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「いやー、別にオイラは斥候じゃないんだけどな」




 そうぼやきながら、パーティの先頭で罠の有無を確かめているタケル。




 ショウのパーティには斥候役が一人もいなく、罠が多用される遺跡ではかなりの苦戦をしいられる事となる。




 今回斥候役をしてくれているタケルも、冒険者としての長いキャリアから一応経験はあるようだが、それでも本職と比べると心許ない事は確かだ。故に一同の進行速度は未だかつて無いほどにゆっくりと進んでいる。




「ほうらまた見つけた。落とし穴だ、みんな落ちないように迂回して進んで」




 遺跡の地面に張られている石畳の微妙な色の違いから、落とし穴を発見したタケルが後方の仲間達に注意を促す。




 ちょうど真後ろで進んでいたアンネが静かに頷くと、落とし穴を迂回するように慎重に通路を進んだ。




 それに習って他の仲間もゆっくりと進む。




 順番が魔法使いのシャルロッテの番になり、彼女が慎重に進んでいると突然遺跡の天井から石で出来た人間の手のようなモノが出現し、シャルロッテの小さな身体を殴打する。




「キャッ!?」




 短い悲鳴を上げて体勢を崩すシャルロッテ。




 どうやら反射的に身を捻ったらしく、石の拳で殴打された割に怪我は無さそうだが、それでも彼女が体勢を崩したのは落とし穴が仕掛けられた床の上。




 色の違う石畳を踏みつけた瞬間、その場所が崩壊してシャルロッテの小さな身体が床に出来た穴に飲まれてゆく。




「シャルロッテ!?」




 後方から駆け寄るショウだが、天井からの刺客がそれ以上の行動を許さなかった。




 現れたのはストーンゴーレム。




 全身が石で作られた魔道人形。




 その強さは作り手の実力にもよるのだが、これほど巨大な遺跡の番人として置かれているという事は生半可な強さでは無いのだろう。




 大きさは3メートルほどだろうか。




 細い遺跡の通路に出現すると、さらに巨大に見えるから不思議だ。




 人型をベースにしているようだが、シャルロッテを殴り飛ばした石の巨椀は合計で6本ほどあった。




「すぐにコイツを倒して、シャルロッテを救出に向かう!」




 ショウは腰に差した聖剣を引き抜くと正眼に構えた。




 その瞳にはメラメラと闘志の炎が燃えている。




 ストーンゴーレムはジッとショウを見据えると、予備動作無しでいきなり襲いかかってくる。その見た目にそぐわぬスピードで突っ込んできたゴーレムは石の拳をショウに叩きつけた。




 予想外の奇襲に、しかししっかりと聖剣でガードをするショウ。




 そのパワーに身体ごと吹き飛ばされたショウは壁に叩きつけられ、一瞬意識を失いかけた。




(マズい・・・このゴーレム強いぞ!?)




 壁に叩きつけられた衝撃で何かの罠が起動したのだろうか、側方から飛んでくる複数の矢。




 叩きつけられた衝撃で上手く回避行動が取れずに、矢の一本がショウの右肩に突きささる。苦痛に顔を歪め、仲間達が何か叫んでいるのがかすかに聞こえた。




「勇者様! 危ない!」




 顔を上げる。




 視界いっぱいに広がる大きな拳。




 右斜め前方に転げて回避を試み・・・その先の石畳の色が他の場所と違う事に気がつく。




(落とし・・・穴?)




 砕ける床。




 内臓がねじれるような奇妙な浮遊感。




 そしてショウは暗い穴の底へと落ちていく。




「勇者様ぁ!!」



























「うっ・・・うーん」




 痛む身体に鞭打って状態を起こす。




 どうやら先ほどの落とし穴は落とした対象を即死させるようなトラップでは無かったようで、身体の弱いシャルロッテもまだ意識がはっきりとしていた。




 高所からの落下に即座に対応して、ウィンドストームの魔法を下に放って落下の速度を緩和したのが功を奏したのだろうか。全身が打ち身で痛むが骨折などはしていないようだ。




 とにかく身体が動くなら、はぐれた仲間と合流できるように周囲の様子を確認した方が良いだろう。




 薄暗い空間を眼をこらして良く観察すると、少し遠くから何か大きなモノが近づいてくるのが見えた。




 こんな遺跡で出会う相手が友好的な筈が無い。シャルロッテはよろよろと立ち上がり、いつでも魔法を放てるように杖を前に構える。




 ゆっくりとこちらに移動してきた相手の姿が見え始める。




 石で出来た巨体。




 人型をベースに後から適当に付け足されたかのような逞しい六本の腕。




 この遺跡を守護するガーディアン。ストーンゴーレムの一体である。




 シャルロッテはキッと相手を睨み付けると杖を高く掲げ、攻撃魔法の準備をして・・・・・・そして奇妙な点に気がつくのであった。




(移動が遅すぎる? 遺跡の守護者が侵入者相手に手加減をするはずが無いし・・・)




 その疑問はストーンゴーレムの姿がはっきりと見える事で解消された。




 そのストーンゴーレムは身体の大部分が何者かによって破壊されていた。かろうじて動けるだけの機能が無事だったのか、ゆっくりとこちらに向かって移動をしているようだが・・・・・・その姿は必死に捕食者から逃げる草食獣を思わせた。




 パン、と乾いた音と供に歩いていたゴーレムの頭部分を何かが貫いた。それがトドメだったのだろう、ストーンゴーレムはゆっくりと地に倒れてその機能を停止させる。




 足音が聞こえる。




 きっとソレは、今目の前で倒れているゴーレムを倒した存在。




 シャルロッテは震える手を押さえつけ、必死に杖を構える。




(私は・・・まだ死ねない!)




 薄暗い空間で見えるのは、どうやら二人組の人型のシルエット。




 もう魔法を放った方が良いのだろうか? そんな考えが頭を過ぎるが、もしこの人影が助けに来てくれた仲間のモノだったりしたら目も当てられない。相手の姿がはっきり確認できてからでも遅くは無いだろう。




 そして歩いてきた二人の姿が、遙か頭上のシャルロッテが落ちてきた穴から差し込んだわずかな光りに照らされた時、彼女は口を大きく開けてその予想外の人物を凝視してしまった。




(そんな・・・あり得ない・・・でも・・・)




 シャルロッテは震える唇で、その人物の名を呼ぶ。




「・・・・・・ハヤミ?」











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