眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

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輪が広がるのは嬉しいことです。

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「それじゃあ、八重太くん、寂しいはずよね」
「そうだな、ばあさんを埋葬した時もひどく気を落としていて――あ」

 突然、影雪は何かを思い出したように小さな声を漏らした。
 祖母の墓前で正座をし、小さな身体を丸めながら、ぽつりと八重太がつぶやいたこと。

「そういえばあいつ、よくわからないことを言っていたな、確か……『いいことを思いついた』と」

 眠りを妨害しようとした形跡のある霊園、眠りがなくなればいいとのたまった八重太、そしてその謎の言葉。
 すべてが薄い透明の紙のように重なり合い、一つの真実という名の絵を導き出そうとしていた。

「すごく気になるわ、八重太くんと眠りの乱れ……無関係とは思えない」
「そうだな、それも夜に霊園を見張れば、解決するかもしれない」

 何やらこそこそと秘密の会議をする夢穂と影雪を、獄樹は興味津々に覗き込んだ。

「なんだぁ? 助けが必要ならこの獄樹様も協力してやろうか?」

 獄樹は半ばふざけたように、笑いながら提案を持ちかけた。

「……と言っているが、どうする夢穂?」

 影雪に答えを委ねられた夢穂は、静かに目を閉じて首を横に振った。

「この件は私と影雪で最後までやるって残月に言っちゃったの、約束は守らなくちゃいけないわ。気持ちだけもらっておくわよ、ありがとう」

 夢穂の返事に獄樹は一瞬目を丸くしたが、すぐににやりと悪そうな笑みを浮かべた。
 機嫌よさそうに、琥珀色の瞳が輝きを増す。

「ああ、そうかよ、後で悔やんだってしらねえからな、じゃあ俺はもう行く、見回りの途中だからな」

 しっかりと手に匂い袋を握りしめたまま、獄樹は背中を向けた。
 それから落ち着いた声で「影雪」と名を呼んだ。

「……たまには道場に顔出せよ、お前がいねえと練習にならねえからな」
「わかった、近いうちに必ず」

 素直に誘いに応じる影雪に、思わず獄樹の口元が綻んだ。
 今までの思い出とともに、ようやく時計の針が動き出した気がした。
 獄樹は背に生えた艶やかな漆黒の翼を広げると、一気に高く羽ばたいた。

「やっぱり、カラスだわ」
「カラスだな」

 夢穂のつぶやきに影雪も同調しながら、茜色の空に消えていく獄樹を見送った。
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