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中学生編side蓮

8.必要

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「我が家に招いていたのはいずれも霊泉家と関係が無いと事前調査で判断できた者達だ。
本人に『内通者』の自覚が無い可能性が高い。
蓮の事は口外しないように言っておいたが…うっかり周りに漏らしてしまったんだろうな。」

「違う分野の権威とかに『こんな優秀な子がいるんですよ』的な感じで言っちゃったのかもな!」

「…まぁ、理由は別に何でもいいけど。
全員と関係を断つのは確定として、他に何すりゃいいの?」

俺の表情を窺いながら頷き合う父親と翔に言う。

霊泉家と直接の繋がりが無いとなると、犯人を絞り込むのは逆に難しい。

それなら、全員との交流を無くすのが一番手っ取りくて効率的だ。

「…そうだな、それはやむを得ないだろう。
今後のためにする事はまず、各方面の権力者と繋がりを持つ事だ。
お前達を、霊泉家にとって『敵』となる者達に紹介しよう。」

それ系のパーティーやら会食に参加させるって事か。

メンドイ事この上ないけど、頭のおかしい血族に絡まれるよりはマシだから仕方ない。

「それから、蓮には中学から翔と同じ帝詠学院に通って貰う。」

帝詠学院は共学の私立校で中高共に偏差値は68。

ただし高等部の『特進クラス』を希望するならば、75以上が合格の最低ラインと言われている。

「京子さんのご主人が理事長になったんだ。こちらの事情を知っているから、生徒から教師に至るまで霊泉家と関係が無いか調査するのにとても協力的でね。」

「そうそう。入学理由はそれだけど、普通にいい学校だぜ!あ、『京子さん』ってのは陽子の妹だからな。」

翔のが補足に、『興味なし』と振り分けした記憶を探る。

「あぁ、2歳と5歳と7歳の時に会ってるっぽい。
陽子とあんま似てねぇんだな。」

記憶の繋がりから、陽子の両親…つまり俺の母方の祖父母はかなり前に他界している事も分かった。

年月日、天候、場所、服装、音声ーーー。

写真や動画のように収まったそれらは正確に俺の頭の中に残っている。

「桁違いの能力だな…霊泉が知ったら間違いなく欲しがるだろう。
蓮が大学生になったら私も内部干渉できなくなるから、それまでにこちらの勢力を高めておく。」

後おおよそ10年か。

「それから、お前の周りの人間についてだがーー。」

その言葉にハッと息を詰めた。

そう、何よりも心配なのはただ1人の安全。

「まず、遥ちゃんは元々が帝詠に通う予定でここに引っ越して来てるから当分は問題無いだろう。蓮と同じように護れるからな。」

いやいや、アイツは霊泉家に何か仕掛けられたとて大丈夫だろうよ。

「それから晴ちゃんは…憲人君の話しだと、中高と公立に通うみたいだ。」

「…は?晴も同じ学校でいいだろ、霊泉家が接触してきたらどうすんだよ!」

語気を強める俺に、父親は静かに首を横に振った。

「どんなに可愛くて可憐で天使でも、晴ちゃんの性別は男だ。霊泉家にとって『脅威』の対象にはなり得ない。
奴等の考えを話しただろう?『血が薄まる事』を何よりも嫌う。
現在の法律では男同士の婚姻はできないから、晴ちゃんは脅威にはならないんだよ。
むしろその対象は遥ちゃんに向くはずだ。
『高い能力を持ち、子供を産める』者を危険視するからな。」

俺が『能力の高い女』を選ぶのが当然だと思ってる訳か。

「奴等は『愛』が理解できないからな。それ以外に結婚する理由なんて考えられないんだろう。
基準を満たしていない晴ちゃんは『取るに足らぬ者』だから、わざわざ反撃される危険性を犯してまで手を出すとは考え難い。」

それに、と父親が続ける。

「あの子は勉強があまり好きじゃないだろう?
帝詠に入学するにはかなり勉強が必要だし、入学してからもずっと頑張り続けないとならない。
無理して入学しても、本人にとって辛いだろう。」

確かに、晴は勉強ができない訳じゃないが苦手意識がある。

「なら俺も公立にする。」

「…蓮、お前の身の安全を考えるとそれは許可できない。何と言われようとだ。」

父親の断固とした言葉に唇を噛み締めた。

どんなに喚こうが、未成年である自分が保護者の同意無しに入学などできる訳がない。

優秀だ何だと言われたところで、所詮は子供なのだと言う事実を突きつけられた気分だ。



別々の学校に行っても、晴は周りと上手くやるだろう。

現に、俺の存在が怖くて近付いて来ないだけで、晴と親しくしたい奴は大勢いる。



晴が俺より親しい相手を作ったら?

ソイツとの時間を優先するようになったら?


もしも、好きなヤツができたらーーー?



ゾワリと肌が泡立って、胸に黒い靄がかかる。



晴と引き離そうとするなら、霊泉家だろうが自分の家族だろうが一緒だ。

晴がいない時間に何の意味がある。



「蓮、すまないーーー。」

「好きにすれば。」

謝罪する父親を一瞥して部屋を出た。





「親父、何とかなんねぇの?蓮の目見ただろ?
アイツーーーしてた…。このままじゃまた…」

「それは私も感じた。だがなぁ…晴ちゃんの意思も大切だから…」




背後で会話が聞こえたがどうでもいい。



俺の方が覆らないなら、逆を覆せばいい。


晴が帝詠に来るようにする。


どんな手を使ってもーーー。






「いらっしゃい蓮君。あれ、何かあった?」

その足で萱島家に行くと、俺を見た憲人さんが首を傾げた。

「別に」と返事をして、いつもの如く萱島家に上がり込む。

「…実は今、晴も不機嫌モードなんだよね。」

苦笑しながら言う憲人さんに付いてリビングに入ると、そこにはクッションを抱き抱えて拗ねる晴の姿があった。

「蓮!聞いてよ!父さんがひどいんだよ!」


俺に気付いて駆け寄って来るその声が、瞳がーー。


知らず強張っていた俺の身体を緩ませる。



「蓮だって犬好きだよね!?飼いたいよね!?」

縋るように見上げて来る瞳にうっすら涙の膜が見えて、無意識にその頭を撫でた。

「蓮君、甘やかさなくていいからね。
晴、この家には父さんの仕事道具がわんさかあるんだよ?万が一絵の具なんか食べちゃったらどうするの。」

どうやら犬を飼いたい晴vs阻止したい憲人さんの構図で揉めてるらしい。

「じゃあ父さんの仕事場変えたらいいじゃん!」

「あのねぇ、そしたら晴が帰って来ても父さんいないんだよ?オヤツも出ないよ?」

「オヤツはダメだよ!!」


「ブフッ…!」

思わず吹き出してしまった。

ついさっきまで自分の家で繰り広げられていた会話とのギャップがエグすぎる。

「蓮!笑ってないで援護して!」

「犬か…別に興味ねぇからなぁ。」

そう言うと晴は目を見開いた。

「そんなバカな!!蓮、俺の部屋で犬の図鑑見せてあげる!」

憲人さんの「適当に流していいからね」みたいな呆れ顔に見送られて晴の部屋に連行された。


「ほら、見て!レトリーバー!」

床に座わった俺の膝に図鑑を広げた晴は、それを寝転がって眺める。

「仔犬の頃とかヤバイ可愛くない!?」

「あー、まぁな。」

可愛いのはお前だっつの。

顎を俺の太腿に乗せて見上げてくるとかズルいわ。

「そんな適当に言うなよ!蓮も気に入る犬じゃなきゃダメなんだから!」

「え?何で?」

すると、ガバッと起き上がった晴が真剣な顔で言った。

「なんでって何?大型犬って長生きするんだよ?蓮も10年以上毎日会うんだから大事じゃん!」

「…俺が10年以上毎日萱島家に通うって事?」

「え、来ないの?」

驚く晴にこっちが驚く。

「だってずっと一緒にいるって約束したじゃん。
…あ、もしかして蓮の家にも連れて来て欲しいって事?」


確かに蓮の家の庭広いから喜びそうだよね、と目を輝かせる晴の身体を、腕の中に手繰り寄せた。

「蓮?どしたの?」


温もりに心が満たされる。


それは、霊泉家の話を聞いてから心に纏わりついていた黒いものが浄化されるかのようで。


5歳の頃から接してきた人間に売られたのか、翔達の言うように本当に悪気がなかったのかは分からない。

ただ、今後悪意を持った人間が近付いて来る事はあるだろう。

それなら、誰とも関わらず興味も持たずいる方が楽だ。

幼い頃そうしていたように。



だけどーーー。

腕の中の、この愛おしい存在を知ってしまった。

独りきりの楽な世界に戻れない代わりに得た、大切なもの。


晴。


俺は多分、お前がいないとダメなんだ。


偶に会うだけじゃ全然足りない。


毎日、毎秒一緒にいたい。


だからーーー。



「俺、中学から私立行くんだ。そしたらあんまりここに来れなくなる。」

「…えっ…?」

「帝詠学院って知ってるだろ?」

身体を離して晴の顔を伺うと、相当動揺しているのが見て取れる。

「蓮と別の学校になるって事…?は、遥は?」

ここでアイツの名前出すんじゃねーよと思ったが、手札は多い方がいい。

「遥も俺と同じ学校。」

「え、じゃあ…2人ともいないの…?」

「そう。でも、あそこエスカレーターだから俺と遥は高校もずっと一緒。」

ガーンと音がしそうな程分かりやすくショックを受ける晴に、勝負に出る。

「晴も一緒に通えたら最高だけど、公立行くんだもんな?」

「お、俺も…帝詠にする!」

「マジで?でも受験するならスゲェ勉強しなきゃダメなんだぜ?」

「…うっ……でも、蓮と遥と離れるなんて嫌だ!
俺、頑張る!」

よし、かかった。

「じゃあ一旦犬の話は忘れよ。受験勉強に専念しなきゃだもんな。」

「うん、分かった!合格するまで我慢する!
父さーん!」


犬の話を忘れさせた手柄の代わりに、新たな問題を浮上させた俺を憲人さんはどう思うだろうか。

報告に行く晴の背中を見ながらふと過ぎった疑問に苦笑する。

何にしろ、上手く説得しなくては。





晴を、絶対に側から離さないために。






●●●
久しぶりの更新になってしまいました!
例のウィルスが職場で猛威を奮ってくれちゃったせいで大忙しでして。
やっと落ち着いたんですが、感染者に挟まれても陰性を貫いた作者、職場で『最強』の名を欲しいままにしております笑




























蓮は自分が傷付いてもその自覚がありません。
謎に感情が揺れるので『独りの方が楽だ』と思ってしまうんですね。


晴は大型犬が好き。
蓮は興味無し…と言うより、晴の意識が自分以外に向くのが面白くない笑

ここにきて学校名が初めて出ました。笑











































































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