み掛けた。

「蓮は大学まで晴のレベルに合わせるつもりです。このままだと、晴は蓮によって自立させられなくなります。
友達もいない、頼れる相手は蓮だけーー蓮によって『造られた』生きた方を、大切な弟にして欲しくありません。」

もし晴がその生き方を望むなら、納得…はできないけど、理解はできる。

ただ、晴が『選ぶ』事すらできない状況は、フェアじゃない。

「お願いします。私が蓮を止められる間に、晴には自分のコミュニティを作って欲しいんです。」

周りに目を向けて、友達を作って、遊びに行って。

そう言う普通の事を知って欲しい。

私の必死な願いが伝わったのか、豊さんは頷いた。

「分かったよ。未来ある若者の為に、僕が一肌脱ごう。」

そして、明るくなった私を見て微笑む。

「遥ちゃんは本当に…晴ちゃんの姉だね。」

それは何よりの褒め言葉で、話は笑顔で頷いた。





それから数ヶ月、蓮と晴の関係を注視しつつ、英会話に更に力を入れて忙しくして。

その間、翔君の事は考えないようにしたのに、諦めようとする程想いは強くなっていくみたいで。

季節が冬になっても、私の気持ちは変わらないまま。

留学の件を報告する為に久しぶりに会った翔君は、両手を上げて応援してくれた。

ちょっとは寂しがってくれたっていいのに。

それでも『遥は凄いな!』なんて頭を撫でられたら、胸が甘く高鳴ってしまう。

あぁ、もう!諦めよう。

翔君を諦める事を、諦めよう。

どうせ無理なんだもの、同じ苦しいなら好きでいる方がずっといい。

ただし、中学の間だけって決めて。

カナダに行けば物理的な距離ができるし、新しい環境に入れば忘れられるかもしれない。

だから、今は自分の気持ちを許そう。

沢山思い出を作って、悔いのないようにして。

笑ってバイバイできるように。

それくらいの我儘は、許してくれるよね?






毎年恒例の三家合同クリスマス会の時、蓮にも留学の話しを伝えた。

皆んな晴による『開封の儀』に夢中で、私達には気付いてない。

「へぇ。ま、頑張れば。」

兄弟揃ってアッサリしてて、ちょっと傷付くわね。

「これが晴だったら…」

翔君はめちゃめちゃに寂しがっただろうなぁ。

「行かせる訳ねぇだろ。何としても阻止するか…俺も一緒に行く。」

独り言のようにポツリと呟いた言葉に蓮からの返事があって、その内容に内心溜息を吐いた。

海外まで付いてくって…本当にアンタは…。

「お前、情緒どーしたん?」

呆れるべきか怒るべきか、葛藤する私にお構い無しの蓮。

「ムッカつくわ本当に…誰のせいで…!
良いわよ!私、卒業までしぶとく頑張るから!」

アンタの手から晴を守ってみせるんだから!

「自分にとって本当に大切な存在が分かってから焦ればいいんだわ。」

「ダルいわ。ハッキリ言えよ。」

全然分かってないわね!

「蓮にとって私が…」「やっほーい!ネズミーランドのチケットだ!」

言いかけたのに、嬉しそうな晴の声を聞いた蓮の意識は一瞬でそっちに向いてしまった。

「留学の件、晴にはまだ言わないでよ!」

かろうじてそれだけは届いたと思うけど…大丈夫よね?

晴にはまだ…せめて3年になるまでは内緒にしておきたい。

ションボリするのが目に見えてるし。

ってか、翔君と一緒にパークインですって?

羨ましい!!

生まれて初めて晴に妬いてしまったのは、ここだけの話し。

卒業までに、私も翔君と2人でテーマパークに行きたい!!


そんな思いと、ひきこもごもの大人達(開封の儀の敗者達)の嘆き、はしゃぐ晴と怒る蓮。

なかなかカオスな状況に気を取られて、蓮に言いかけた言葉は形にならなかった。


『蓮にとって私が超重要な抑止力だって気付きなさいよ!私がいなかったらアンタとっくに暴走して、晴に引かれててもおかしくないんだからね!』

私が上手く立ち回らなかったら、晴の耳に入ってしまっただろう蓮の暴挙は数えきれないくらいある。

中2になってすぐ叩き潰してた奴の件がいい例じゃない。






この時、ウザがられても蓮にちゃんと言いきかせるべきだったのよね。


そうしたらこの数ヶ月後、蓮が大暴走する事件を防げたかもしれないのに。



●●●
切藤邸は広すぎる&個人主義なので、誰が家にいるか把握してない事が良くあります。
お互い朝からずっと家にいたのに、夜になって初めて「あれ、いたの?」なんて事も。

翔は、蓮と晴がシアタールームに籠ってるのは知ってましたが、ゲームに夢中だと思って油断してました。ドアはちゃんと閉めようね。笑

因みに↓に、この時の翔と美優の会話を載せてますのでご興味あれば(*´∀`*)






















美優「だーかーらー、あれは美容院のスタッフだってば。」

翔「それは知ってる。けど距離近過ぎだろ。」

美「カット教えて貰ってるんだから当たり前でしょ。手の角度とか見てるだけじゃ分かんないし。」

翔「…にしたってさぁ。」

美「あのねぇ、あの人めちゃめちゃ面食いだから。私なんか…」

翔「だから心配なんだよ!お前は自分が可愛いって自覚しろ!」

美「…へっ?(真っ赤)」

翔「ほら、そーゆー顔とか。(ちゅっ)

美「……。(真っ赤)」

翔「(はぁ、愛し。)」



























































































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