パーティーから追放された中年狙撃手の物語

武田コウ

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スノードラゴン

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 ドラゴンのやっかいな点をあげろと言われれば、まず第一にあげられるのがその鱗であると言わざるを得ないだろう。




 薄くて軽いその鱗は、しかし生半可な攻撃では傷がつかない頑丈さを持っている。その特性からドラゴンの鱗を加工して作られた武器や防具は、伝説級の金属であるアダマンタイトで作られた防具よりも高値で取引される事もあるのだとか。




「”ヘル・ファイア”」




 シャルロッテの展開した広範囲魔法が、スノードラゴンを襲う。




 全てを焼き尽くす地獄の業火。広範囲ながらAランクの魔物であるバジリスクを一撃で焼き殺すほどの威力を持った非常に強力な魔法だ。




 しかし数秒後、炎の海から姿を現したスノードラゴンにダメージを負った様子は見られなかった。




 全身を覆った強固な鱗が、シャルロッテの魔法を遮断したのだろう。




「うぉおお! 煌めけ”暁の剣”」




 ショウが聖剣の真名を解放して、強化された脚力で跳躍する。




 翼あるモノの領域であるドラゴンの目線にまで飛び上がったショウは、深紅に染まった聖剣を閃かせ、流れるような動きでドラゴンの胴体へ打ち込んだ。




 かつてのドラゴンの戦いが頭をよぎる。




 攻撃のことごとくがその鱗に阻まれて苦戦をしいられたかつての戦い。しかし・・・。




「ギュルアァアア!?!!」




 ドラゴンが悲痛の叫びを上げる。




 聖剣の一撃は、驚くほどあっさりと強固なドラゴンの鱗を切り裂いたのだ。




 魔王カプリコーン




 そして魔王ヴァルゴ・・・。




 強大な二人の魔王との戦いを経て、ショウは己の未熟を思い知った。




 そして己の力を高める為に仲間と供に鍛錬に明け暮れたのだ。それは今までの神の加護にだけ頼っていたショウが、初めて自ら力を求めて足掻いた行為。




 己の力を磨いたショウの一撃は今までの比では無い。聖剣の力を限界まで引き出し、文字通り全てを斬り裂く究極の一撃へと昇華した。




 傷を負ったドラゴンが、苦し紛れに翼をはためかせてその場から離れる。




 しかしその先に待っていたのは、何故か空中に立っているタケルだった。




「逃げられんぜ? お前はよう」




 ニヤリと笑いながら右手を天に掲げる。




 タケルの周囲に現れるはぼんやりと紫色に輝く矢が十本。その鏃をスノードラゴンに向けてまさに放たれんとしていた。




「”破魔の法其の一 竜滅の矢”」




 振り下ろされた右手。それと同時に十本の矢がスノードラゴンに襲いかかる。




 巨大なドラゴンの身体に対して十本の矢はあまりに小さく思えるが、それでも込められた力は相当なモノだったらしく、打ち抜かれたドラゴンはそのままの勢いで地に落ちていく。




「そっち行ったぜ騎士さん!」




 タケルの声に応えるようにドラゴンの落下地点に駆けつけるのは女騎士アンネ。彼女は腰の剣を引き抜くと一気に飛び上がって、鮮やかな一撃をドラゴンに向け放つ。




 一刀両断。




 修行により剣術の極みにまで達したアンネの一撃は、最強の生物であるドラゴンの身体をまるで問題にせずに両断した。




 分かたれたドラゴンの死体から吹き出した血が、雪原を鮮やかな赤色に染めていく。




 アンネは剣を腰の鞘に収めて仲間の元へと駆け寄った。




「やったねアンネ! 素晴らしい一撃だったよ」




 ショウの褒め言葉に頬を赤く染めてアンネは「いえ、皆さんのサポートがあったからです」と謙遜をする。




 皆が勝利の感慨に浸っている中、少し離れた所で周囲を見回していたタケルがポツリと呟いた。




「・・・・・・おかしいな。ここはドラゴンの巣なんだから、一体だけの筈は無いんだが・・・」

































 勇者一同がスノードラゴンと戦っていた場所から少し離れた雪原。降り止まぬ吹雪の中、ゆっくりと遺跡に向かう人影が二つ。




「しかしアンタかなり強いな。俺の出番がほとんど無かったぜ」




 関心したように、隣を歩く暗黒騎士フェアラートを賞賛する速見。フェアラートは腹の底に響くような低音で返答をした。




「我が身体は魔神クレア・マグノリア様より戦闘に特化して生み出された存在・・・戦闘力が高いのは当たり前とも言えますな」




「・・・なるほどね。となるとアンタはもともと強い魔族を蘇らせたんじゃなくて俺みたいに色んな死体をつなぎ合わせた感じなんだな」




 そんな会話を交わす二人の後方には、無数のスノードラゴンの死体が転がっているのだった。








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