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番外編
アンネマリーの運命12
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「下がりなさい!!」
エレオノーラがサーナイン王国にやってきて十日目の昼過ぎのことだった。
アンネマリーは王宮に呼ばれたエレオノーラに付き添って馬車に乗っていた。
前後左右についた車輪を魔道具で回して動かす馬車は安定して動く代わりにのんびりとしたスピードのものだ。
そんな馬車が、何者かに囲まれてしまったのだ。
もちろん侯爵家からの護衛がしっかりと馬車を守っているがアンネマリーは馬車の扉を開けると今にも飛びかかろうとしている覆面の男達を睨みつけて声を上げる。
「無礼者!! こちらにどなたがいらっしゃると考えているのですか! 下がりなさい!!」
「おい! この女か?」
「この馬車に乗ってる女を連れてくれば金が貰えるんだ! この女でいいだろ!」
男達の話し声から狙いはエレオノーラだと悟る。
アンネマリーは馬車の中に声をかけた。
「エレオノーラ様、座席を開けて中に隠れてくださいませ」
「ア、アンネマリー……」
「早く!」
エレオノーラは座席を持ち上げると中に横になって隠れた。
貴族の馬車の座席の下は空洞となっておりこういう場合の避難場所なのだ。
その様子を確認してアンネマリーはゆっくりと馬車から降り立った。
「わたくしに何か御用でしょうか?」
殊更ゆっくりと話す。
「お前達はここでエレオノーラ様を守りなさい」
侯爵家の護衛にそう声をかけてから、アンネマリーは男達の方に歩みを進める。
「アンネマリー様!」
「言うことを聞いて!」
「クッ」
護衛達はアンネマリーの言いつけ通り馬車から離れることはなく、アンネマリーの後ろ姿を悔しそうに見つめている。
確かにここはエレオノーラの身の安全が第一だ。なんといっても次期王妃だ。
アンネマリーは囮になる覚悟を持って男達の方に向かって歩き出した。
時間を稼げれば、絶対に来てくれる。
確信しているその思いでアンネマリーは震える体をなんとか動かした。
「おい! 女が来るぞ!」
「本当にあの女か?」
「馬車にはもう誰も乗ってないぞ。あの女で間違い無いだろう」
「よし、連れて行くぞ! 早く捕まえてこい!」
数人の男達がアンネマリーに駆け寄ってその腕を掴む。
バチッ
「イテッ!」
「何だ!」
反対から別の手がアンネマリーに伸びるが同じように弾かれた。
「イテテ」
「おい! 何してやがる!」
手を出せずにアンネマリーを取り囲む男達が睨みつけてきた。
アンネマリーはその男達に向かって優雅に微笑んでみせる。
「何って防御魔法ですわ。貴方達もかけているでしょう?」
するとリーダーのような男が舌打ちする。
「こんな防御魔法があってたまるか! 隙間がねぇじゃねぇか!」
アンネマリーは微笑みを浮かべながら両手を前に突き出した。
「そうね。この防御魔法は、特別らしいですわ。あるお方がわざわざ毎朝かけてくださいますのよ。しかも、わたくしの家にまで来て」
そういってアンネマリーは手のひらに魔力を集中させた。
「わたくし、魔法は防御魔法より攻撃魔法の方が得意ですの。今はまさに攻撃魔法の使用が許されるシチュエーションですわね」
「……な、なんだと」
「ごめんなさいね。わたくし、魔力のコントロールが上手くないの。死なないように、頑張って」
そう言うとアンネマリーは自分の手の平から魔力を男達に向かって放出した。
「うわーー」
「逃げろ!!」
男達はアンネマリーから放たれた攻撃魔法を見て慌てたように逃げ出した。
その攻撃魔法はドンという音を立てて大きな木にぶつかるとその木がグラグラと揺れてそのまま後ろに倒れてしまった。
ドッシーンという音と聴き慣れないブォーンという音が聞こえた時アンネマリーは最近聴き慣れた声を耳にした。
「アンネマリー!!!」
スティーブンが慌てたように走って来た。その後ろからは王太子と天才と名高いマクスターが走ってくるのが見える。
「スティーブン……様」
アンネマリーは大量に魔力を放出したことでバランスを崩し、その場に倒れ込んだ。
「アンネマリー!! 大丈夫か!」
アンネマリーを抱き起こしてスティーブンが必死に呼びかける。
アンネマリーは霞む目で初めて見る慌てふためくスティーブンの顔に向かって手を伸ばした。
「お、おそい……です……わ」
「すまない。防御魔法が反応した場所はすぐにわかったんだが来るのに時間がかかってしまった。本当にすまない」
「でも……大丈夫……ですわ」
アンネマリーはにっこりと微笑むとそのまま目を閉じた。
アンネマリーは信じていた。
毎朝防御魔法を掛けに来たスティーブンがいつも言っていたこと。
『何かあれば直ぐに駆けつけるよ』
初めは信じていなかったけれど、毎日言われているうちにいつの間にか信じていた。
だからこそ、攻撃魔法の後の自分を気にすることなく攻撃魔法を放てたのだ。
そして、本当に来てくれたスティーブンの腕の中で今度は安心して体の力を抜いた。
わたくしはこの人を心から信じてるんだわ。
そして、この人はその期待を裏切らない。
わたくしは……この人を……スティーブン様を……
アンネマリーは自分の気持ちを自覚して意識を手放した。
エレオノーラがサーナイン王国にやってきて十日目の昼過ぎのことだった。
アンネマリーは王宮に呼ばれたエレオノーラに付き添って馬車に乗っていた。
前後左右についた車輪を魔道具で回して動かす馬車は安定して動く代わりにのんびりとしたスピードのものだ。
そんな馬車が、何者かに囲まれてしまったのだ。
もちろん侯爵家からの護衛がしっかりと馬車を守っているがアンネマリーは馬車の扉を開けると今にも飛びかかろうとしている覆面の男達を睨みつけて声を上げる。
「無礼者!! こちらにどなたがいらっしゃると考えているのですか! 下がりなさい!!」
「おい! この女か?」
「この馬車に乗ってる女を連れてくれば金が貰えるんだ! この女でいいだろ!」
男達の話し声から狙いはエレオノーラだと悟る。
アンネマリーは馬車の中に声をかけた。
「エレオノーラ様、座席を開けて中に隠れてくださいませ」
「ア、アンネマリー……」
「早く!」
エレオノーラは座席を持ち上げると中に横になって隠れた。
貴族の馬車の座席の下は空洞となっておりこういう場合の避難場所なのだ。
その様子を確認してアンネマリーはゆっくりと馬車から降り立った。
「わたくしに何か御用でしょうか?」
殊更ゆっくりと話す。
「お前達はここでエレオノーラ様を守りなさい」
侯爵家の護衛にそう声をかけてから、アンネマリーは男達の方に歩みを進める。
「アンネマリー様!」
「言うことを聞いて!」
「クッ」
護衛達はアンネマリーの言いつけ通り馬車から離れることはなく、アンネマリーの後ろ姿を悔しそうに見つめている。
確かにここはエレオノーラの身の安全が第一だ。なんといっても次期王妃だ。
アンネマリーは囮になる覚悟を持って男達の方に向かって歩き出した。
時間を稼げれば、絶対に来てくれる。
確信しているその思いでアンネマリーは震える体をなんとか動かした。
「おい! 女が来るぞ!」
「本当にあの女か?」
「馬車にはもう誰も乗ってないぞ。あの女で間違い無いだろう」
「よし、連れて行くぞ! 早く捕まえてこい!」
数人の男達がアンネマリーに駆け寄ってその腕を掴む。
バチッ
「イテッ!」
「何だ!」
反対から別の手がアンネマリーに伸びるが同じように弾かれた。
「イテテ」
「おい! 何してやがる!」
手を出せずにアンネマリーを取り囲む男達が睨みつけてきた。
アンネマリーはその男達に向かって優雅に微笑んでみせる。
「何って防御魔法ですわ。貴方達もかけているでしょう?」
するとリーダーのような男が舌打ちする。
「こんな防御魔法があってたまるか! 隙間がねぇじゃねぇか!」
アンネマリーは微笑みを浮かべながら両手を前に突き出した。
「そうね。この防御魔法は、特別らしいですわ。あるお方がわざわざ毎朝かけてくださいますのよ。しかも、わたくしの家にまで来て」
そういってアンネマリーは手のひらに魔力を集中させた。
「わたくし、魔法は防御魔法より攻撃魔法の方が得意ですの。今はまさに攻撃魔法の使用が許されるシチュエーションですわね」
「……な、なんだと」
「ごめんなさいね。わたくし、魔力のコントロールが上手くないの。死なないように、頑張って」
そう言うとアンネマリーは自分の手の平から魔力を男達に向かって放出した。
「うわーー」
「逃げろ!!」
男達はアンネマリーから放たれた攻撃魔法を見て慌てたように逃げ出した。
その攻撃魔法はドンという音を立てて大きな木にぶつかるとその木がグラグラと揺れてそのまま後ろに倒れてしまった。
ドッシーンという音と聴き慣れないブォーンという音が聞こえた時アンネマリーは最近聴き慣れた声を耳にした。
「アンネマリー!!!」
スティーブンが慌てたように走って来た。その後ろからは王太子と天才と名高いマクスターが走ってくるのが見える。
「スティーブン……様」
アンネマリーは大量に魔力を放出したことでバランスを崩し、その場に倒れ込んだ。
「アンネマリー!! 大丈夫か!」
アンネマリーを抱き起こしてスティーブンが必死に呼びかける。
アンネマリーは霞む目で初めて見る慌てふためくスティーブンの顔に向かって手を伸ばした。
「お、おそい……です……わ」
「すまない。防御魔法が反応した場所はすぐにわかったんだが来るのに時間がかかってしまった。本当にすまない」
「でも……大丈夫……ですわ」
アンネマリーはにっこりと微笑むとそのまま目を閉じた。
アンネマリーは信じていた。
毎朝防御魔法を掛けに来たスティーブンがいつも言っていたこと。
『何かあれば直ぐに駆けつけるよ』
初めは信じていなかったけれど、毎日言われているうちにいつの間にか信じていた。
だからこそ、攻撃魔法の後の自分を気にすることなく攻撃魔法を放てたのだ。
そして、本当に来てくれたスティーブンの腕の中で今度は安心して体の力を抜いた。
わたくしはこの人を心から信じてるんだわ。
そして、この人はその期待を裏切らない。
わたくしは……この人を……スティーブン様を……
アンネマリーは自分の気持ちを自覚して意識を手放した。
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