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第4章 魔術学園奮闘編
第478話 明後日はいよいよ『魔術試技の部』だね。
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多少の混乱と大きな衝撃をまき散らしつつ、ステファノの発表と展示が終了した。
「やれやれ。あれを多少の混乱と言うのかよ」
「トーマが言うのももっともだ。ステファノにとっては、ということだろうね」
「基準が変態」
情革研の仲間にはこき下ろされたが、ステファノとしては随分混乱を抑えたと思っている。「生」の情報を出していたら、あんなものでは済まなかったはずだ。
(「術式複写」など、表に出したら大変なことになるよね)
あれこそ「秘中の秘」で、ここにいる仲間にさえ見せられない。まだまだ、その時期ではなかった。ウニベルシタスに学生があふれ、世を魔法師が闊歩する。そんな光景が見られるようになれば、太陰鏡も術式複写も当たり前のものになるだろう。
(すべての人が魔視脳を開き、広域連絡網でつながる。そうなれば、人間の集合知は新たな時代を迎えるはずだ)
それこそが真のルネッサンスとなり、新時代の幕開けとなる。ステファノはそう確信していた。
王立アカデミーでの勉学と研鑽は、来るべき日の基礎となる。
その日々も明後日で終わる。
「明後日はいよいよ『魔術試技の部』だね」
「俺たち魔術学科生にとっては、1年に1度の晴れ舞台だからな。参加しない俺でもワクワクするぜ」
スールーの期待に、トーマが興奮を以て応じた。
「ステファノ、精神攻撃への対策は?」
サントスが前髪の奥から細い目をステファノに向けた。
「自分なりに準備はしたつもりです。ですが、どんな相手と当たるかわかりません。やってみないとわからないというのが正直な気持ちです」
ステファノは素直に今の心境を答えた。
「相手がある勝負であれば、どんな勝負にも『絶対』などないのだろうね。君が納得できる試合ができれば、それでいいのじゃないか?」
「そうですね。良い試合ができれば、勝ちにこだわる必要はありません。……それでも勝ちたいのは山々ですけど」
「ははは。正直だな。勝つ気がない試合など面白くもないからな。参加者全員蹴散らしてやるくらいの意気込みで良いと思うぜ」
「見敵必殺」
冷静にふるまうスールーとステファノをよそに、トーマとサントスは過激に盛り上がっていた。特にサントスは、人見知りの割に好戦的であった。
海難事故で死にかけた経験が、サントスを「生き残ること」に執着させたのかもしれない。
生きるためには、波間に浮かぶ1つの板切れを奪い合うことが当たり前であった。そこに善悪などない。
「殺しちゃだめだろう。攻撃するのはあくまでも標的だからね」
「なら、標的必殺」
「言い方が物騒だが、まあ、そういうことだな。試合開始と同時に敵の標的をぶっ飛ばしてやれ」
トーマも全力で攻撃することには賛成の様子だった。
「そうだね。標的を吹き飛ばすつもりで思い切りやってみるよ」
ステファノは3人に話を合わせたが、もちろん全力で攻撃するつもりはない。それでは上級魔術レベルの威力になってしまうし、下手をすれば相手の体に危険が及ぶ。「吹き飛ばす」程度で十分衝撃的な威力と言えた。
「明日は試合前の休養日になっているから、ゆっくり体を休ませてもらいます。万全の状態で、明後日はベストを尽くしますよ」
既に作戦を決め、準備を済ませたステファノは、さばさばとした表情で決意を述べた。人事を尽くして天命を待つという心境であった。
「僕たちは観客席から応援させてもらおう」
魔術試技会はアカデミーのキャンパスから徒歩5分ほどにある「競技場」で行われる。「屋外型闘技場」と言うべきその場所は、魔術試技の他、武術の試合にも使われる場所であった。
審判団などの関係者と出場者以外は、当日競技エリアに入ることを禁じられていた。スールーたちは否応なく、観客席からの応援となる。客席は生徒以外の一般市民にも開放されていた。
年中行事である魔術試技会は市民にとって貴重な娯楽であり、これを楽しみにしている人も多かった。
禁じられていたが、密かに勝敗を賭けの対象にしている輩もいた。
「きっと大勢の観客が集まるだろう。人目が多いからって上がらないようにね」
「うーん。緊張はするだろうけど、上がる余裕はないと思いますよ」
殺し合いなどではない。そうわかっているが、試合の本質は「戦い」であった。
それは、ステファノにとって「命がけ」を意味する。
周りを気にする余裕などない。したがって、「上がること」などあり得なかった。
試合前の1日、ステファノは愛用の道着を洗濯し、ヘルメスの杖を磨き上げた。それ以外は特に変わりなく、素振りをし、型稽古を行い、瞑想を繰り返した。
(明日1日でアカデミーでの生活が終わる。そう思うと不思議な気持ちだ)
わずか半年のことであった。しかし、17年余りのステファノの人生でこれほど色濃く、実りの多い時間は存在しなかった。
これほど多くの人と、深く関わることはこれまでなかった。
出会い、言葉を交わし、学びを得た。
ここに来るまでにつらい経験もした。消せない傷痕も残った。しかし、苦い思いを上回る思い出がそこにあった。
そのすべてが今の自分を作っている。
(この世に無駄なものなど何1つない)
その事実が、ゆるぎない確信となってステファノの腹に納まっていた。
(知力こそが俺の宝だ。そして、俺の武器だ)
「いろはにほへと、ちりぬるを――」
ステファノを取り巻くイドは「無意識の自我」。それは唯一無二の「ステファノの知恵」でもあった。
それこそがイデア界への通行証であり、魔力の源泉である。
「あさきゆめみし、ゑひもせす。虹の王は我と共にあり」
分身は本体の影であり、根本一体の存在である。光と影、陰と陽。
2つにして1つ。実体が動けば、影も動く。
ステファノは虹の王として、そこにいた。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第479話 ステファノに遠見の魔法具を作ってもらえば良かったな。」
競技場に来てみると、グラウンドの周囲は高い壁で囲われていた。飛び道具や魔術が標的からそれても、観客席まで届かぬように設計されている。
それでも危険はゼロではないが、それが怖ければ競技場になど来るなというのが常識であった。
試合スペースはグラウンドの中央に配置されており、その分、客席からは遠い。これも安全上の配慮である。選手の表情や攻防の詳細を見たい人間は、遠眼鏡を持参すると良いのだが、庶民にはなかなか手が出ない。
……
◆お楽しみに。
「やれやれ。あれを多少の混乱と言うのかよ」
「トーマが言うのももっともだ。ステファノにとっては、ということだろうね」
「基準が変態」
情革研の仲間にはこき下ろされたが、ステファノとしては随分混乱を抑えたと思っている。「生」の情報を出していたら、あんなものでは済まなかったはずだ。
(「術式複写」など、表に出したら大変なことになるよね)
あれこそ「秘中の秘」で、ここにいる仲間にさえ見せられない。まだまだ、その時期ではなかった。ウニベルシタスに学生があふれ、世を魔法師が闊歩する。そんな光景が見られるようになれば、太陰鏡も術式複写も当たり前のものになるだろう。
(すべての人が魔視脳を開き、広域連絡網でつながる。そうなれば、人間の集合知は新たな時代を迎えるはずだ)
それこそが真のルネッサンスとなり、新時代の幕開けとなる。ステファノはそう確信していた。
王立アカデミーでの勉学と研鑽は、来るべき日の基礎となる。
その日々も明後日で終わる。
「明後日はいよいよ『魔術試技の部』だね」
「俺たち魔術学科生にとっては、1年に1度の晴れ舞台だからな。参加しない俺でもワクワクするぜ」
スールーの期待に、トーマが興奮を以て応じた。
「ステファノ、精神攻撃への対策は?」
サントスが前髪の奥から細い目をステファノに向けた。
「自分なりに準備はしたつもりです。ですが、どんな相手と当たるかわかりません。やってみないとわからないというのが正直な気持ちです」
ステファノは素直に今の心境を答えた。
「相手がある勝負であれば、どんな勝負にも『絶対』などないのだろうね。君が納得できる試合ができれば、それでいいのじゃないか?」
「そうですね。良い試合ができれば、勝ちにこだわる必要はありません。……それでも勝ちたいのは山々ですけど」
「ははは。正直だな。勝つ気がない試合など面白くもないからな。参加者全員蹴散らしてやるくらいの意気込みで良いと思うぜ」
「見敵必殺」
冷静にふるまうスールーとステファノをよそに、トーマとサントスは過激に盛り上がっていた。特にサントスは、人見知りの割に好戦的であった。
海難事故で死にかけた経験が、サントスを「生き残ること」に執着させたのかもしれない。
生きるためには、波間に浮かぶ1つの板切れを奪い合うことが当たり前であった。そこに善悪などない。
「殺しちゃだめだろう。攻撃するのはあくまでも標的だからね」
「なら、標的必殺」
「言い方が物騒だが、まあ、そういうことだな。試合開始と同時に敵の標的をぶっ飛ばしてやれ」
トーマも全力で攻撃することには賛成の様子だった。
「そうだね。標的を吹き飛ばすつもりで思い切りやってみるよ」
ステファノは3人に話を合わせたが、もちろん全力で攻撃するつもりはない。それでは上級魔術レベルの威力になってしまうし、下手をすれば相手の体に危険が及ぶ。「吹き飛ばす」程度で十分衝撃的な威力と言えた。
「明日は試合前の休養日になっているから、ゆっくり体を休ませてもらいます。万全の状態で、明後日はベストを尽くしますよ」
既に作戦を決め、準備を済ませたステファノは、さばさばとした表情で決意を述べた。人事を尽くして天命を待つという心境であった。
「僕たちは観客席から応援させてもらおう」
魔術試技会はアカデミーのキャンパスから徒歩5分ほどにある「競技場」で行われる。「屋外型闘技場」と言うべきその場所は、魔術試技の他、武術の試合にも使われる場所であった。
審判団などの関係者と出場者以外は、当日競技エリアに入ることを禁じられていた。スールーたちは否応なく、観客席からの応援となる。客席は生徒以外の一般市民にも開放されていた。
年中行事である魔術試技会は市民にとって貴重な娯楽であり、これを楽しみにしている人も多かった。
禁じられていたが、密かに勝敗を賭けの対象にしている輩もいた。
「きっと大勢の観客が集まるだろう。人目が多いからって上がらないようにね」
「うーん。緊張はするだろうけど、上がる余裕はないと思いますよ」
殺し合いなどではない。そうわかっているが、試合の本質は「戦い」であった。
それは、ステファノにとって「命がけ」を意味する。
周りを気にする余裕などない。したがって、「上がること」などあり得なかった。
試合前の1日、ステファノは愛用の道着を洗濯し、ヘルメスの杖を磨き上げた。それ以外は特に変わりなく、素振りをし、型稽古を行い、瞑想を繰り返した。
(明日1日でアカデミーでの生活が終わる。そう思うと不思議な気持ちだ)
わずか半年のことであった。しかし、17年余りのステファノの人生でこれほど色濃く、実りの多い時間は存在しなかった。
これほど多くの人と、深く関わることはこれまでなかった。
出会い、言葉を交わし、学びを得た。
ここに来るまでにつらい経験もした。消せない傷痕も残った。しかし、苦い思いを上回る思い出がそこにあった。
そのすべてが今の自分を作っている。
(この世に無駄なものなど何1つない)
その事実が、ゆるぎない確信となってステファノの腹に納まっていた。
(知力こそが俺の宝だ。そして、俺の武器だ)
「いろはにほへと、ちりぬるを――」
ステファノを取り巻くイドは「無意識の自我」。それは唯一無二の「ステファノの知恵」でもあった。
それこそがイデア界への通行証であり、魔力の源泉である。
「あさきゆめみし、ゑひもせす。虹の王は我と共にあり」
分身は本体の影であり、根本一体の存在である。光と影、陰と陽。
2つにして1つ。実体が動けば、影も動く。
ステファノは虹の王として、そこにいた。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第479話 ステファノに遠見の魔法具を作ってもらえば良かったな。」
競技場に来てみると、グラウンドの周囲は高い壁で囲われていた。飛び道具や魔術が標的からそれても、観客席まで届かぬように設計されている。
それでも危険はゼロではないが、それが怖ければ競技場になど来るなというのが常識であった。
試合スペースはグラウンドの中央に配置されており、その分、客席からは遠い。これも安全上の配慮である。選手の表情や攻防の詳細を見たい人間は、遠眼鏡を持参すると良いのだが、庶民にはなかなか手が出ない。
……
◆お楽しみに。
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