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「娘……」
オスカーの耳には、あの子の声が残る。
何度確認しても、あの髪はランバート公爵家のものに間違いない。
何度神殿からの遺伝魔法結果を確認しても、自分の娘で間違いない。
しかし、全く身に覚えがないのだ。
オスカーは今混乱の最中にいる。
この八年は、あの時のことを記憶の奥に押し込めて、幸せだった頃だけを考えて生きてきた。
イレーナとの生活を思いつつ、同じように行動することでなんとか平穏を保ってきたのだ。
そうでなければ、魔法でこの家を、この国を吹っ飛ばしてしまいそうなのだ。
その均衡が崩れ始めたのは、あの少女が来てからだ。
顔を見せるなというのに、チョロチョロしているので、目につく。
毎朝の散歩で、あの子がこちらをていることはとっくに知っていた。
毎日、早朝の散歩の時に、カーテンに隠れてコチラを見ている姿がどうしても目に止まる。
こちらが見ていることには全く気づいていないのだろう。
ヒョコヒョコ見える頭が気になって仕方がない。
その姿が瞼の裏に焼き付いて離れないのだ。
「忌々しい」
思わず口をついて言葉が出てしまう。
オスカーはあの子の部屋の前に展開した監視魔法を確認する。
庭園にかけていた保護魔法よりも規模も小さく、時間には作用しないもので、あの魔力石のかけらでも十分だ。
貴重な魔力石を使ってでも監視魔法をかけずにはいられなかった。
庭園の魔法が崩れた時のように、勝手にされては堪らない。
自由にしろとは伝えたが、自由にしすぎだろう。
しかし、今更追い出すことはできない。
何故なら、人質としての価値がある。
あの子の母親を誘き出すために必要な囮なのだ。
このなんとも落ち着かない気持ちはあの事件の犯人が捕まるかもしれないという興奮から来るのだろう。
そう言えば、あの事件以降、自分以外に目を向けたのは初めてかもしれない。
このような感情は息子達に向けたことがなかったかもしれない。
自分では息子達には惜しみない教育を施していたし、希望は全て叶えて来たつもりだった。
しかし、ネイトとサイラスに言われて、初めて気がついたのだ。
二人を息子として、接していたか?
もちろん、知識としては理想の父親とはどういうものなのかは知っている。
それを実践したかというと、自信はない。
学校への入学や寮へ入る許可を与えたのも自分だし、生活に困るようなことはなかったはずだ。
しかし、この八年は自分の気持ちを平穏に保つことしか考えていなかったのも事実だ。
「恨まれていたのだな……」
かなりショックな出来事だった。
子供達はそれぞれ順調に成長していると考えていた。
しかし、息子達は実は自分に対する怒りでいっぱいだったのだ。
あんな言葉を言われるとは思っていなかった。
「はぁ……」
思わずため息を吐く。
必死に守ってきた庭園がなくなったことで、見えなかったことが見えてきた。
今まではあまりに自分自身の感情が大き過ぎて、周りを見ていなかった。
息子達へは物理的な援助のみしか行ってこなかった。
あの時から、息子達に何もしてこなかった自覚が湧き上がってきた。
しかし、こんな感情は、今更過ぎて何もできないし、彼らも何も望んでいないだろう。
「はぁ……」
もうため息を吐くしかない。
そして、そんな二人の心に入り込んだのはあの子だった。
ネイトとサイラスをいとも簡単に味方につけ、庭園の魔力石を破壊したあの子は何かが違う。
そして、自分はあの子の部屋に監視魔法をかけずにはいられない。
息子までも、取り込まれたら堪らない。
「何より、信じられんからな」
あまりに突然の連絡だった。
あまりに都合の良い状況だった。
あまりに簡単に娘だと判明した。
あまりに素早くこの家にやって来た。
しかも、一人で……
そんなに都合よく、母親がいなくなるものか?
全てが怪しすぎるのだ。
オスカーは、自分の机をバンっと叩く。
「もう、好き勝手にはさせない。母親が捕まるまで、大人しくしていてもらおう」
オスカーが、展開した監視魔法は強力なものだった。
アンジュが他人との連絡を持とうとしたと場合、その内容と相手を記録するのだ。
それは手紙であろうと、魔法であろうと、メモであろうと記録される。
もちろん話した言葉は音声として記録されるのだ。
そして、その内容はリアルタイムでこの部屋に送られて、机の上の魔力石の付いた板で見ることができるのだ。
魔女の娘だ。油断してはならない。
オスカーは、今は大人しく眠っているアンジュを眺めながら頷いた。
「息子達もこの家も私が守らねばならないのだ」
その瞳には強い決意が表れていた。
オスカーの耳には、あの子の声が残る。
何度確認しても、あの髪はランバート公爵家のものに間違いない。
何度神殿からの遺伝魔法結果を確認しても、自分の娘で間違いない。
しかし、全く身に覚えがないのだ。
オスカーは今混乱の最中にいる。
この八年は、あの時のことを記憶の奥に押し込めて、幸せだった頃だけを考えて生きてきた。
イレーナとの生活を思いつつ、同じように行動することでなんとか平穏を保ってきたのだ。
そうでなければ、魔法でこの家を、この国を吹っ飛ばしてしまいそうなのだ。
その均衡が崩れ始めたのは、あの少女が来てからだ。
顔を見せるなというのに、チョロチョロしているので、目につく。
毎朝の散歩で、あの子がこちらをていることはとっくに知っていた。
毎日、早朝の散歩の時に、カーテンに隠れてコチラを見ている姿がどうしても目に止まる。
こちらが見ていることには全く気づいていないのだろう。
ヒョコヒョコ見える頭が気になって仕方がない。
その姿が瞼の裏に焼き付いて離れないのだ。
「忌々しい」
思わず口をついて言葉が出てしまう。
オスカーはあの子の部屋の前に展開した監視魔法を確認する。
庭園にかけていた保護魔法よりも規模も小さく、時間には作用しないもので、あの魔力石のかけらでも十分だ。
貴重な魔力石を使ってでも監視魔法をかけずにはいられなかった。
庭園の魔法が崩れた時のように、勝手にされては堪らない。
自由にしろとは伝えたが、自由にしすぎだろう。
しかし、今更追い出すことはできない。
何故なら、人質としての価値がある。
あの子の母親を誘き出すために必要な囮なのだ。
このなんとも落ち着かない気持ちはあの事件の犯人が捕まるかもしれないという興奮から来るのだろう。
そう言えば、あの事件以降、自分以外に目を向けたのは初めてかもしれない。
このような感情は息子達に向けたことがなかったかもしれない。
自分では息子達には惜しみない教育を施していたし、希望は全て叶えて来たつもりだった。
しかし、ネイトとサイラスに言われて、初めて気がついたのだ。
二人を息子として、接していたか?
もちろん、知識としては理想の父親とはどういうものなのかは知っている。
それを実践したかというと、自信はない。
学校への入学や寮へ入る許可を与えたのも自分だし、生活に困るようなことはなかったはずだ。
しかし、この八年は自分の気持ちを平穏に保つことしか考えていなかったのも事実だ。
「恨まれていたのだな……」
かなりショックな出来事だった。
子供達はそれぞれ順調に成長していると考えていた。
しかし、息子達は実は自分に対する怒りでいっぱいだったのだ。
あんな言葉を言われるとは思っていなかった。
「はぁ……」
思わずため息を吐く。
必死に守ってきた庭園がなくなったことで、見えなかったことが見えてきた。
今まではあまりに自分自身の感情が大き過ぎて、周りを見ていなかった。
息子達へは物理的な援助のみしか行ってこなかった。
あの時から、息子達に何もしてこなかった自覚が湧き上がってきた。
しかし、こんな感情は、今更過ぎて何もできないし、彼らも何も望んでいないだろう。
「はぁ……」
もうため息を吐くしかない。
そして、そんな二人の心に入り込んだのはあの子だった。
ネイトとサイラスをいとも簡単に味方につけ、庭園の魔力石を破壊したあの子は何かが違う。
そして、自分はあの子の部屋に監視魔法をかけずにはいられない。
息子までも、取り込まれたら堪らない。
「何より、信じられんからな」
あまりに突然の連絡だった。
あまりに都合の良い状況だった。
あまりに簡単に娘だと判明した。
あまりに素早くこの家にやって来た。
しかも、一人で……
そんなに都合よく、母親がいなくなるものか?
全てが怪しすぎるのだ。
オスカーは、自分の机をバンっと叩く。
「もう、好き勝手にはさせない。母親が捕まるまで、大人しくしていてもらおう」
オスカーが、展開した監視魔法は強力なものだった。
アンジュが他人との連絡を持とうとしたと場合、その内容と相手を記録するのだ。
それは手紙であろうと、魔法であろうと、メモであろうと記録される。
もちろん話した言葉は音声として記録されるのだ。
そして、その内容はリアルタイムでこの部屋に送られて、机の上の魔力石の付いた板で見ることができるのだ。
魔女の娘だ。油断してはならない。
オスカーは、今は大人しく眠っているアンジュを眺めながら頷いた。
「息子達もこの家も私が守らねばならないのだ」
その瞳には強い決意が表れていた。
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