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解決編

16.

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side蓮中学編10話『部活』辺りの遥視点です。

●●●


(side 南野遥)

「遥~!帰ろ~!」

私を呼ぶ声に返事をすると、その横でチッと舌打ちが聞こえた。

あぁ~、もう!うっざ!


見事に3人同じクラスになった私達。

偶然…じゃなくて、何かしらの忖度があったんだと思う。

嬉しそうな晴とは対象的に苛つく蓮は、私が邪魔で仕方ないって顔。

見てなさいよ、アンタの思い通りになんかさせないんだから。

入学式から既に始まってた蓮の牽制のせいで、1ヶ月経った今も晴には友達ができてない。

話しかけたそうな男子はいるのに、悉く蓮に阻止されてる。

コイツ、男は誰でも見境なく晴に襲い掛かるとでも思ってんのかしら。

確かに晴は、可愛いし儚げだし可愛いし華奢だし可愛いけど、ちょっと過剰すぎじゃない?

私が晴とクラスメイトとの接点を作ろうとするのも邪魔してくるし。

だから、部活に関してだけは何とかしようと心に誓う。

絶対に蓮から晴を離してみせるんだから!

晴、目指せ友達100人よ!!



「蓮はやっぱりサッカー部だよな!…俺のせいでクラブ辞めちゃったし…。」

オリエンテーションが始まった5月、蓮と一緒にサッカー部の体験を終えた晴がそう言った。

ナイス…!ナイスすぎるわ、晴!

本当の理由は霊泉家で、晴に責任は無いんだけど今だけは忘れよう。

だって、ほら。

「あー、まぁサッカー部でもいいかなとは思ってるけど。」

ションボリする晴を見て、蓮の心がサッカーに揺れてるもの。

これなら晴に違う部活を勧めても、蓮はサッカー部から変更し辛いでしょ?

そう思ってたのに、直ぐにマネージャーを提案して来やがった。

くっ…手強いわね!でも私には秘策があるんだから。

アンタが明日、霊泉家対策の会食で放課後いない事、知ってるんだからね!



翌日、蓮が迎えの車に乗ったのを見計らって晴に提案する。

「ねぇ晴、他の部活も見てみない?私、剣道部とか見てみたいのよね。」

「遥が剣道…似合いすぎる!行こう行こう!」

途端に乗り気になった晴と連れ立って、剣道部と、それから水泳部にも行ってみた。


そして、その成果はと言うと…次の日の朝。

「武道ってかっこいいよな!」

はい、キラッキラの笑顔いただきました。

それを聞いてる蓮からドス黒いオーラが出てるけど、それが何か?

案の定、晴がいなくなったタイミングで詰められたけど余裕で躱す。

霊泉家の事はあるけど晴の危険度は低いし、それに学校内なら安全だってお墨付きもあるし、何が問題なのよ。

だけど『晴が心配じゃねぇのかよ?』って言われてプツンときた。

どの口が言ってんのよ、アンタの執着の方がよっぽど心配だっての!

「じゃあ聞くけど!今後も晴をずっと守って行くっていうの?高校も、大学も、その先もずっとよ!?」

私の問いに当然だって返して、大学のレベルも合わせるって当たり前みたいに言って。

それじゃあ、晴の人生はどうなるの?

1人で生きていけなくさせるのが、アンタの言う守るって事な訳?

思わずペンケースを投げ付けて(やり返されたけど)踵を返す。

絶対に、アンタの思い通りにはさせないんだから!



そんな訳で冷戦状態になった私達だけど、晴が心配しないように表面上はいつも通りにしてる。

晴の心はすっかりサッカーから離れてるけど、例の件があるから蓮はもう決まりだろう。

「晴、水泳部は先輩が厳しいからやめとけ。」

苦々しい声に最後の足掻きを感じたけど、そこはスルーした。

幼馴染が殺人犯になるのは、流石に避けたいし。

屋内プールなのに『日焼けする』って話しを鵜呑みにする晴がチョロ可愛いくて、ちょっと笑ってしまった。

とにかくこれで、蓮を引き剥がす事に成功したわ!



その甲斐あって、夏頃には晴が部活の仲間と一緒にいる所を見るようになった。

うんうん、いい傾向ね。

相変わらず蓮といる時間は長いけど、それ以外の人間関係が出来つつあるのはいい事だわ。


この調子なら…私がいなくなっても大丈夫かなぁ。

そう思いながら手に持った書類に目を落とす。

『カナダ留学についての要項』

所属する英会話部の先生が勧めてくれた留学は、私の夢には欠かせないもの。

カナダなら英語は勿論、第二公用語であるフランス語も学ぶ事ができる。

行きたい気持ちは大いにある。

ただ、蓮と晴に対する心配と…それから…。

脳裏を過ぎる優しい笑顔に溜息をつく。

先生は高校からでも大丈夫って言ってたし、今すぐ結論を出さなくてもいいわよね…?





ザワリと空気が揺れて、興奮した囁きが周りを満たした。

カフェで英語のテキストを読んでた私は、それで相手の到着を知る。

顔を上げると、カフェ中の視線を集めたスタイル抜群の男性が1人。

「遥!」

笑顔で手を上げた翔君がこっちにやってきて、私の前に座った。

「ごめんな、待った?」

「ううん、大丈夫!」

デートみたいなやり取りに顔がニヤけそう。

今日は英会話スクールの前に翔君と待ち合わせ。

都内のスクールだから、同じく都内の大学に通う翔君を誘いやすい。

チラリと窓から外を見た翔君の合図で、車が一台走り去った。

ママに用事があって今日は笹森さんが送ってくれたんだけど、ここからは翔君にバトンタッチ。

始まる時間までお茶して、スクールまで送ってくれる手筈になってる。

こんな日が月に何度かあって、私にとっては最高!

大きな窓側の席で2人向かいあってると、外からも中からもたくさんの視線を感じる。

他人から見ると、私達はどう見えるのかしら。

兄妹?歳の離れた友人?それとも…。

ううん、私も外見に気を付けてモデル事務所から声がかかるくらいにはなったけど…まだそれは早いわね。

それより、『今』を堪能しないと。

楽しそうに私の話を聞いてくれる翔君との、幸せなひと時。

好きな人が自分だけを見てくれる、特別な時間。


そう、今日もそうなる筈だったのに…。


「遥、ちょっと出るけどすぐ戻る。絶対ここ動かないで。」

そう言って俄に立ち上がった翔君は、慌てた様子でカフェを出て行った。

珍しい事態に動揺したまま窓の外を見ると、男2人に絡まれてる様子の女性が見える。

そこに翔君が割って入ったのを見て、私も急いでカフェを出た。

どうやら、嫌がる女性の写真を撮ろうとする男達がいて、翔君が助けに入ったって構図みたい。

私からは後ろ姿しか見えないけど、女性はピンクベージュの髪を複雑に編み込んでるお洒落さん。

服装といい、都内有名店の美容師さんって感じ。

男達の方はしっかりしたカメラとかレフ版を持ってるから、ヘア系の雑誌とかウェブサイトの人かもしれない。

ここの通りはスカウトとか多いし珍しい光景じゃないけど、翔君の言う通り相手が嫌がってるならダメね。

そう思いながら近付くと、男の1人が私に目を留めた。

「じゃあ、そっちの子は?俺たちストリートスナップのサイト作ってるんだ!凄い美人だね、高校生?」

「中学生ですよ。俺の妹なんでダメっすね。」

名刺を渡そうとするその男の目線から私を隠すようにして、翔君が言う。

守ってくれるその姿に胸が高鳴った。

「うーん、保護者NGならダメかぁ。…ねぇ、お姉さんは本当に嫌?凄い可愛いしお洒落だから、アクセス数上がるんだけどなぁ。」

諦めきれないらしい男が最初の女性に絡む。

「NGですね。」

「ちょっと、何で君が答えるのさ。」

即座に断る翔君に食い下がる男。

すると、女性の腕をグイッと引いた翔君がその肩を抱き込んだ。

「この子俺の彼女だから。彼氏NGだから諦めて。」

その瞬間、翔君から…何て言うかオーラみたいなのが立ち昇った。

笑顔だけど、有無を言わせない圧を感じる。

「あ、何かごめんなさい。もう行きまーす!」

怯んだ男達はそそくさとその場を去って行く。

目の前の光景に唖然としながらも、女性と翔君の姿にハッとなった。

こんな風に助けられたら、絶対に翔君の事好きになっちゃうじゃない。

危機感に急いで近寄ると、翔君がその人に話し掛けた。

「大丈夫か、。」

…えっ?

「翔…ありがと。」

チラリと見えた横顔に、確かに昔の面影を感じる。

間違いなく『美優』だ…。

「最後に会ったのって同窓会だから…3年ぶり?
髪色変わってるのに、良く私だって分かったね。」

「…あー、まぁな。」

流石の洞察力だとウンウン頷く美優に対して、少し気まずそうな翔君。

その表情を見て、私は気付いてしまった。

多分翔君は、美優の姿を見るのが久しぶりじゃないんだ…。

「ほんと助かったよ。今から美容院の見学で、上手く躱す余裕なくって。」

安堵を滲ませた笑顔に、翔君が眩しそうに目を細めた。

「精一杯『お洒落美容師』っぽい格好してきたんだけど…そう見えたって事かなぁ?ある意味成功?」

ふざけてポーズを取る姿に『美優』の気さくさを感じる。

「あー、うん、大成功だな。可愛いと思う。」

「ちょっ、」

思わず声を出した私の方を『美優』が見た。

私とは全然違う、小柄で可愛らしくて…でもちゃんと『大人』の女性。

「あぁ、遥だよ。覚えてないか?小学生の頃良く家にいたんだけど。」

視線の先にいる私を見て、翔君が説明する。

「あ、覚えてるかも!蓮はあのまま大っきくなった感じだけど、女の子は大人っぽくなるねぇ。」

ニコニコする『美優』に対して、眉を寄せたのは翔君。

「待て、何で今の蓮の感じ知ってんの?」

「うん?たまーにお店に来るよ。駅で誰か待ってるみたいで、時間潰しに私と話してく。」

彼女かな?と嬉しそうな『美優』を見る翔君は、微妙な表情。

「確実に晴待ちだな…蓮がごめん。」

「全然。家の手伝いしてるだけだから暇でさぁ。
話し相手になってくれるから嬉しいよ。」

「昔から何でかお前に懐いてるよな…。」

「あれ、ヤキモチ?翔ってブラコンだったっけ?」

ケラケラ笑う美優に、翔君が渋い顔をする。

それはブラコンって言われた事に対して?

それとも…。

「あっ、もう行かなきゃ!翔、本当にありがとう。遥ちゃん、巻き込んじゃってごめんね!」

手を振る『美優』が去ろうとして、内心でホッとした時だった。

「待って美優。帰り一緒に帰ろうぜ。」

「え?だって…。」

美優がキョトンとした顔で私を見てる。

「遥はこれから英会話スクール。送った後は俺、暇なんだよ。」

「そうなの?私、どれくらいかかるか分かんないけど。」

「そこのカフェ入ってるから。ほら、時間ヤバイんだろ?頑張れよー!」

ちょっと強引に約束を取り付けた翔君に戸惑いながらも、美優は『分かった』と言って去って行った。



…何、今のやり取り。

確かに帰りはママが迎えに来るから、翔君が私を待つ必要は無い。

それは今日だけじゃなくていつもそうだけど…でも…。

『美優』と、帰るの?

それは、久しぶりに会ったと話したいから?

さっき彼女だって言ったのは本当に、相手を諦めさせる為だけ…?

「しょ、翔君、後ろ姿なのに良くあの人だって分かったね。」

聞きたくないのに、どうしても言葉が溢れてしまう。

「ん?あぁそれか。さっき聞いてたと思うけどさ、駅前の洒落た美容院って美優のお父さんの店なんだよ」

さっきの話しから、土日部活の晴を学校まで迎えに行けない時(サッカー部が他校で試合とか)蓮は駅で待ち伏せしてる事が判明した。

その時間潰しに使ってる美容に、『美優』は手伝いのため頻繁にいるらしい。

「ガラス張りだから、中にいるの見えるんだよな。でもほら、一方的に見られてるって気分悪いじゃん?」

だからさっきは言わなかったと話す翔君。

「ってそんな事より、俺らも時間ヤバくね?
行こう、遥。」

そう促す翔君は、いつも通りの笑顔で。

「頑張れよー!」

教室の前で手を振ったその声は、さっき『美優』に言ったのと同じ筈。


でもね…。

偶に見かける程度の友達を、後ろ姿だけで判別できる?

私だったら、家族とか大切な人じゃないと自信ない。


大学からの帰り道、バイトからの帰り道…

貴方はどんな想いでガラス越しの彼女を見てたの?


そこにある、気持ちは…。















翔君と美優が恋人になったのを知ったのは、それから半年後。


私が中2になる目前の事だった。




●●●
専門2年生の美優は就活中でしたが、この時見学に行った美容院には就職せず、実家を継ぐ事を選びました。それが晴の髪を切った駅前のお店です。

























美容系専門学校は、
2年生から就活開始→年内に就職先決定→年明け国家試験→卒業→国家試験合否判明って感じです。
大学生に比べると短期決戦なんですよね。
個人店だと、見学に行ってその場で内定もらっちゃった!なんて場合もあるので、服装(スーツは逆に目立つので私服)のセレクトは大切。


あれ?内容に全然触れてないな笑
























































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