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番外編

アンネマリーの運命13

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スティーブンは自分の腕の中で目を閉じたアンネマリーを一度ギュッと抱きしめてから腕に抱いたまま立ち上がった。
「殿下! エレオノーラ様は?」
スティーブンが声をかけると馬車の中から王太子が顔を覗かせる。
「ああ、大丈夫だ。さぁ、手をエレオノーラ姫」
「ジョナス様……」
二人は手を取り合って馬車から降りて来た。
「アンネマリー!!」
スティーブンに抱かれて気を失っているアンネマリーを見たエレオノーラは慌てたように走り寄る。
「エレオノーラ様、気を失っているだけです。怪我はしておりませんのでご安心ください」
「で、でも、アンネマリーはわたくしを庇って……」
涙ぐみながらもアンネマリーの手を取ったエレオノーラはありがとうとごめんなさいを繰り返した。
「エレオノーラ姫、今はこちらに。王宮へ向かいましょう」
王太子がエレオノーラの肩を抱いて再び馬車に載せるとスティーブンを振り返る。
「スティーブン、アンネマリーをここに」
そう言って馬車の席を空けた。
「……いえ、馬車には殿下がお乗りください。僕は彼女と一緒にハロルドの乗り物で帰ります」
そういうと、スティーブンは侯爵家の護衛と王太子の護衛に指示を出して二人を乗せた馬車を王宮に向かわせた。
「ハロルド! あれを用意してくれ」
今まで黙ってその光景を眺めていたハロルドは突然名前を呼ばれて我に帰った。
「先輩! アンネマリー様は馬車に乗せてもらった方がいいのではないですか? これはまだ試作なので、乗り心地がイマイチなんですよ」
「……いや、いいんだ。彼女は僕が運ぶ。それにエレオノーラ様も殿下が側にいた方が安心されるだろう」
「はぁ、まぁ、いいんですけど」
ハロルドが渋々と準備を進めたのは車輪や座席の無い馬車だった。
出来たてホヤホヤの新発明品だ。
その馬車は丸太のようなものにハンドルがついているだけだが、ハンドルがあのハロルドがいつもガチャガチャしていた魔道具だった。
なんでも、ハンドルに魔力を流すとその魔力が増幅されて丸太ごと浮き上がるのだ。
今までの車輪を回す馬車の何倍も早く移動できる大発明だ。
その丸太にハロルドが跨るとスティーブンを見た。
「さぁ、先輩、後ろに乗ってください」
「ああ、頼む」
スティーブンはアンネマリーを横抱きにしたままその丸太に跨った。
「しっかり掴まってくださいね。行きは殿下で帰りはアンネマリー様との三人乗りですか。新品なのに無理させてますから揺れますよ」
「わかっている。王宮へまで頼む」
ハロルドの魔力がハンドルを通してこの車輪のない馬車を包み込む。
そして、ふわりと浮き上がった。
「凄いな……。車輪のない馬車は」
改めてスティーブンが呟くとハロルドがブツブツとこたえる。
「車輪のない馬車って言いにくいですよね。これの呼び名は馬にしましょう」
「馬?」
「ええ、馬車から車輪を取ったら馬でしょう?」
「ははは、それはいいな」
「それじゃあ、王太子殿下達に追いつきましょう」
「ああ、頼む」
ハロルドは魔力で方向を設定すると今までの馬車の何倍ものスピードで馬は移動を始めたのだった。

アンネマリーはふわふわとした浮遊感に目が覚めた。
「ん……、え? ここは……」
目の前にはスティーブンの胸がある。
「きゃっ」
体を動かそうとするとスティーブンが注意して来た。
「アンネマリー! 目が覚めたかい? 危ないから動かないでくれ。まだ、あまり安定していないんだ」
「安定……?」
アンネマリーは周りを見渡してみた。
「え? 浮いてる? は、早いわ」
思わずスティーブンに抱きついてしまう。そんなようすのアンネマリーを片手でギュッと抱きしめるとスティーブンは軽快に笑う。
「凄いだろ? ハロルドの新発明で馬という乗り物だよ」
「馬? でも、ハロルド様はこんなものまで浮かばせられるなんて……物凄い魔力をお持ちですのね」
「そうでもないらしいよ。僕や君でも動かせるらしい」
「わたくしでも?」
「ああ、魔力を増幅させる魔道具みたいだ」
「まぁ!」
一通り説明をうけたアンネマリーはもう一度周りを見渡した。
その景色を見ながら笑顔になる。
「素晴らしいですわ!! マクスター様は天才ね!」
するとハロルドがハンドルから片手を離して恥ずかしそうに頭をかいた。
「あ、ありがとうございます」

程なく王太子達が乗る馬車に追いついてそのまま王宮へ向かったのだった。
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