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番外編

アンネマリーの運命14

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「殿下!!」
「姫!」
王宮に着くと早速王太子とエレオノーラは側近達に取り囲まれガヤガヤと奥に連れて行かれた。
取り囲まれた集団の中から王太子の「ありがとう」という声だけが聞こえて、スティーブン達はお互いに顔を見合わせた。
「じゃあ、僕たちは学校に戻るか」
「はい!」
「そうですね」
スティーブン、ハロルド、アンネマリーが歩き出そうとした時、ハロルドが取り囲まれてしまった。
「マクスター! やっと捕まえたぞ!」
「なんだ? これは? 新しい魔道具か?」
「今日こそは魔法研究所への入所を頷くまで帰さないからな!」
「おいおい、もしかしてこの魔道具は浮かび上がるか?」
ハロルドの顔から表情が消えて、青ざめた。
この魔法研究所に捕まることを何よりも恐れていたハロルドなのだ。
思わずスティーブンに手を伸ばした。
「セ、セ、センパイ……」
ハロルドにとっては初めて他人に助けを求めた。
スティーブンはハロルドを振り返り、そして、アンネマリーの顔に顔を近づけて何かを話しかけていた。
ハロルドは魔法研究所の人々に押しつぶされそうになりながらその様子を力なく眺める。

いつもそうなのだ。欲しいものが手に入ると人は直ぐにハロルドから興味が外れる。
魔道具や魔法が必要なときだけなのだ。ハロルドの所にくるのは……。
そして、スティーブンはアンネマリーを手に入れた。もうハロルドは必要ない。

ハロルドは目を閉じた。そして、手を力なく下ろそうした。
「ハロルド!!」
その時、スティーブンの手がしっかりとハロルドの手を掴んで走り出したのだ。
「せ、先輩」
「走れ!」
「は、はい」
「みなさん、僕はホースタイン公爵嫡男スティーブンです! ハロルド・マクスターは僕の友人です! そして、僕は彼を保護するパトロンです。彼に用があるのなら公爵家にお越しください」
スティーブンが大声で話すと、周りから怒号が響く。
「ホースタイン公爵家が彼を独り占めすることは許されないぞ! 彼の才能は国のために尽くされるものだ!」
スティーブンはその声を聞きながらもハロルドの手を引いて走った。
すると、目の前で先に走っていたアンネマリーが馬に跨ると二人を呼ぶ。
「早く乗ってくださいませ!」
「ああ! さぁ、ハロルド。早く乗れ!」
「え……でも、先輩」
「いいから乗るんだ」
ハロルドの手を引いてアンネマリーの後ろに跨ると三人を乗せた馬をアンネマリーが浮き上がらせる。
「飛ばします! 捕まってくださいませ」
「え? アンネマリー様……」
ハロルドの呟きを無視するようにアンネマリーは馬のハンドルを握りながらスピードを上げて王宮の門を潜ったのだった。
グングンとスピードを上げる馬に流石のスティーブンとハロルドがアンネマリーへ声をかける。
「アンネマリー、もう大丈夫じゃないか? 王宮からかなり離れたよ」
「そ、そうです。馬がミシミシいってます」
心配する二人に振り向いたアンネマリーの顔は引き攣っていた。
「マ、マクスター様……止め方がわかりませんの!!」
「え?」
「だって! スティーブン様は動かし方しか教えてくださらなかったんですもの! どうやったら、この馬はとまるのですかーー!!!」
アンネマリーの叫びを聞いた二人は同時に叫ぶ。
「アンネマリー!!」
「アンネマリー様、魔力の注入を止めてください」
「ご、ごめんなさい!!! 魔力の制御は大の苦手なのですーー」
三人の馬はそのまま暴走を続けたのだった。
幸いなことにあまりのスピードに、王宮魔法師達も追いつけず、逃げることには成功したようだった。
やっと止まったのは、アンネマリーの魔力がなくなりかけて、スピードが落ちてからだった。なんとかスティーブンがアンネマリーからハンドルを奪うと馬は静かに停止した。
「と、停まった……」
「よかった」
「はぁぁぁぁぁ」
馬から降りた三人はその場で崩れ落ちた。アンネマリー魔力不足とバランスが取れなくなったことによる目眩でそのまま倒れ込んでしまった。
「アンネマリー!! 大丈夫かい」
スティーブンが慌ててその体を支える。
「……すみません……少しこのままで……」
アンネマリーが眠るように目を閉じたのを確認してからスティーブンが呆然としているハロルドに声をかける。
「ハロルド」
ハロルドはその声にハッとしてスティーブンを見た。
「せ、先輩……。僕は……貴方は……大丈夫……ですか? パトロンって……」
スティーブンは、アンネマリーに膝枕をしながらハロルドの肩を掴む。
「勝手にすまない。君が魔法研究所に行きたくないことは、知っていたんだ。そして、それを断れないことも」
「そ、そんな」
「ただ、君は天才だ。その能力を一貴族が独占することの危険性もよくわかっている。だからこそ、今までも誰一人君の保護に名乗りを上げなかったんだろう」
「じゃあ、なんで」
「僕は君を友人だと思っている。友人なら、嫌なことはさせたくはない」
「それでは、先輩が批判を受けますよ」
「そうだな……。ただ、あの場に君を置き去りにはできなかったよ。まぁ、上手いこと考えるさ」
そう言ってスティーブンはそのまま体を倒した。
空は青く澄み渡っている。
吸い込まれそうな青にハロルドの腕を引いた。
「ほら、ハロルドも横になれよ。空が綺麗だぞ」
「そんな呑気な……」
そう言いながらもハロルドも横になる。
「ハロルド、君は何故魔法研究所には行きたくないんだ?」
「あそこには自由がないんです……。学校に通う前にもあそこに呼ばれて通ってました。あそこでは自分がやりたい研究ではなく、今必要な研究しかできないんです。それは僕にとって死にそうなくらい退屈なんです」
「……そうか」
「学校に入ることでなんとか一度離れることは出来ました。それでも、卒業したら戻らないといけないとはわかっています。先輩がパトロンと言ってくれたとしてもきっと無理だと思います」
「どうしてだ」
「彼らはそれこそ公爵家が僕の力を行使すると言いますよ。そうすると僕の保護を申し出ていた貴族は皆手を引くんです」
「そんなことがあったのか?」
「はい。何度も」
「……」
スティーブンは頭を働かせた。今までも難題を何度もクリアして来たのだ。それこそ冷徹と言われるくらいには。
確かにハロルドは国の魔法研究所にいるべき人材だとは思う。
だが、彼を味方につけたいのも事実。
そして何よりハロルドのことは友人だと思っている。
何とか彼の意に添いたい。
「学校……か」
「え?」
「そうだ! 学校だ!」
「先輩?」
「おい! ハロルド。教師にならないか?」
「え? 教師ですか」
「そうだ。君の稀有な魔法を生徒に教えるんだ。それなら魔法研究所の連中も文句は言わないし、ホースタイン公爵が囲うことにもならない」
「でも……」
「学校であれば、授業以外の時間は自由に使える。好きな研究もできる。教師への推薦状はホースタイン公爵家が用意しよう。学校だって断らない。さらに君が書いた防御魔法の論文を渡せば完璧だ」
「できますか」
「ああ、学校だって公爵家の推薦は無視できない。他の貴族だって公爵家が君を囲うよりは教師になってもらった方がいいというさ」
「魔法研究所は……」
「あそこにはこの馬の原理をくれてやれ。それで手を引くように僕が交渉する」
ハロルドは起き上がってスティーブンを見下ろした。
「あ、ありがとうございます!!」
「ああ、君を側近に出来なかったのは残念だが、この貸しはいつか返してくれ」
「はい!」
そうして、ハロルド・マクスターの学校教師への道が開かれたのだった。
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