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第4章 魔術学園奮闘編
第359話 私もそう思うよ、ステファノ。
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「なるほどね。戦争のない世界を求めるネルソンの理想を言葉にしたような成句だね」
「はい。何だか利権を求める浅はかな欲望を捨て、飢えと貧困のない社会を作れと言われているような気がしました」
「はは。真面目な君らしい受け止め方だ」
ステファノのつぶやきを拾って、ドイルはそう評した。
言い方は皮肉っぽいが、ドイルはネルソンの理想を否定はしていない。素直に認めないのは彼の癖であった。
「リミッターがすべての争いを解決してくれるわけでないことはわかりました」
「そうだナ。向こうの世界でも犯罪がなくなりはしねかッタ」
他人に力を与えるからには最低限の責任は負わなければならないと、ステファノは考えた。
「リミッターを埋め込むことができたら、世の中に魔法を広めても良いと思っていたんです」
「今は考えが変わったということか?」
何事か語り出したステファノにネルソンは尋ねた。
「はい。上級魔術に匹敵する魔法を広めてしまったら、その影響はとてつもなく大きいでしょう。良いことに使われる効果ももちろんありますが、悪用された時の弊害も今とはけた違いになります」
「戦争で使われたら、大量に人が死ぬだろうな」
「魔法を普及させるよりも先に、飢えと貧困を解決し、世の中から戦争をなくさなければなりません」
「私もそう思うよ、ステファノ」
自分にできることは種をまくことだ。未来の世代のために地ならしをすることだと、ステファノは思った。
おそらくネルソンは同じ考えで、ウニベルシタスを開こうとしている。
「旦那様の考えがよくわかりました。俺は世の中を変えるための魔道具を作ります。そして、いつか世の中に広めるべき魔法の体系を築き上げましょう」
「ステファノ、我らは皆一粒の麦なのだ。やがて大地を埋め尽くして広がる麦の穂たちの、最初の一粒だ」
麦一粒で100万の民を飢えから救うことはできない。しかし、種をまき、収穫を続ければ、やがてその実りが100万の民を養うだろう。
「再生は一日してならず、だッペ。焦りは禁物だッテ」
ヨシズミの一言で、その日の話はそこまでということになった。
◆◆◆
「やっぱり最初は隠形五遁とかいう術じゃないかねぇ。2人に見せるとしたら」
「ドイル先生には繰り返しになっちゃいますが」
「構わないさ。あれはあれでよくできた手品だからね」
ドイルにけしかけられたステファノは、「霧隠れの術」、「炎隠れの術」、「陽炎の術」を立て続けに披露した。
「随分と手の込んだ術だノ? オレも初めて見たナ」
「ほう? ヨシズミも知らない術か。伝説だけを手掛かりに再現するとはな」
ネルソンはステファノの独創に感心した。
ドイルとヨシズミはステファノによる術理の解説に興味深く聞き入った。
マルチェルは、気配を消す技に興味を示した。
「それにしても気配の消し方が精妙になりました。以前も気配を薄くしていましたが、今ではほとんど感じ取れませんね」
「イドの繭を体にまとうことは同じなのですが、空気のイドを混ぜ込ませる逆・魔核混入という技を併用しています」
「空気の気配をまとうとはな」
逆・魔核混入の有効性については、ヨシズミが高く評価していた。
「まさかイドにこんな使い道があったとはノ。たまげたモンダ」
ヨシズミにとっても、ここまで思いのままにイドを制御できるとは驚きの事実であった。
「オレたちは魔法の便利さに甘えて、イド制御の訓練が足りなかったんだナ」
マルチェルも何やら深く感銘を受けているようだった。
「山奥で猟を世過ぎとして生活する者の中には、『石化け』や『木化け』という技を使うものがいると聞きました。己の気配を断ち、周りの自然と同化すると言いますが、こういうことなのかもしれません」
「なるほど。それもまた土遁、木遁と言えるかもしれませんね」
実在する達人たちの話を聞くと、術として応用するイメージが湧いて来る。ステファノは隠形法の幅を広げる可能性を感じ取るのであった。
「山野で霧隠れや炎隠れを使う際、石や木に溶け込むという隠れ方もありそうですね」
陽炎の術を併用すれば、視覚的にも身を隠せる。犬でも連れていない限り発見できないかもしれない。
続いてステファノはイドの応用技を披露した。
あえてイドの存在を隠さず、ヨシズミたちが感じ取れるようにして杖から飛ばす。
水餅、蛇尾。さらに雷気を乗せて標的を撃つ。
「ほう。雷気の扱いも上手くなったノ」
「はい。陰陽の違いを見分けることもできるようになりました」
ステファノはヘルメスの杖に標的鏡と取っ手を取りつけて水平に構えた。
「遠当ての極みです」
しっ!
わずかに空気を切る音とともに、空気をまとったイドが杖に沿って撃ち出された。
20メートル先の標的が何かに殴られたように大きく揺れる。
「スコープを使うのは、自分で考えたのケ?」
「はい。標的を視界に入れれば相手のイドを魔法の対象に指定できます」
ステファノは言い終わると、もう一度杖を構え直した。
「虹の王よ、標的を燃やせ」
今度は標的の周りに魔法円が生じ、標的は炎に包まれた。
「それが化身ケ? 確かに、おめェの体から魔力は放出していねェナ」
ヨシズミは魔法初動時にステファノが魔力を励起していなかったことを確認した。魔力を隠したのではなく、使っていなかった。
「見方を変えれば、完璧な遠隔魔術だな。ヨシズミにさえ探知されないとは」
「こういうことができてしまうんで、当面魔法の普及は控えようと思います」
ネルソンの冷静な評価に対して、ステファノは自分の考えを示した。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第360話 教えた技を悪用されることがあるのは、町の武術道場でも同じでしょう。」
「ふうむ。そうすると後進への指導は、あくまでも『魔術』として行うのだな?」
ネルソンの確認にステファノは頷いた。
「そういうことになります。それでもイドの制御に目覚める人が出てくるでしょうが、こればかりは仕方がありませんね」
相手の同意を得られればリミッターを書き込ませてもらう。
同意してもらえなければ……用心するしかない。
「教えた技を悪用されることがあるのは、町の武術道場でも同じでしょう。人を見極めて教えを授けるしかありません」
……
◆お楽しみに。
「はい。何だか利権を求める浅はかな欲望を捨て、飢えと貧困のない社会を作れと言われているような気がしました」
「はは。真面目な君らしい受け止め方だ」
ステファノのつぶやきを拾って、ドイルはそう評した。
言い方は皮肉っぽいが、ドイルはネルソンの理想を否定はしていない。素直に認めないのは彼の癖であった。
「リミッターがすべての争いを解決してくれるわけでないことはわかりました」
「そうだナ。向こうの世界でも犯罪がなくなりはしねかッタ」
他人に力を与えるからには最低限の責任は負わなければならないと、ステファノは考えた。
「リミッターを埋め込むことができたら、世の中に魔法を広めても良いと思っていたんです」
「今は考えが変わったということか?」
何事か語り出したステファノにネルソンは尋ねた。
「はい。上級魔術に匹敵する魔法を広めてしまったら、その影響はとてつもなく大きいでしょう。良いことに使われる効果ももちろんありますが、悪用された時の弊害も今とはけた違いになります」
「戦争で使われたら、大量に人が死ぬだろうな」
「魔法を普及させるよりも先に、飢えと貧困を解決し、世の中から戦争をなくさなければなりません」
「私もそう思うよ、ステファノ」
自分にできることは種をまくことだ。未来の世代のために地ならしをすることだと、ステファノは思った。
おそらくネルソンは同じ考えで、ウニベルシタスを開こうとしている。
「旦那様の考えがよくわかりました。俺は世の中を変えるための魔道具を作ります。そして、いつか世の中に広めるべき魔法の体系を築き上げましょう」
「ステファノ、我らは皆一粒の麦なのだ。やがて大地を埋め尽くして広がる麦の穂たちの、最初の一粒だ」
麦一粒で100万の民を飢えから救うことはできない。しかし、種をまき、収穫を続ければ、やがてその実りが100万の民を養うだろう。
「再生は一日してならず、だッペ。焦りは禁物だッテ」
ヨシズミの一言で、その日の話はそこまでということになった。
◆◆◆
「やっぱり最初は隠形五遁とかいう術じゃないかねぇ。2人に見せるとしたら」
「ドイル先生には繰り返しになっちゃいますが」
「構わないさ。あれはあれでよくできた手品だからね」
ドイルにけしかけられたステファノは、「霧隠れの術」、「炎隠れの術」、「陽炎の術」を立て続けに披露した。
「随分と手の込んだ術だノ? オレも初めて見たナ」
「ほう? ヨシズミも知らない術か。伝説だけを手掛かりに再現するとはな」
ネルソンはステファノの独創に感心した。
ドイルとヨシズミはステファノによる術理の解説に興味深く聞き入った。
マルチェルは、気配を消す技に興味を示した。
「それにしても気配の消し方が精妙になりました。以前も気配を薄くしていましたが、今ではほとんど感じ取れませんね」
「イドの繭を体にまとうことは同じなのですが、空気のイドを混ぜ込ませる逆・魔核混入という技を併用しています」
「空気の気配をまとうとはな」
逆・魔核混入の有効性については、ヨシズミが高く評価していた。
「まさかイドにこんな使い道があったとはノ。たまげたモンダ」
ヨシズミにとっても、ここまで思いのままにイドを制御できるとは驚きの事実であった。
「オレたちは魔法の便利さに甘えて、イド制御の訓練が足りなかったんだナ」
マルチェルも何やら深く感銘を受けているようだった。
「山奥で猟を世過ぎとして生活する者の中には、『石化け』や『木化け』という技を使うものがいると聞きました。己の気配を断ち、周りの自然と同化すると言いますが、こういうことなのかもしれません」
「なるほど。それもまた土遁、木遁と言えるかもしれませんね」
実在する達人たちの話を聞くと、術として応用するイメージが湧いて来る。ステファノは隠形法の幅を広げる可能性を感じ取るのであった。
「山野で霧隠れや炎隠れを使う際、石や木に溶け込むという隠れ方もありそうですね」
陽炎の術を併用すれば、視覚的にも身を隠せる。犬でも連れていない限り発見できないかもしれない。
続いてステファノはイドの応用技を披露した。
あえてイドの存在を隠さず、ヨシズミたちが感じ取れるようにして杖から飛ばす。
水餅、蛇尾。さらに雷気を乗せて標的を撃つ。
「ほう。雷気の扱いも上手くなったノ」
「はい。陰陽の違いを見分けることもできるようになりました」
ステファノはヘルメスの杖に標的鏡と取っ手を取りつけて水平に構えた。
「遠当ての極みです」
しっ!
わずかに空気を切る音とともに、空気をまとったイドが杖に沿って撃ち出された。
20メートル先の標的が何かに殴られたように大きく揺れる。
「スコープを使うのは、自分で考えたのケ?」
「はい。標的を視界に入れれば相手のイドを魔法の対象に指定できます」
ステファノは言い終わると、もう一度杖を構え直した。
「虹の王よ、標的を燃やせ」
今度は標的の周りに魔法円が生じ、標的は炎に包まれた。
「それが化身ケ? 確かに、おめェの体から魔力は放出していねェナ」
ヨシズミは魔法初動時にステファノが魔力を励起していなかったことを確認した。魔力を隠したのではなく、使っていなかった。
「見方を変えれば、完璧な遠隔魔術だな。ヨシズミにさえ探知されないとは」
「こういうことができてしまうんで、当面魔法の普及は控えようと思います」
ネルソンの冷静な評価に対して、ステファノは自分の考えを示した。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第360話 教えた技を悪用されることがあるのは、町の武術道場でも同じでしょう。」
「ふうむ。そうすると後進への指導は、あくまでも『魔術』として行うのだな?」
ネルソンの確認にステファノは頷いた。
「そういうことになります。それでもイドの制御に目覚める人が出てくるでしょうが、こればかりは仕方がありませんね」
相手の同意を得られればリミッターを書き込ませてもらう。
同意してもらえなければ……用心するしかない。
「教えた技を悪用されることがあるのは、町の武術道場でも同じでしょう。人を見極めて教えを授けるしかありません」
……
◆お楽しみに。
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