眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

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 真夏の雪は初観測として、歴史上に記録されることとなった。

 美しい森を彩る鳴き声が、蝉から鈴虫へと変わる頃、穏やかな夕陽に包まれた建物の中では、身を寄せるように肩を並べる二人がいた。
 一人は爽やかな緑色の浴衣、もう一人はいつもの黒に銀色の袴姿だ。

 台所の天板てんばんに置かれた木製のボールには、炊き立ての白米が入っている。
 それを水で濡らしたしゃもじで、掬い上げる鋭利な爪の主。
 時折「あちあち」と漏れる声とともに、骨張った手の間に込められた米粒たちは、形を成さずにぼろぼろとこぼれてゆく。

「むう……どうしてこうなる」

 影雪は両手のひらに張りついた米と、白い皿の上に崩れたそれを見比べながら不服そうにつぶやいた。
 その様子をすぐ隣で見ていた夢穂は、思わずふっと笑みを浮かべる。
 そして三角に握っていたご飯に焼き海苔を巻くと、丁寧に大皿に並べて置いた。
 夢穂の作ったおにぎりは、きちんと姿勢を正し大人しくお座りしている。
 対する影雪のそれは、雪崩が起きたのかというくらい激しい傾斜になりそこら中に散っていた。

「全然夢穂のようにうまくいかんぞ」
「私も最初は下手だったもの、練習したらいつかできるようになるわよ」

 唇を尖らせ少し拗ねた様子の影雪に、夢穂は宥めるように言った。
 二人の肌は質のいい米にも負けないくらい、健康的に艶めいている。

「もう一回、してみる」
 
 めげずに再挑戦しようと、しゃもじでよそった米を手のひらに載せる影雪。

「今日はもうずいぶんがんばったし、私がしようか?」

 上目遣いに顔を覗き込む夢穂だが、影雪は首を横に振りその誘惑に耐える。
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