眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

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愛のために戦いましょう。

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 ちょうどその頃、癒枕寺神社近くの坂道には、二人の少女の姿があった。
 長身の沙子は黒のTシャツとスキニージーンズというカジュアルな装いで、小柄な美菜は白の丈が短いワンピースといういかにも女の子らしい装いだ。
 服装や身長差から、男女のカップルのようにも見える。

「癒枕寺神社、閉まってたね、せっかく眠りの神様にお祈りしようと思ってたのになー」

 美菜がサンダルで坂道をくだりながら、残念そうに言った。
 沙子の退院の帰りに、よく眠れますようにと参拝しようとしたのだが、夢穂の件があったため、業華が臨時休業にしていた。
 
「何か急用でもあったのかもな、仕方ないよ」
「強がっちゃってー、業華さんに会いたかったくせにぃ」
「う、うるさいな!」

 照れる沙子にセットした髪をぐしゃぐしゃにされ、美菜は「やめてー」と笑いながら抵抗した。

「それにしても本当に大丈夫なの? 退院早々こんなに歩いちゃってさ」
「怪我自体はそこまでひどくなかったからな、ゆっくり歩いた方がリハビリにもなるって先生も言ってた」

 話しながら、二人はほぼ同時にあくびをする。

「うーん、睡眠ってここまで大事だったんだねぇ、普段は意識してないからさ」
「そうだな、夜が来れば勝手に眠れるものだと思ってたけど……疲れてるのに休めないのは地獄みたいな気分だ」

 何をするにも身体が資本。
 初めて不眠に悩まされた二人は、安眠のありがたさを痛感していた。

「夢穂も大丈夫かな? 連絡しても返事ないし」
「今度お見舞いのお礼持って行くから、その時に話せたらいいな」
「うんうん、あたしも一緒に行くし」  

 そこで美菜は何か思い出したように「そうだ」と言うと、右肩にかけたトートバッグに手を潜らせた。

「こないだの家族旅行のお土産、渡さなきゃ……あれー、確か入れてきたはずなんだけど」

 身体を右に傾けながら探すと、やがてご当地キャラのマスコットがついたキーホルダーが見つかる。
 「あったあった」とそれを手にした美菜が顔を上げた時だった。
 目の前に細長く揺らめく、影のようなものに気がついたのは。
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