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第4章 魔術学園奮闘編
第403話 だとしたら、俺たちに自由意思はないのでしょうか?
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「虹の王ってのは、本当にステファノの化身なんだッペか?」
「どういうことだ、ヨシズミ?」
「オレは魔法具ネットに自分の魔核を接続させ、魔視のレベルで虹の王を観た」
ヨシズミはネルソンに自分の体験を語った。
「あれは分身なんてもンじゃねェッペ。人間の器を超えた存在だっタ」
答えを1つ間違えたら自分は食い殺されていただろうと、ヨシズミは声を震わせた。
「ドイル先生の推測が正しいなら、あれが『まつろわぬもの』ってもンかもしンねェ」
ヨシズミの言葉を受け止めたドイルが頷いた。
「始めから虹の王が存在したと考えれば、すべての出会いに説明がつく。何らかの理由でステファノが中心的な駒として選ばれたということだ」
「だとしたら、俺たちに自由意思はないのでしょうか?」
眉を寄せてステファノが尋ねた。自分たちは本当に単なる盤上の駒に過ぎないのか?
「ふん。そんなことがあるものか。力の強弱が存在の優劣を決定することなどない。我々には意志がある!」
一切の迷いなく、ドイルは宣言した。
「神だろうと悪魔だろうと、この僕から自由意思を奪うことはできない。命を失う瞬間まで僕の意志は僕のものだ」
それこそが「天上天下唯我独尊」という成句にドイルが籠めた思いであった。
「ナーガが何者であれ、どんな思惑を持っていようと、我々は我々自身の意志に基づいて事を為す。そのことに一片の疑いもない」
ドイルは拳を振り上げて断言する。
「ナーガが我々を利用しようとしている可能性はありますね。逆に、我々は虹の王を利用しているわけですが」
「確かにな。マルチェルの言う通り、ナーガがアバターでないとするとステファノは虹の王に力を借りていることになる」
「その場合どこまでがギフトの力で、どこからがナーガから借りた力になるのでしょう?」
ドイルが言うようにナーガがアバターでないとすると、ステファノは借り物の力に頼っていることになる。それはいかにも不安を抱かせる考えであった。
「大雑把に考えて感知系の能力はギフト『諸行無常』によるステファノ自身のものと考えられる。問題は魔法を含む魔力制御能力だ」
「どこまでがステファノ本来の力で、どこからがナーガ由来の力かということですね?」
もしもナーガがステファノを裏切ることがあれば、ステファノは借り物の能力を失うことになる。
「ですが、俺の魔視脳は覚醒したはずです。それならば『通常の覚醒者』が使用できる魔力は行使可能なのではありませんか?」
「うん。それはもっともだッペ。少なくても魔法行使に問題はねェはずだナ」
ヨシズミの眼から見てステファノは疑いもなく1人の「魔法師」であった。
「通常の魔法師には不可能な能力をナーガの力と疑うべきであろうな」
「オレにも再現できた魔道具製作は、魔法師としての固有技術と考えて良さそうだッペ」
ネルソンの提案に乗ってヨシズミが体験をまじえた推測を示した。
「しかし、『魔道具ネット』を形成する能力となると雲行きが怪しいね。そもそもステファノが寝ている間に形成されたものだし」
ドイルは首を傾げながら主張した。
「ただ、虹の王がステファノにとって外部の存在だったとすると、覚醒に至る過程が不自然だ」
「そうですね。俺と共に成長するというところが納得いきません。独立した存在であったなら、初めから覚醒していたはずと思えます」
ネルソンの疑念にステファノも同感だった。
「そうとは限らないんじゃないか? ステファノの内部に『種』のようなものを植え付け、それを成長させたと考えることもできる」
一方ドイルはあくまでも「論理」によって可能性を追い掛けていた。
「それもまた怖い話だッペ」
「知らないうちに『種』か『卵』を植えつけられていたということですか? それは気味の悪い話ですね」
魔法師2人がドイルの仮説に反応した。イドの制御を身につけた2人なればこそ、自身のイドに異物を埋め込まれる恐ろしさが身に染みる。
「仮にそうだとしたら、随分前のことになります。イドの制御を身につけてからなら異物にすぐ気づきますから」
飯屋流で言うなら「魔核混入」を受けたことになる。そんなことをされれば確実に感じ取れる。今ならば。
「アカデミー入学前までさかのぼれば、気づかずに魔核混入されることもあったかもしれませんが……」
「そうだナ。初めから別存在が憑りついたにしても、『種』を植えつけたにしても、おそらくギフトを獲得した頃からステファノの内部に潜入していたと解釈するしかなかッペ」
そうだとすれば「気がつかなかったこと」も納得できる。
その頃のステファノに緻密なイドの知覚はできなかったのだ。
「そうだとすると、なぜステファノを選んだのかが気になるな」
「案外誰でも良かったのかもしれません」
あれほど巨大な存在であれば、誰に憑りついたとしても世界を動かすほどの影響力を行使できる。ステファノはそう実感していた。
「ナーガの方はそうだったのかもしれないが……」
「ドイル先生、他に事情なんてあるでしょうか?」
ドイルはいたずらっぽくステファノに目を向けて、言った。
「君の『願望達成能力』が、相手を探していたナーガを引き込んだのかもしれない」
その場にいた全員が胸を突かれた。
「それはまた、とんでもない引きの強さですね」
「だが、あり得ない話ではないな。ステファノならば」
ステファノ以外の4人は、妙に納得した顔色になった。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第404話 少なくとも邪魔はしていねェようだナ。」
「推測部分が多すぎるが、今のところこれがもっともそれらしい仮説だね」
冷却帽を被って頭を冷やしながら、ドイルが言う。
その脳裏では多数のシナリオが展開され、そのシミュレーション結果が現実の流れと比較検討されていた。
「ナーガはイデア界にいて、現実界から近づいて来る者を待っていたのだろう」
「その目に留まったのが、たまたまステファノだったというわけですか」
「たまたまな。たまたまだ」
4人の目がステファノの上に集まった。
……
◆お楽しみに。
「どういうことだ、ヨシズミ?」
「オレは魔法具ネットに自分の魔核を接続させ、魔視のレベルで虹の王を観た」
ヨシズミはネルソンに自分の体験を語った。
「あれは分身なんてもンじゃねェッペ。人間の器を超えた存在だっタ」
答えを1つ間違えたら自分は食い殺されていただろうと、ヨシズミは声を震わせた。
「ドイル先生の推測が正しいなら、あれが『まつろわぬもの』ってもンかもしンねェ」
ヨシズミの言葉を受け止めたドイルが頷いた。
「始めから虹の王が存在したと考えれば、すべての出会いに説明がつく。何らかの理由でステファノが中心的な駒として選ばれたということだ」
「だとしたら、俺たちに自由意思はないのでしょうか?」
眉を寄せてステファノが尋ねた。自分たちは本当に単なる盤上の駒に過ぎないのか?
「ふん。そんなことがあるものか。力の強弱が存在の優劣を決定することなどない。我々には意志がある!」
一切の迷いなく、ドイルは宣言した。
「神だろうと悪魔だろうと、この僕から自由意思を奪うことはできない。命を失う瞬間まで僕の意志は僕のものだ」
それこそが「天上天下唯我独尊」という成句にドイルが籠めた思いであった。
「ナーガが何者であれ、どんな思惑を持っていようと、我々は我々自身の意志に基づいて事を為す。そのことに一片の疑いもない」
ドイルは拳を振り上げて断言する。
「ナーガが我々を利用しようとしている可能性はありますね。逆に、我々は虹の王を利用しているわけですが」
「確かにな。マルチェルの言う通り、ナーガがアバターでないとするとステファノは虹の王に力を借りていることになる」
「その場合どこまでがギフトの力で、どこからがナーガから借りた力になるのでしょう?」
ドイルが言うようにナーガがアバターでないとすると、ステファノは借り物の力に頼っていることになる。それはいかにも不安を抱かせる考えであった。
「大雑把に考えて感知系の能力はギフト『諸行無常』によるステファノ自身のものと考えられる。問題は魔法を含む魔力制御能力だ」
「どこまでがステファノ本来の力で、どこからがナーガ由来の力かということですね?」
もしもナーガがステファノを裏切ることがあれば、ステファノは借り物の能力を失うことになる。
「ですが、俺の魔視脳は覚醒したはずです。それならば『通常の覚醒者』が使用できる魔力は行使可能なのではありませんか?」
「うん。それはもっともだッペ。少なくても魔法行使に問題はねェはずだナ」
ヨシズミの眼から見てステファノは疑いもなく1人の「魔法師」であった。
「通常の魔法師には不可能な能力をナーガの力と疑うべきであろうな」
「オレにも再現できた魔道具製作は、魔法師としての固有技術と考えて良さそうだッペ」
ネルソンの提案に乗ってヨシズミが体験をまじえた推測を示した。
「しかし、『魔道具ネット』を形成する能力となると雲行きが怪しいね。そもそもステファノが寝ている間に形成されたものだし」
ドイルは首を傾げながら主張した。
「ただ、虹の王がステファノにとって外部の存在だったとすると、覚醒に至る過程が不自然だ」
「そうですね。俺と共に成長するというところが納得いきません。独立した存在であったなら、初めから覚醒していたはずと思えます」
ネルソンの疑念にステファノも同感だった。
「そうとは限らないんじゃないか? ステファノの内部に『種』のようなものを植え付け、それを成長させたと考えることもできる」
一方ドイルはあくまでも「論理」によって可能性を追い掛けていた。
「それもまた怖い話だッペ」
「知らないうちに『種』か『卵』を植えつけられていたということですか? それは気味の悪い話ですね」
魔法師2人がドイルの仮説に反応した。イドの制御を身につけた2人なればこそ、自身のイドに異物を埋め込まれる恐ろしさが身に染みる。
「仮にそうだとしたら、随分前のことになります。イドの制御を身につけてからなら異物にすぐ気づきますから」
飯屋流で言うなら「魔核混入」を受けたことになる。そんなことをされれば確実に感じ取れる。今ならば。
「アカデミー入学前までさかのぼれば、気づかずに魔核混入されることもあったかもしれませんが……」
「そうだナ。初めから別存在が憑りついたにしても、『種』を植えつけたにしても、おそらくギフトを獲得した頃からステファノの内部に潜入していたと解釈するしかなかッペ」
そうだとすれば「気がつかなかったこと」も納得できる。
その頃のステファノに緻密なイドの知覚はできなかったのだ。
「そうだとすると、なぜステファノを選んだのかが気になるな」
「案外誰でも良かったのかもしれません」
あれほど巨大な存在であれば、誰に憑りついたとしても世界を動かすほどの影響力を行使できる。ステファノはそう実感していた。
「ナーガの方はそうだったのかもしれないが……」
「ドイル先生、他に事情なんてあるでしょうか?」
ドイルはいたずらっぽくステファノに目を向けて、言った。
「君の『願望達成能力』が、相手を探していたナーガを引き込んだのかもしれない」
その場にいた全員が胸を突かれた。
「それはまた、とんでもない引きの強さですね」
「だが、あり得ない話ではないな。ステファノならば」
ステファノ以外の4人は、妙に納得した顔色になった。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第404話 少なくとも邪魔はしていねェようだナ。」
「推測部分が多すぎるが、今のところこれがもっともそれらしい仮説だね」
冷却帽を被って頭を冷やしながら、ドイルが言う。
その脳裏では多数のシナリオが展開され、そのシミュレーション結果が現実の流れと比較検討されていた。
「ナーガはイデア界にいて、現実界から近づいて来る者を待っていたのだろう」
「その目に留まったのが、たまたまステファノだったというわけですか」
「たまたまな。たまたまだ」
4人の目がステファノの上に集まった。
……
◆お楽しみに。
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