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第4章 魔術学園奮闘編
第402話 それが進歩というものであり、我々が望む文明の姿でもある。
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「魔道具の試作品を見せたいそうだな」
「はい。どれも魔力のない人が使えるようにしました」
ネルソンの許しを得て、夕食後の食卓にステファノは魔法具の試作品を持ちこんだ。
「これからは自分の作る道具を『魔法具』と呼ぶことにしました」
ステファノはテーブルに道具を並べながら言った。
「なるほど。魔術とは思想の異なる魔法を用いて、万人が使用できる魔法具を作る。飯屋流魔法具を世に広げようと言うのだな」
「はい。幸い流儀名をつけてもらいましたので、流派の特長として訴えようと」
「他人と違うことをわかりやすく伝えるのは、競争において重要なことだからね」
ウニベルシタスが世に知られるようになれば飯屋流を真似るものが出てくるだろう。
「始めは粗悪な類似品程度だろうが、やがて飯屋流の体系は研究され、模倣されるようになるだろうね」
どれほど優れた技術でもやがては模倣され、追い越されるものなのだとドイルは言った。
「それが進歩というものであり、我々が望む文明本来の姿なのさ」
その時でも己の本質を見失わなければ、必ず活路はある。ドイルはそう言った。
「飯屋流と俺の本質ですか? 常識にとらわれないところとしつこいところですかね」
「ははは。違いない。その2つを併せ持つのは難しいことだからね」
ステファノは自虐気味に言ったつもりだが、ドイルは誉め言葉のつもりだった。
送風魔具は魔法具である点を除けばアカデミーが所蔵する魔道具と同じであった。
「見る目がない人間には同じに見えるかもしれんがね。その2つはまったく違うものだよ」
魔道具は道具に術式を固定したものである。術としての展開プロセスはすべて道具任せとなるが、魔力自体は使用者が供給する必要がある。
「魔力とは『因力』であるという飯屋流の観点で言えば、伝統的魔道具の発動プロセスは『因果の連鎖反応』だ」
たとえば水魔術の因力をトリガーとして道具に籠めた風魔術を発動させる。魔力を将棋倒しの駒として使っているとみなしても良い。
ドイルはステファノが立てた理屈を自分のもののように展開して見せた。
「一方魔法具は、『つまみの操作』などの非魔力的動作をトリガーとして術式を発動させる。因果の制御は道具内だけで完結しており、他者の介入を必要としない」
仕掛けによっては「水車の動力で魔法具を発動させる」ことも可能であった。
「魔法具は完全自動化が可能な独立した機構だ。籠められた術式は自律的な化身の存在を前提とする。そこに飯屋流の独自性がある」
アバター、魔視脳、魔核、太陰鏡。
「最低でもこれだけの要素を揃えなければ、魔法具の再現は不可能だ。ステファノとヨシズミという異色の師弟がいなければ、飯屋流が生まれることは無かったろう」
「そう考えると、改めてお前たちの出会いが奇跡的であったことが強調されるな」
「2人だけでも難しかったッペナ。ドイル先生の理論、ネルソン旦那の財力と戦略眼、それにマルチェルさんの瞑想法と体術に出会わなければステファノが覚醒することもなかったッペ」
ヨシズミの存在は確かに稀有なことであった。しかし、他の3人も不可欠の要素としてステファノの成長に寄与していたのだ。その事実をヨシズミはその目で見ていた。
「やはり達成者としての属性が引き当てた出会いが今日のステファノを作り上げたのだろう。それにしてもそれらすべてを無意識の功績とするには、すべてがうまく運び過ぎているな」
ドイルは並列思考で論理をたどりながらそう言った。
「ステファノ個人が知りえる情報だけでは、これだけの出会いを呼び込むのは無理というものだよ」
ヨシズミという「迷い人」を引き当てたことだけでも無意識の働きとするのは難しい。
「オレは『迷い人』の存在も知らなければ、ヨシズミ師匠がそういう人だという知識もありませんでした」
「ステファノの無意識とて同じことさ。知らない対象を引き寄せることはできまい」
「だったら『何が』我々を引き合わせたのだ?」
疑問はネルソンの問いに集約される。無意識でないとしたら、それは「何者」か?
「論理が指すところ、それは外部の存在だね」
「例の『神の如きもの』か?」
ドイルの言明は新たな問いを呼ぶ。ドイルは問いを発したネルソンに顔を向けた。
「そうかもしれない。そうでないかもしれない」
「違うとしたら、何だというのだ?」
「まつろわぬもの」
ドイルは謎のような一言を発した。
「何だ、それは?」
「一方に『神の如きもの』が存在するなら、それに対抗するものが存在する可能性がある」
「それが『まつろわぬもの』か?」
人にとってはどちらであろうと「神」と変わらない。ステファノたちは神々の争いに巻き込まれたというのであろうか。
「仮説にすぎないがね。1種類の勢力のみを仮定すると、これまでの歴史や我々の出会いを説明できない。2者以上の競合を仮定して、初めて現実に整合性が見いだせるんだ」
「『まつろわぬもの』が我々を『神の如きもの』と戦わせようとしていると言うのか?」
「単純化が過ぎるが、そういうことだ」
ドイルはぎらりと目を光らせた。
「われわれは神々が指すチェスの駒にさせられているというのが、より正確な比喩だと思うよ」
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第403話 だとしたら、俺たちに自由意思はないのでしょうか?」
「虹の王ってのは、本当にステファノの化身なんだッペか?」
「どういうことだ、ヨシズミ?」
「オレは魔法具ネットに自分の魔核を接続させ、魔視のレベルで虹の王を観た」
ヨシズミはネルソンに自分の体験を語った。
「あれは分身なんてもンじゃねェッペ。人間の器を超えた存在だっタ」
答えを1つ間違えたら自分は食い殺されていただろうと、ヨシズミは声を震わせた。
……
◆お楽しみに。
「はい。どれも魔力のない人が使えるようにしました」
ネルソンの許しを得て、夕食後の食卓にステファノは魔法具の試作品を持ちこんだ。
「これからは自分の作る道具を『魔法具』と呼ぶことにしました」
ステファノはテーブルに道具を並べながら言った。
「なるほど。魔術とは思想の異なる魔法を用いて、万人が使用できる魔法具を作る。飯屋流魔法具を世に広げようと言うのだな」
「はい。幸い流儀名をつけてもらいましたので、流派の特長として訴えようと」
「他人と違うことをわかりやすく伝えるのは、競争において重要なことだからね」
ウニベルシタスが世に知られるようになれば飯屋流を真似るものが出てくるだろう。
「始めは粗悪な類似品程度だろうが、やがて飯屋流の体系は研究され、模倣されるようになるだろうね」
どれほど優れた技術でもやがては模倣され、追い越されるものなのだとドイルは言った。
「それが進歩というものであり、我々が望む文明本来の姿なのさ」
その時でも己の本質を見失わなければ、必ず活路はある。ドイルはそう言った。
「飯屋流と俺の本質ですか? 常識にとらわれないところとしつこいところですかね」
「ははは。違いない。その2つを併せ持つのは難しいことだからね」
ステファノは自虐気味に言ったつもりだが、ドイルは誉め言葉のつもりだった。
送風魔具は魔法具である点を除けばアカデミーが所蔵する魔道具と同じであった。
「見る目がない人間には同じに見えるかもしれんがね。その2つはまったく違うものだよ」
魔道具は道具に術式を固定したものである。術としての展開プロセスはすべて道具任せとなるが、魔力自体は使用者が供給する必要がある。
「魔力とは『因力』であるという飯屋流の観点で言えば、伝統的魔道具の発動プロセスは『因果の連鎖反応』だ」
たとえば水魔術の因力をトリガーとして道具に籠めた風魔術を発動させる。魔力を将棋倒しの駒として使っているとみなしても良い。
ドイルはステファノが立てた理屈を自分のもののように展開して見せた。
「一方魔法具は、『つまみの操作』などの非魔力的動作をトリガーとして術式を発動させる。因果の制御は道具内だけで完結しており、他者の介入を必要としない」
仕掛けによっては「水車の動力で魔法具を発動させる」ことも可能であった。
「魔法具は完全自動化が可能な独立した機構だ。籠められた術式は自律的な化身の存在を前提とする。そこに飯屋流の独自性がある」
アバター、魔視脳、魔核、太陰鏡。
「最低でもこれだけの要素を揃えなければ、魔法具の再現は不可能だ。ステファノとヨシズミという異色の師弟がいなければ、飯屋流が生まれることは無かったろう」
「そう考えると、改めてお前たちの出会いが奇跡的であったことが強調されるな」
「2人だけでも難しかったッペナ。ドイル先生の理論、ネルソン旦那の財力と戦略眼、それにマルチェルさんの瞑想法と体術に出会わなければステファノが覚醒することもなかったッペ」
ヨシズミの存在は確かに稀有なことであった。しかし、他の3人も不可欠の要素としてステファノの成長に寄与していたのだ。その事実をヨシズミはその目で見ていた。
「やはり達成者としての属性が引き当てた出会いが今日のステファノを作り上げたのだろう。それにしてもそれらすべてを無意識の功績とするには、すべてがうまく運び過ぎているな」
ドイルは並列思考で論理をたどりながらそう言った。
「ステファノ個人が知りえる情報だけでは、これだけの出会いを呼び込むのは無理というものだよ」
ヨシズミという「迷い人」を引き当てたことだけでも無意識の働きとするのは難しい。
「オレは『迷い人』の存在も知らなければ、ヨシズミ師匠がそういう人だという知識もありませんでした」
「ステファノの無意識とて同じことさ。知らない対象を引き寄せることはできまい」
「だったら『何が』我々を引き合わせたのだ?」
疑問はネルソンの問いに集約される。無意識でないとしたら、それは「何者」か?
「論理が指すところ、それは外部の存在だね」
「例の『神の如きもの』か?」
ドイルの言明は新たな問いを呼ぶ。ドイルは問いを発したネルソンに顔を向けた。
「そうかもしれない。そうでないかもしれない」
「違うとしたら、何だというのだ?」
「まつろわぬもの」
ドイルは謎のような一言を発した。
「何だ、それは?」
「一方に『神の如きもの』が存在するなら、それに対抗するものが存在する可能性がある」
「それが『まつろわぬもの』か?」
人にとってはどちらであろうと「神」と変わらない。ステファノたちは神々の争いに巻き込まれたというのであろうか。
「仮説にすぎないがね。1種類の勢力のみを仮定すると、これまでの歴史や我々の出会いを説明できない。2者以上の競合を仮定して、初めて現実に整合性が見いだせるんだ」
「『まつろわぬもの』が我々を『神の如きもの』と戦わせようとしていると言うのか?」
「単純化が過ぎるが、そういうことだ」
ドイルはぎらりと目を光らせた。
「われわれは神々が指すチェスの駒にさせられているというのが、より正確な比喩だと思うよ」
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第403話 だとしたら、俺たちに自由意思はないのでしょうか?」
「虹の王ってのは、本当にステファノの化身なんだッペか?」
「どういうことだ、ヨシズミ?」
「オレは魔法具ネットに自分の魔核を接続させ、魔視のレベルで虹の王を観た」
ヨシズミはネルソンに自分の体験を語った。
「あれは分身なんてもンじゃねェッペ。人間の器を超えた存在だっタ」
答えを1つ間違えたら自分は食い殺されていただろうと、ヨシズミは声を震わせた。
……
◆お楽しみに。
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