【完結】桜の記憶 幼馴染は俺の事が好きらしい。…2番目に。

あさひてまり

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中学生編side蓮

7.霊泉家(※胸クソ表現有り)

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霊泉れいぜい家の当主ーー私の生物学的な父親には息子が2人いる。1人が私で、もう1人は私の兄だ。」

どうやら俺と翔には伯父がいるらしい。

「霊泉家はおよそ現代社会とは駆け離れた考え方をしているんだ。まず、長男は一族の権力を維持するために政治の道に進む。その他の職は許されない。次男以下は長男のスペアに過ぎないから、待遇は信じられないほど違う。」

食事から着る物、部屋まで明らかな格差があったらしい。

「それでいて、霊泉の名を汚さないようにと学校の成績は常に一位を求められる。一度でも順位を落とせば容赦ない折檻と罵詈雑言の嵐だ…。
それでも、中学までは耐えていた。
奴らの『女性』に対する考え方を知るまでは。
霊泉家は『女は霊泉の子を産む道具』として考えていて…血を濃くする為ならばそこに倫理観なんてない。』

父親が小学生の俺をチラリと見るが、だいたいの意味は分かる。

「近親相姦って事?」

「まぁ、そうだ…。女児が産まれると、一族内で子供を産ませる。場合によってはそれが実の兄弟や…酷い時には、実の父親が相手の事もある。」

マジかよ…。

「『全ては霊泉家の為に』と洗脳のように育てられると疑問すら抱かないんだ。
そんな中で、私は一族を異常だと思う『異端児』だった。
このまま家にいたら、気が狂ってしまうと思った。
だから、逃げたんだ。遠い遠い親類を頼って。
彼もまた霊泉の血に逆らって破門になった人物だった。それが切藤聡太郎きりふじそうたろう。私はこの養父が本当の父親だと思っている。」

一度だけ会った事がある、切藤総合病院の創設者。

数年前に病気で他界して、今は親父が跡を継いで理事長になった。

「養子縁組の時、霊泉家は書面で回答してきた。
『二度と霊泉を名乗るな!一族の恥が!』的な内容だったが、まぁアッサリと籍を抜けられたのは幸いだった。高校からは生まれ変わった気分だったよ。
『切藤拓哉』としての新しい人生は素晴らしかった。友人ができたし、子供のいない養父の後を継ぎたいと言う目標もできた。そして大学生になり、フランス留学中に陽子さんと知り合ったんだ。」

2歳年上の陽子は、既にフランスで女優として生活していたらしい。

「必死に口説いて…日本に帰国してからもずっとアプローチし続けた。暇さえあればバイト代を叩いて会いに行った。5年かけてようやく恋人に、その翌年に結婚してくれる事になったんだ。」

「すげぇ執着。」

「同感。でもブーメランだからやめとけ?」

俺の呟きに翔が謎の反応をする。

「陽子さんは結婚を機に、活動の場をフランスから日本に移す事に決まっていた。
大手の事務所と契約して、デビュー前から映画出演が数本決まる程に期待されていたんだ。
私も医師として研鑽を積んで、養父の病院を継ぐために努力していた。
幸せで、全てが順風満帆だった。
…霊泉家から『制裁』が降るまではーー。」

「制裁?親父の戸籍は霊泉から抜けてるんだから関係ないんじゃないの?」

翔の疑問は俺も思っていた事だった。

「私もそう思っていたが、甘かった。
どうやら霊泉家に代々伝わる家系図の上では名前が抹消されていなかったらしい。
そこに名前が残っている以上、法的に籍を抜けようが『霊泉家』であると奴等は考えている。
そして…何処から嗅ぎつけたのか知らないが、まだ辛うじて一族である私と陽子さんの婚姻に猛反発した。」

一族外の人間と結婚したら血が薄くなるとか馬鹿げた理由だろうか。

「それもある。だがそれ異常に、陽子さんが女優である事が気に入らなかった。
遥か昔、霊泉家は『芸能』に従事する者を従える立場だった。
それを引きずっている…つまり『自分達に媚び諂うべきの人間』を一族に迎え入れる事など言語道断だと言ってきたんだ。」

「いや、時代錯誤すぎねぇ?そんなん平安時代とかの話だろ。」

「まったくもってその通りなんだが…霊泉に常識は通用しない。
そして、その制裁は私ではなく陽子さんに向いたんだ。
その結果ーーー決まっていた映画の話は無くなり、契約した事務所からも解雇された。
映画の監督達は随分粘ってくれたようだが…それでも決定は覆らなかったんだ。」

「霊泉家は芸能界にも顔が効くって事?」

「世の中を回しているような人間は、何かしら後ろ暗い所を持っている。
そこを突いたのか…あるいはお互いに利のある協定を結んだのか…。
とにかく、それができるだけの権力が霊泉家にはあるんだ。
他の事務所に入った所で仕事は全て潰されるに違いなかった。
…お前達の母親は強い女性だろう?
それでも…その陽子さんでも心を折られてしまった。
これはお前達に霊泉家がいかに狂ってるかを正確に伝えたいから言うが…
憔悴して鬱のようになってしまった陽子さんに手紙が届いたんだ。
それは有名な劇団からで…もしや舞台女優としての道が開けるかもしれないと期待して開いたそれにはこう書いてあった。
『身の程を知れ、血を汚す阿婆擦れ』と。」

陽子にさらなるショックを与えるために手紙を偽装したって事か…。

「不幸中の幸いだったのは、私が先に手紙に気付いて、陽子さんに見せないように処分できた事だ。
アレを陽子さんが目にしていたらと思うと…。
怒りに任せて霊泉家に乗り込もうとする私を止めたのは養父だった。
それこそ奴等の思う壺だと…もう一度足を踏み入れたら、二度と逃げる事はできないと…。
そうなったら陽子さんはどうなる?
傷付いた陽子さんを1人にするなんて選択肢は私には無かった。
だから、彼女の第二の夢であるアパレル会社の立ち上げに全力を尽くした。
少しずつ持ち直してくれた陽子さんは本当に強いと思う。
養父の伝手と私の待てる知識の全てを使って、霊泉家に悟られる事なく開業する事ができた。
別人の名義を使ったりして…それはもう大変だったが…陽子さんが笑顔を取り戻してくれた事が何より嬉しかった。
それと同時に、二度と霊泉家の好きにさせない為の方法を考えた。
うちの病院にVIPフロアがあるのは知っているな?


切藤総合病院の最上階にはVIPフロアがある。
完全個室で、患者同士が廊下ですれ違う事すら無いように配慮されたその空間。

「権力には権利だ。
あのフロアを作る事で私は、警察、金融、報道ーーーそう言ったトップレベルの患者と繋がりを持つ事に成功した。
特に重要なのが、政府関係者ーーそれも、霊泉家の政敵となる人物達との繋がりだ。
私は度々政治家の催しに招待されているだろう?
ああいったものが霊泉家への牽制になる。
霊泉家の後ろ暗い所を『いつでもバラす準備がある』と匂わせる事でな。
その甲斐あって、陽子さんが会社を立ち上げた事に気が付いてからも霊泉家に動きはなかった。
翔が生まれた時も、蓮が生まれた時も最大限警戒していたんだが何もなかった。
だが逆を言うと、こちらサイドにはまだ霊泉家を潰す程の力はない。」

「つまり、膠着状態って事か。」

俺の言葉に父親が渋い顔をする。

「そのはずだったんだがーーまさか蓮に接触してくるとは…。」

「思い当たる理由は?」

「可能性があるのは、私の『兄』の出来があまり良くない事だ。一応政治家にはなったが、全くうだつが上がらないらしい。
そこで当主の跡目を『孫』に継がせる事を考え始めたのかもしれない。」

「って事は、未だに親父の名前は家系図にある訳?


「恐らくな…。私の名前が消されなかったのは『兄』の不出来に備えたスペアの目的だろう。
『兄』には息子と娘が1人ずついるらしいが…より優秀な孫を選ぶ為に接触してきたと考えるのが妥当だ。」

「でもさ、俺が優秀だとか分かるか?
判断できるとすれば、たかだか小学校の成績だろ?そんなので……あ…。」

途中で思い当たったのは、翔も同様だったらしい。

目を見開く俺達に、父親が静かに言った。

「お前達の予想通りだ。恐らく、この家で蓮と接触した人間の誰かがその情報を外部に漏らしたんだろう。」

その誰かは、俺の能力が高い事を身を持って知っている人物。

「あの中の誰かーーー。」

5歳の頃から度々訪れては『将来は一緒に仕事をしよう』と言って帰っていく彼らの中に、内通者がいる。


そう結論付けても、恐怖も無ければ胸が痛む事もない。





ただーーー


無性に晴に会いたかった。



●●●
side晴人47話の最後に書いていた『切藤総合病院のVIPフロア』はこんな目的で作られたのでした。
























霊泉家やばない??
何方の苗字とも被らないように検索してゼロなのを確認したけど…もしいらっしゃったらすみません!
この物語はフィクションです!!笑



























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