飯屋のせがれ、魔術師になる。

藍染 迅

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第4章 魔術学園奮闘編

第358話 こりゃあオレもギフトの使い方サ勉強すッペかナ?

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「あっちじゃ『ギフト』ッてのは魔視脳まじのうの不完全な覚醒と言われてたからノ」

 ギフトは呪文も術理も必要としないので使いやすいが、たいてい1つのことしかできない。
 応用性に乏しいのであちらの世界では低く見られていたのだ。

「ふん。言ってみれば全員が上級魔術師という世界だろう? それならギフトなど必要ないわけだ」
「そうだナ。魔視鏡マジスコープで魔力を覚醒してもらってから、ギフトに目覚める人間がたまにいたヨ。精々おまけ・・・くらいに考えてたノ。本人も、それから周りの人間も」

 便利なものと言う認識はしていたが、あまり関心を持たず、能力開発に努力するということもなかった。
 科学と魔法があれば、十分すぎるほどに満ち足りていたのだ。

「こりゃあオレもギフトの使い方サ勉強すッペかナ?」

 ステファノのようにイドを制御し、化身アバターを使いこなすためには、ヨシズミもギフトの習得を考えざるを得なかった。

「師匠、それに当たって『リミッター』のかけ方を考えなくちゃいけないと思うんです」

 ステファノが編み出した「魔核混入マーキング」が真似されるようになると、悪用する人間が出てくると思われた。
 せめて人に危害を与える行為を禁止する方策が必要ではないかと、ステファノは考えた。

「オレはエンジニアではねェンで、詳しいことはわからねェナ。禁止規則を魔視脳の基本エリアに書き込むのだと思ったガ」
「それはやっぱり魔視鏡を使ってですか?」
「そうだナ」

「正当な理由がある場合をのぞき、他人に危害を加えてはならない」

 その規則を魔力覚醒と同時に書き込んでいたのだ。

「魔視鏡のないこの世界で、どうやったらリミッターを書き込むことができるか……」

 ステファノの悩みはそこにあった。

「何だか堂々巡りのような話に聞こえるな」

 横で耳を傾けていたドイルが感想を言った。

「危険行為だという魔核混入マーキングという仕業は、リミッター書き込みという行為と似ているんじゃないかね?」
「えっ? ……そう言われると、そうかも」
「言われてみればそうだッペ。書き込む場所さえ見つければ良いんでねェのケ?」

 門外漢ならではのドイルの自由な発想が、ヨシズミとステファノの思考を刺激した。
 結局、魔術を使役する魔視脳がリミッターを植えこむべき場所になる。つまり、魔視脳を部分的に封印するということなのであった。

「そうか。魔視脳を封印すると考えたらわかりやすいですね」
「そうだナ。……そもそも見たら早いのケ?」
「えっ?」

 この世界にたった1人だけ、実際にリミッターを施された人間がいる。他ならぬヨシズミであった。

「オレの魔視脳を調べれば、他の人間との違いがわかるんでねェケ?」
「師匠……」

 ステファノの「観る」力であれば、ヨシズミの魔視脳に刻まれたリミッターの術式を判別することができるかもしれない。

「薄汚れた人間だけッと、今更見られて恥ずかしいものもねェ。おめェの役に立つンなら、気にすることはねェゾ」

 こだわりを捨てたヨシズミの言葉を聞いて、ステファノも覚悟を決めた。

「わかりました。師匠、ありがとうございます」

 そう言うと、ステファノは右手の手のひらを差し伸べて目を瞑った。
 ヨシズミも自分の目を閉じて、心を解放する。

(いろはにほへと~、ちりぬるを~)

 ステファノは念誦ねんじゅを行い、右手のひらから気を発する。ヨシズミの眉間に届いた魔核マジコアは虹の7色を発しながら、額の奥へと入り込んで行った。

 目を閉じているはずのヨシズミには真っ白い光の塊が見えていた。光は微妙に振動し、触れるものを共鳴させた。

「観えました。これは……魔核混入マーキングと同じやり方ですね」
「もう観察が終わったのか?」
「はい。思ったよりわかりやすく埋め込まれていました」

 誰もがリミッターを受け入れている世界では、その存在を隠す必要がない。むしろわかりやすく存在することに価値があった。

「規則自体もとてもシンプルですからね」

 正当な理由なく他人に危害を加えてはならない。
 リミッターが刻み込んだ規則は、たったそれだけのことであった。

「それでも、戦争は防げない」

 ドイルの声であった。

「リミッターを埋め込まれているヨシズミは、この世界の戦争で人を殺している。リミッターでは戦争を止められないということさ」
「戦争というものは、当事者にとって常に『正当な理由』の下に行われるものだ」

 ネルソンは静かに言った。

「戦争を裁判で裁くことはできない。ルールで御することもな。決着不能な利害対立、社会の歪みの解決手段として人間の歴史と共に存在してきた行為なのだ」
「これからもなくならないということですか?」

 ステファノは痛みをこらえるような表情で尋ねた。

「わからない。われらの世代は人間の善性に期待するには、あまりにも多くの血を流し過ぎた。戦争のない世界を想像することができない」

 ネルソンは正直に答えた。マルチェルとドイルの目を見れば、2人ともネルソンと同じ考えであることがわかった。

「だが、戦いを減らすことはできると思う。戦争の多くは利権の争奪や、不公平な富の配分が原因で起こって来た。飢えと貧困を追放すれば、社会全体が豊かになれば、戦争をすべき理由のほとんどはなくなるだろう」
 
 ステファノが個人として「不殺ころさず」の信念を掲げるように、ネルソンは貧困のない社会を理想として追求していた。
 それこそが「100万人を救う」という彼の誓いであった。

「浅き夢見じ、飢干ゑひもせず――」

 ステファノの唇を割って、ギフトの成句がこぼれ出た。

――――――――――
 ここまで読んでいただいてありがとうございます。

◆次回「第359話 私もそう思うよ、ステファノ。」

「なるほどね。戦争のない世界を求めるネルソンの理想を言葉にしたような成句だね」
「はい。何だか利権を求める浅はかな欲望を捨て、飢えと貧困のない社会を作れと言われているような気がしました」
「はは。真面目な君らしい受け止め方だ」

 ステファノのつぶやきを拾って、ドイルはそう評した。
 言い方は皮肉っぽいが、ドイルはネルソンの理想を否定はしていない。素直に認めないのは彼の癖であった。

「リミッターがすべての争いを解決してくれるわけでないことはわかりました」
「そうだナ。向こうの世界でも犯罪がなくなりはしねかッタ」

 ……

◆お楽しみに。
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