22 / 33
22
しおりを挟む
「娘……」
オスカーの耳には、あの子の声が残る。
何度確認しても、あの髪はランバート公爵家のものに間違いない。
何度神殿からの遺伝魔法結果を確認しても、自分の娘で間違いない。
しかし、全く身に覚えがないのだ。
オスカーは今混乱の最中にいる。
この八年は、あの時のことを記憶の奥に押し込めて、幸せだった頃だけを考えて生きてきた。
イレーナとの生活を思いつつ、同じように行動することでなんとか平穏を保ってきたのだ。
そうでなければ、魔法でこの家を、この国を吹っ飛ばしてしまいそうなのだ。
その均衡が崩れ始めたのは、あの少女が来てからだ。
顔を見せるなというのに、チョロチョロしているので、目につく。
毎朝の散歩で、あの子がこちらをていることはとっくに知っていた。
毎日、早朝の散歩の時に、カーテンに隠れてコチラを見ている姿がどうしても目に止まる。
こちらが見ていることには全く気づいていないのだろう。
ヒョコヒョコ見える頭が気になって仕方がない。
その姿が瞼の裏に焼き付いて離れないのだ。
「忌々しい」
思わず口をついて言葉が出てしまう。
オスカーはあの子の部屋の前に展開した監視魔法を確認する。
庭園にかけていた保護魔法よりも規模も小さく、時間には作用しないもので、あの魔力石のかけらでも十分だ。
貴重な魔力石を使ってでも監視魔法をかけずにはいられなかった。
庭園の魔法が崩れた時のように、勝手にされては堪らない。
自由にしろとは伝えたが、自由にしすぎだろう。
しかし、今更追い出すことはできない。
何故なら、人質としての価値がある。
あの子の母親を誘き出すために必要な囮なのだ。
このなんとも落ち着かない気持ちはあの事件の犯人が捕まるかもしれないという興奮から来るのだろう。
そう言えば、あの事件以降、自分以外に目を向けたのは初めてかもしれない。
このような感情は息子達に向けたことがなかったかもしれない。
自分では息子達には惜しみない教育を施していたし、希望は全て叶えて来たつもりだった。
しかし、ネイトとサイラスに言われて、初めて気がついたのだ。
二人を息子として、接していたか?
もちろん、知識としては理想の父親とはどういうものなのかは知っている。
それを実践したかというと、自信はない。
学校への入学や寮へ入る許可を与えたのも自分だし、生活に困るようなことはなかったはずだ。
しかし、この八年は自分の気持ちを平穏に保つことしか考えていなかったのも事実だ。
「恨まれていたのだな……」
かなりショックな出来事だった。
子供達はそれぞれ順調に成長していると考えていた。
しかし、息子達は実は自分に対する怒りでいっぱいだったのだ。
あんな言葉を言われるとは思っていなかった。
「はぁ……」
思わずため息を吐く。
必死に守ってきた庭園がなくなったことで、見えなかったことが見えてきた。
今まではあまりに自分自身の感情が大き過ぎて、周りを見ていなかった。
息子達へは物理的な援助のみしか行ってこなかった。
あの時から、息子達に何もしてこなかった自覚が湧き上がってきた。
しかし、こんな感情は、今更過ぎて何もできないし、彼らも何も望んでいないだろう。
「はぁ……」
もうため息を吐くしかない。
そして、そんな二人の心に入り込んだのはあの子だった。
ネイトとサイラスをいとも簡単に味方につけ、庭園の魔力石を破壊したあの子は何かが違う。
そして、自分はあの子の部屋に監視魔法をかけずにはいられない。
息子までも、取り込まれたら堪らない。
「何より、信じられんからな」
あまりに突然の連絡だった。
あまりに都合の良い状況だった。
あまりに簡単に娘だと判明した。
あまりに素早くこの家にやって来た。
しかも、一人で……
そんなに都合よく、母親がいなくなるものか?
全てが怪しすぎるのだ。
オスカーは、自分の机をバンっと叩く。
「もう、好き勝手にはさせない。母親が捕まるまで、大人しくしていてもらおう」
オスカーが、展開した監視魔法は強力なものだった。
アンジュが他人との連絡を持とうとしたと場合、その内容と相手を記録するのだ。
それは手紙であろうと、魔法であろうと、メモであろうと記録される。
もちろん話した言葉は音声として記録されるのだ。
そして、その内容はリアルタイムでこの部屋に送られて、机の上の魔力石の付いた板で見ることができるのだ。
魔女の娘だ。油断してはならない。
オスカーは、今は大人しく眠っているアンジュを眺めながら頷いた。
「息子達もこの家も私が守らねばならないのだ」
その瞳には強い決意が表れていた。
オスカーの耳には、あの子の声が残る。
何度確認しても、あの髪はランバート公爵家のものに間違いない。
何度神殿からの遺伝魔法結果を確認しても、自分の娘で間違いない。
しかし、全く身に覚えがないのだ。
オスカーは今混乱の最中にいる。
この八年は、あの時のことを記憶の奥に押し込めて、幸せだった頃だけを考えて生きてきた。
イレーナとの生活を思いつつ、同じように行動することでなんとか平穏を保ってきたのだ。
そうでなければ、魔法でこの家を、この国を吹っ飛ばしてしまいそうなのだ。
その均衡が崩れ始めたのは、あの少女が来てからだ。
顔を見せるなというのに、チョロチョロしているので、目につく。
毎朝の散歩で、あの子がこちらをていることはとっくに知っていた。
毎日、早朝の散歩の時に、カーテンに隠れてコチラを見ている姿がどうしても目に止まる。
こちらが見ていることには全く気づいていないのだろう。
ヒョコヒョコ見える頭が気になって仕方がない。
その姿が瞼の裏に焼き付いて離れないのだ。
「忌々しい」
思わず口をついて言葉が出てしまう。
オスカーはあの子の部屋の前に展開した監視魔法を確認する。
庭園にかけていた保護魔法よりも規模も小さく、時間には作用しないもので、あの魔力石のかけらでも十分だ。
貴重な魔力石を使ってでも監視魔法をかけずにはいられなかった。
庭園の魔法が崩れた時のように、勝手にされては堪らない。
自由にしろとは伝えたが、自由にしすぎだろう。
しかし、今更追い出すことはできない。
何故なら、人質としての価値がある。
あの子の母親を誘き出すために必要な囮なのだ。
このなんとも落ち着かない気持ちはあの事件の犯人が捕まるかもしれないという興奮から来るのだろう。
そう言えば、あの事件以降、自分以外に目を向けたのは初めてかもしれない。
このような感情は息子達に向けたことがなかったかもしれない。
自分では息子達には惜しみない教育を施していたし、希望は全て叶えて来たつもりだった。
しかし、ネイトとサイラスに言われて、初めて気がついたのだ。
二人を息子として、接していたか?
もちろん、知識としては理想の父親とはどういうものなのかは知っている。
それを実践したかというと、自信はない。
学校への入学や寮へ入る許可を与えたのも自分だし、生活に困るようなことはなかったはずだ。
しかし、この八年は自分の気持ちを平穏に保つことしか考えていなかったのも事実だ。
「恨まれていたのだな……」
かなりショックな出来事だった。
子供達はそれぞれ順調に成長していると考えていた。
しかし、息子達は実は自分に対する怒りでいっぱいだったのだ。
あんな言葉を言われるとは思っていなかった。
「はぁ……」
思わずため息を吐く。
必死に守ってきた庭園がなくなったことで、見えなかったことが見えてきた。
今まではあまりに自分自身の感情が大き過ぎて、周りを見ていなかった。
息子達へは物理的な援助のみしか行ってこなかった。
あの時から、息子達に何もしてこなかった自覚が湧き上がってきた。
しかし、こんな感情は、今更過ぎて何もできないし、彼らも何も望んでいないだろう。
「はぁ……」
もうため息を吐くしかない。
そして、そんな二人の心に入り込んだのはあの子だった。
ネイトとサイラスをいとも簡単に味方につけ、庭園の魔力石を破壊したあの子は何かが違う。
そして、自分はあの子の部屋に監視魔法をかけずにはいられない。
息子までも、取り込まれたら堪らない。
「何より、信じられんからな」
あまりに突然の連絡だった。
あまりに都合の良い状況だった。
あまりに簡単に娘だと判明した。
あまりに素早くこの家にやって来た。
しかも、一人で……
そんなに都合よく、母親がいなくなるものか?
全てが怪しすぎるのだ。
オスカーは、自分の机をバンっと叩く。
「もう、好き勝手にはさせない。母親が捕まるまで、大人しくしていてもらおう」
オスカーが、展開した監視魔法は強力なものだった。
アンジュが他人との連絡を持とうとしたと場合、その内容と相手を記録するのだ。
それは手紙であろうと、魔法であろうと、メモであろうと記録される。
もちろん話した言葉は音声として記録されるのだ。
そして、その内容はリアルタイムでこの部屋に送られて、机の上の魔力石の付いた板で見ることができるのだ。
魔女の娘だ。油断してはならない。
オスカーは、今は大人しく眠っているアンジュを眺めながら頷いた。
「息子達もこの家も私が守らねばならないのだ」
その瞳には強い決意が表れていた。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)
荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~
釈 余白(しやく)
児童書・童話
今より少し前の時代には、子供らが荒川土手に集まって遊ぶのは当たり前だったらしい。野球をしたり凧揚げをしたり釣りをしたり、時には決闘したり下級生の自転車練習に付き合ったりと様々だ。
そんな話を親から聞かされながら育ったせいなのか、僕らの遊び場はもっぱら荒川土手だった。もちろん小学生最後となる六年生の夏休みもいつもと変わらず、いつものように幼馴染で集まってありきたりの遊びに精を出す毎日である。
そして今日は鯉釣りの予定だ。今まで一度も釣り上げたことのない鯉を小学生のうちに釣り上げるのが僕、田口暦(たぐち こよみ)の目標だった。
今日こそはと強い意気込みで釣りを始めた僕だったが、初めての鯉と出会う前に自分を宇宙人だと言う女子、ミクに出会い一目で恋に落ちてしまった。だが夏休みが終わるころには自分の星へ帰ってしまうと言う。
かくして小学生最後の夏休みは、彼女が帰る前に何でもいいから忘れられないくらいの思い出を作り、特別なものにするという目的が最優先となったのだった。
はたして初めての鯉と初めての恋の両方を成就させることができるのだろうか。
魔法使いアルル
かのん
児童書・童話
今年で10歳になるアルルは、月夜の晩、自分の誕生日に納屋の中でこっそりとパンを食べながら歌を歌っていた。
これまで自分以外に誰にも祝われる事のなかった日。
だが、偉大な大魔法使いに出会うことでアルルの世界は色を変えていく。
孤独な少女アルルが、魔法使いになって奮闘する物語。
ありがたいことに書籍化が進行中です!ありがとうございます。
ローズお姉さまのドレス
有沢真尋
児童書・童話
最近のルイーゼは少しおかしい。
いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。
話し方もお姉さまそっくり。
わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。
表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~
めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。
いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている.
気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。
途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。
「ドラゴンがお姉さんになった?」
「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」
変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。
・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版
【1章完】GREATEST BOONS ~幼なじみのほのぼのバディがクリエイトスキルで異世界に偉大なる恩恵をもたらします!~
丹斗大巴
児童書・童話
幼なじみの2人がグレイテストブーンズ(偉大なる恩恵)を生み出しつつ、異世界の7つの秘密を解き明かしながらほのぼの旅をする物語。
異世界に飛ばされて、小学生の年齢まで退行してしまった幼なじみの銀河と美怜。とつじょ不思議な力に目覚め、Greatest Boons(グレイテストブーンズ:偉大なる恩恵)をもたらす新しい生き物たちBoons(ブーンズ)とアイテムを生みだした! 彼らのおかげでサバイバルもトラブルもなんのその! クリエイト系の2人が旅するほのぼの異世界珍道中。
便利な「しおり」機能を使って読み進めることをお勧めします。さらに「お気に入り登録」して頂くと、最新更新のお知らせが届いて便利です! レーティング指定の描写はありませんが、万が一気になる方は、目次※マークをさけてご覧ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる