昨日の敵は今日のパパ!

波湖 真

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「おはようございます」
私は遠慮なくドアを開けると、勝手に席に座る。
朝食を食べていたパパは手を止めて、あんぐりとした顔で私を見つめている。
私はその場で立ち尽くしているメイドに声をかける。
「私にも朝ごはんをもらえますか?」
「は、はい! かしこまりました」
パパの様子を確認しながらも返事をしたメイドはそのままドアから出て行った。
この部屋にはパパと私とニコルソンが残っている。
昨日の一件から私は作戦を変更することにしたのだ。
どうせ私という存在をわかってもらうために必要なことなら、正々堂々とやろうと決めた。
「おはようございます! パパ」
私はにっこりと微笑むとパパへ挨拶する。
「あ、ああ」
昨日ような嫌味は出て来ず、私は安心する。
不意打ちっていい考え!
「お嬢様、お飲み物は何になさいますか?」
ニコルソンは相変わらずに笑顔で私に尋ねる。
パパ程には驚いてくれないみたい。
「えっと、オレンジジュースを下さい」
「はい、ただいまお持ちいたします」
そのままニコルソンが出ていくと私とパパはお互いに視線を送る。
「パパ、私、今日から一緒にご飯を食べます」
やっと我を思い出したパパが口元にナプキンを当てながら答える。
「何故だ」
「食べたいからです」
「何故、私がおまえと食べねばならん。不愉快だ」
ふんっと顔を横に向けるが、私は強気で言い切った。
「パパが私のパパだからです」
これ以上の理由があるだろうか。
パパにママのことを思い出してもらうと同時に父親としての義務を果たしてもらう作戦だ。
私を練習台にして、お兄様達に接すれば、きっとパパとお兄様達の関係は良くなるだろう。
私との関係は元々良くないから、これ以上悪くなっても構わない。
それに、少しだけ、パパというものを堪能したい。
だって生まれてからずっとママしかいなかったのだから。
「……勝手にしろ」
パパは私をいないものとして考えるみたいで、それ以降は全く私の方を見ない。
それでもいい。
私の目的はパパと仲良くなることではない。
「パパ、昨日お兄様達が帰ってしまったんです。私は少し寂しいんです。だって、二人ともとても優しいお兄様だから。パパは二人のことを好きですか?」
「…………」
「パパ、今日は天気がいいみたいです。一緒に散歩に行きませんか? 気持ちいいですよ」
「…………」
「パパはどんな絵が好きですか? 私は風景画が好きなんです」
私一人が話す時間だ。
流石に笑顔も引き攣る。
パパは、黙々と食事をすると黙ったまま立ち上がり、何も言わずに食堂を出て行った。
「……ははは、やっぱり嫌われるよね」
私は笑顔のまま俯いた。涙が溢れそうだ。
でも、泣かない。
今まで、懸命に食べていた手を止めるとフォークをテーブルに置いた。
「ご馳走様でした」
私はトボトボと歩いてドアに向かう。
ニコルソンが、サッとドアを開け、私を通してくれたが、何も言わなかった。
きっととても惨めに見えただろうな。
なんといっても、初めてのパパとの朝食だったのだ。
「あーあ、残念だなぁ」
私は歩きながら食堂を振り返ってみる。
それでも、この滑稽な食事を三食続けるつもりだ。
どんなに嫌がられても、子供は親と食事をとりたいはずだ。
お兄様達が我慢したことを私はやる!
あっ! ママみたいに絵を描くところを見せるのもいいかもしれない。
私には絵の才能はないが、ママに似ているのだ。
きっと何かを思い出すキッカケにはなるだろう。
私は早速ニコルソンに絵を描く道具を用意してもらった。
そして、わざとパパの書斎から見える場所にキャンバスを立てた。
用意してもらった絵の具は見たこともないほどの高級品だったけど、私は遠慮なく使うことにする。
「何を書こうかな? やっぱり空かなぁ。ママが描く空ってとっても綺麗なんだよねぇ」
私は空を見上げて青い絵の具を手に取った。
青と白を重ねて、空の絵を描いてみる。
上手くはないが、たぶん下手でもないだろう。
青い空に白い雲が浮かんでいる。
後は見覚えのある建物もいくつか書き足す。
いつもママと雲を色々なものに見立てて物語を作ったことを思い出す。
「あっ! あれは犬かな? ということはあの細長い雲は飼い主? 面白いなぁ」
何度かパパの書斎から誰かが見ている視線を感じたが、私はいつのまにか夢中になって絵を描いてしまった。
「お上手でございますね」
いつの間にか、すぐそばにニコルソンが立っている。
「ニコルソン……」
「お嬢様には絵の才能がおありです」
「そんなことありません。ママの絵を見たらニコルソンだってそんなこと言えないと思います」
「それでも、この空はまるで切り取ったようです」
ニコルソンが感心したようにいってくれるので、私も少しだけ嬉しくなる。
「ほんとう?」
「本当です。どなたに教わったのですか?」
「え? 誰にも教わったことないよ。ママが絵を描くのを見ていただけだよ」
「そうですか……」
ニコルソンは何かを考えていたが、一人で納得したように頷くと、私の絵を台から外した。
「ニコルソン?」
「お嬢様、申し訳ございませんが、こちらをお借りいたします」
「え? ニコルソン?」
ニコルソンは私の目の前で描いた絵を持ち上げて、横に置いていた真っ白いキャンバスを立てかける。
「こちらに何か別のものをお描きになってください」
そういって、ニコルソンは足早に屋敷の方へ歩いて行ってしまった。
「どうしたんだろ? そんなに気に入ってくれたのかな? それなら嬉しいな」
私は、その絵が大変なことになるとは思ってもみなかった。
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