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「この絵はどうしたんだ?」
ニコルソンが手に抱えていた絵を見て、オスカーは不思議そうに首を傾げる。
何故なら、その絵はオスカーが既に持っている絵と瓜二つだったのだ。
「お嬢様が、お描きになりました」
「何!」
オスカーは既に書斎の壁にかかっている絵とニコルソンが持っている絵を見比べる。
確かに技術的には購入したものの方が上だが、雰囲気というか、色彩の印象、構図もそっくりだ。
「これは一体どういうことなのだ?」
この絵を購入したのは、かなり前のことだ。
外交の仕事で他国を訪れた折、たまたま店先で見かけて手に入れたものだ。
それが、今、あの子が描いたものとそっくりとは……どうしてだ?
「……あの子を呼べ」
オスカーはそういってニコルソンから絵を受け取ると購入した絵の隣に置いた。
「似ているが別物だな。しかし、何か……」
オスカーは釈然としない気持ちのままアンジュを待った。
私は突然ニコルソンに手を引かれてパパの書斎に連れて来られた。
「お嬢様をお連れいたしました」
ニコルソンは私の肩に手を置いて、優しく呟いた。
「大丈夫です。少しお聞きしたいことがあるだけですので」
私は恐る恐る頷くとパパに向き合った。
パパは私を今までにないくらい怖い顔で見つめると冷たい声で聞いて来た。
「これはなんだ?」
「え?」
「お前が描いた絵だ」
そういって見せられたのはさっき私が描いた絵だ。
「えっと、さっき描いた絵です」
「お前は書斎に入ったことがあるな?」
「はい」
「では、この絵を見たな? 真似したのだろう!」
そういって指をさされたのは壁に掛かった絵だ。
この絵は………
「ママの絵だーーー!!!!」
「何?」
「ママの絵です。どうしてパパが、ママの絵を持っているんですか?」
パパは私の絵とママの絵を見てから、手を顎に当てる。
「どういうことだ……」
「パパ、パパ! この絵はどうしたんですか? 買ったんですか? この絵はずっと前に売ったはずです!」
「売った……」
「そうです! ママは画家です! とっても上手なんです! まさかパパがママの絵を持ってるなんて!! すごーい」
その時、バンッと大きな音がしたと思ったら、パパがテーブルを叩いた。
「黙れ」
「公爵様!」
慌ててニコルソンが私の前に立つ。
「どけ! ニコルソン」
パパはニコルソンを退けて、私の前に立った。
「お前の母親の絵だと知っていれば買わなかった。こんな汚らわしい絵など!!」
そう言うと、壁に掛かっているママの絵を取り外すと床に投げつけた。
「やめて!!!!」
私はママの絵の上に覆い被さるとパパを見上げる。
「やめて!! やめて下さい!!!」
あまりにショックで、涙が溢れてくる。
「やめて……、やめてよぉ」
肩で息をするパパとそのパパを止めているニコルソン、絵の前に座り、泣く私。
もうグチャグチャだ。
私はパパが投げたママの絵を抱えるとドアに向かう。
とても重たいが、ここに置いておいたらきっと壊されてしまう。
ママの絵を守らなくちゃとしか考えられない。
ズルズルとママの絵を引きずってなんとかパパの書斎から脱出する。
「待て!!!」
中からパパの怒鳴り声が聞こえてくるが無視だ!
私はママの絵をひきずりながら、部屋に向かった。
バタンと自分の部屋のドアを閉めるとそのままもたれ掛かって座り込む。
ズルズルと引きずって来たママの絵の額はボロボロになったが、絵は無事だ。
「ママ……」
この絵は、ママのお気に入りだった。
でも、お金がなくて仕方なく売ったものだ。
私も大好きだった。
それは青い空の下に可愛らしい家が描かれているものだ。
何故パパが持っているのかはわからないが、ママはこの家は思い出の家だと言った。
私は覚えていないし、パパも知らないはずなのに……
それでも、この絵を大切に飾っていたんだ。
私は両手で絵を抱きしめる。
やっぱりパパにはママを思い出して欲しい。
パパに嫌われてもいい。怒りや恨みでもいい。
それでも思い出してほしい。
私は心からそう思った。
その時、ドアの向こうからニコルソンの声が聞こえて来た。
「お嬢様? 大丈夫ですか? 申し訳ありません。私が安易にお嬢様の絵を公爵様にお見せしてしまったから、このようなことに。誠に申し訳ございません」
私は涙をグイッと拭うとドアに向かって答える。
「大丈夫です。…………パパは?」
「公爵様は庭園に向かわれました」
「本当?」
「はい」
私はニコルソンの言葉に窓まで走ると庭園の跡地を見る。
すると確かにパパがいた。
慌ててドアに戻ると、少しだけ開けた。
「ニコルソンだけ?」
「はい、もちろんでございます」
「私は、聞きたいことがあるの」
「何なりとお尋ねください」
私は、ニコルソン一人が通れるくらいドアを開けると脇に寄った。
「入って」
「はい」
ニコルソンは私の部屋に入るとすぐにママの絵を持つと慎重に壁に立てかける。
そして、私に向かって深々と頭を下げた。
「お嬢様、本当に申し訳ございません。まさか公爵様があのような暴挙に出るとは思いませんでした。お怪我はございませんか?」
「大丈夫です」
私はニコルソンの顔を見上げて、しっかりと目を合わせる。
聞くなら、今しかない。
「ニコルソン、パパはどうしてこの絵を持ってるの? 教えて!」
ニコルソンが手に抱えていた絵を見て、オスカーは不思議そうに首を傾げる。
何故なら、その絵はオスカーが既に持っている絵と瓜二つだったのだ。
「お嬢様が、お描きになりました」
「何!」
オスカーは既に書斎の壁にかかっている絵とニコルソンが持っている絵を見比べる。
確かに技術的には購入したものの方が上だが、雰囲気というか、色彩の印象、構図もそっくりだ。
「これは一体どういうことなのだ?」
この絵を購入したのは、かなり前のことだ。
外交の仕事で他国を訪れた折、たまたま店先で見かけて手に入れたものだ。
それが、今、あの子が描いたものとそっくりとは……どうしてだ?
「……あの子を呼べ」
オスカーはそういってニコルソンから絵を受け取ると購入した絵の隣に置いた。
「似ているが別物だな。しかし、何か……」
オスカーは釈然としない気持ちのままアンジュを待った。
私は突然ニコルソンに手を引かれてパパの書斎に連れて来られた。
「お嬢様をお連れいたしました」
ニコルソンは私の肩に手を置いて、優しく呟いた。
「大丈夫です。少しお聞きしたいことがあるだけですので」
私は恐る恐る頷くとパパに向き合った。
パパは私を今までにないくらい怖い顔で見つめると冷たい声で聞いて来た。
「これはなんだ?」
「え?」
「お前が描いた絵だ」
そういって見せられたのはさっき私が描いた絵だ。
「えっと、さっき描いた絵です」
「お前は書斎に入ったことがあるな?」
「はい」
「では、この絵を見たな? 真似したのだろう!」
そういって指をさされたのは壁に掛かった絵だ。
この絵は………
「ママの絵だーーー!!!!」
「何?」
「ママの絵です。どうしてパパが、ママの絵を持っているんですか?」
パパは私の絵とママの絵を見てから、手を顎に当てる。
「どういうことだ……」
「パパ、パパ! この絵はどうしたんですか? 買ったんですか? この絵はずっと前に売ったはずです!」
「売った……」
「そうです! ママは画家です! とっても上手なんです! まさかパパがママの絵を持ってるなんて!! すごーい」
その時、バンッと大きな音がしたと思ったら、パパがテーブルを叩いた。
「黙れ」
「公爵様!」
慌ててニコルソンが私の前に立つ。
「どけ! ニコルソン」
パパはニコルソンを退けて、私の前に立った。
「お前の母親の絵だと知っていれば買わなかった。こんな汚らわしい絵など!!」
そう言うと、壁に掛かっているママの絵を取り外すと床に投げつけた。
「やめて!!!!」
私はママの絵の上に覆い被さるとパパを見上げる。
「やめて!! やめて下さい!!!」
あまりにショックで、涙が溢れてくる。
「やめて……、やめてよぉ」
肩で息をするパパとそのパパを止めているニコルソン、絵の前に座り、泣く私。
もうグチャグチャだ。
私はパパが投げたママの絵を抱えるとドアに向かう。
とても重たいが、ここに置いておいたらきっと壊されてしまう。
ママの絵を守らなくちゃとしか考えられない。
ズルズルとママの絵を引きずってなんとかパパの書斎から脱出する。
「待て!!!」
中からパパの怒鳴り声が聞こえてくるが無視だ!
私はママの絵をひきずりながら、部屋に向かった。
バタンと自分の部屋のドアを閉めるとそのままもたれ掛かって座り込む。
ズルズルと引きずって来たママの絵の額はボロボロになったが、絵は無事だ。
「ママ……」
この絵は、ママのお気に入りだった。
でも、お金がなくて仕方なく売ったものだ。
私も大好きだった。
それは青い空の下に可愛らしい家が描かれているものだ。
何故パパが持っているのかはわからないが、ママはこの家は思い出の家だと言った。
私は覚えていないし、パパも知らないはずなのに……
それでも、この絵を大切に飾っていたんだ。
私は両手で絵を抱きしめる。
やっぱりパパにはママを思い出して欲しい。
パパに嫌われてもいい。怒りや恨みでもいい。
それでも思い出してほしい。
私は心からそう思った。
その時、ドアの向こうからニコルソンの声が聞こえて来た。
「お嬢様? 大丈夫ですか? 申し訳ありません。私が安易にお嬢様の絵を公爵様にお見せしてしまったから、このようなことに。誠に申し訳ございません」
私は涙をグイッと拭うとドアに向かって答える。
「大丈夫です。…………パパは?」
「公爵様は庭園に向かわれました」
「本当?」
「はい」
私はニコルソンの言葉に窓まで走ると庭園の跡地を見る。
すると確かにパパがいた。
慌ててドアに戻ると、少しだけ開けた。
「ニコルソンだけ?」
「はい、もちろんでございます」
「私は、聞きたいことがあるの」
「何なりとお尋ねください」
私は、ニコルソン一人が通れるくらいドアを開けると脇に寄った。
「入って」
「はい」
ニコルソンは私の部屋に入るとすぐにママの絵を持つと慎重に壁に立てかける。
そして、私に向かって深々と頭を下げた。
「お嬢様、本当に申し訳ございません。まさか公爵様があのような暴挙に出るとは思いませんでした。お怪我はございませんか?」
「大丈夫です」
私はニコルソンの顔を見上げて、しっかりと目を合わせる。
聞くなら、今しかない。
「ニコルソン、パパはどうしてこの絵を持ってるの? 教えて!」
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