眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

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愛のために戦いましょう。

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「たかが二百のあやかしに諭されるとは、私もまだまだですねぇ……あなたにだけ格好はつけさせませんよ」
「いい顔になったな、その方がずっとお前らしい」

 こころざしを同じくした二人の表情からは、清々しささえ感じられた。

「夢穂の魂は恐らくもうここにはありません、すべての吸収が終われば、肉体も跡形もなく消え失せるでしょう……これから先は私にとっても未知の領域ですが……次に起こるのは、狭間自身の暴走――」

 突如、二人の目が鋭い光を持つ。
 近くに暗鬱な気配を感じたからだ。

「噂をすれば、早速始まったようですね」
「一人で食い止められるか?」

 業華は余裕の面持ちで、胸に手を当てた。

「平気ですよ、そもそも一人ではありません、私の中には当時の遣い人を筆頭に、数えきれないほどの修行僧の魂が取り込まれていますからね」
「それは肉体も超越するはずだな」    

 影雪は一歩軸足を下げ、くるりと身体を反転させた。

「影雪……必ず夢穂を取り返してください」
「任せろ、俺はすごいあやかしだと夢穂が言っていたからな」

 そう言った影雪の声には自信がにじみ出していた。
 遠ざかっていく背中がずいぶん大きく見えた業華に、ある仮説が浮かんだ。

 通常、異世界の遣い人と眠りが干渉し合うことはない。
 仮に業華があやかしの霊園に生命力を注ごうとしても不可能、残月が夢穂に通紋を託そうとしても同じことだ。
 しかし、夢穂と影雪の場合は違ったのではないか。
 意志の強い夢穂が、眠りの巫女の呪いを断ち切り、生きたいと願った。
 それが救える可能性を秘めた影雪に届き、通紋を出現させ呼び寄せたのではないか。
 業華には、二人が次元を越え惹かれ合っているようにしか思えなかった。

「これが運命、というものでしょうかね」

 そう言い残すと、業華もその場から姿を消した。
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