KAKERU 世界を震撼させろ

福澤賢二郎

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駆の章

空山隆之介、動かず

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《桐谷里帆》
空山隆之介は頭部のCTスキャンを行い、そのまま点滴を射たれてベッドに横になっていた。
そのベッド横に桐谷里帆が椅子を持ってきて座る。
空山隆之介は疲れからか直ぐに寝ていた。
その時、一人の看護士が入ってくる。
「奥さんですか?先生がソラヤマさんの事で話したい事があるそうです」
「そうなんですか。はい、直ぐに活きます」
里帆は奥さんと間違われた事は言わず、看護士と共に医師の元に向かった。

診察室では医師から数枚のCT画像を見せられた。
「ご主人ですが、脳に腫瘍があります」
「えっ」
「もう一度言いますね」
「はい」
「脳に腫瘍があります。この白い部分です」
暫く考えられなかった。
「大丈夫ですか」
「はい、手術で取り除けますか」
「脳幹の深い所にあり、手術が難しい場所なんです。たぶん、手術すると何かしらの後遺症が残ります」
「これから、どうなりますか」
「幻覚、幻聴、記憶障害となり、最後は内臓などの機能が低下して死に至ると思います」
「手術して下さい」
「いいのですか?」
「はい、生きていてくれれば良いんです」
「ワールドカップの決勝までもたないかもしれません」
「直ぐに手術して下さい」
その時、扉が開いた。
「まだ駄目だ。俺にはやる事がある」
「何を言ってるの?」
「俺は、いや、皆でワールドカップを優勝するんだ」
「それで死ぬの?」
「優勝できるのであれば、死ぬのも悪くない」
「私は嫌!隆之介まで私を置いていかないで」
「里帆、俺は駆の所に行くよ」
「そんな事、許さない」
里帆の頬に涙が流れて止まらない。
「里帆、ありがと。病室へ戻ろう」
俺は里帆の手を取り、抱き抱えた。
「里帆、重い。痩せろよな。駆に嫌われるぞ」
「馬鹿、駆くんはそんな事で嫌いにならないから」
「そうだな」
二人は泣いて笑っていた。

病室には西島秀人が待っていた。
「大丈夫か?」
「大丈夫です。ところでアルゼンチン戦は?」
「勝ったよ。最後は一点差だった」
「メッシーですか?」
「さすがだったよ」
「とうとう決勝トーナメントですね」
「そうだな。でも、万全じゃなければ使わない」
「俺は大丈夫です」
「足を引きずってる奴のセリフじゃない」
西島秀人は立ち上がり、病室を出て行った。





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