眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

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輪が広がるのは嬉しいことです。

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 残月のことを語る獄樹は真剣そのものだ。
 何かそこまで心酔するような経緯があったのだろうか?

「獄樹って本当に残月のことを尊敬してるのね」
「当たり前だ、下級あやかしだった俺の実力を認めて側近に拾い上げてくれたのはあの方だからな」

 それを聞いた夢穂は、なるほど、と納得した。
 どうやら残月は生まれに関係なく、価値を正しく認める総大将のようだ。

「獄樹は眠りのこととか、詳しく知ってたりするの?」

 それについては獄樹は首を横に振った。
 
「悪いが公にされてることしか知らねえよ、残月様は秘密主義ってわけじゃねえが、不確かなことや民の不安の種になるようなことは言わねえからな」
「そっか……八重太くん、眠りがなくなればいい、なんて言ってたから、何かわかればと思ったんだけど」

 喜んでいた他のあやかしたちとはまるで違う反応を見せた八重太に、夢穂の内にある疑問が膨らんだ。
 まるで眠りを壊したがっているような、そんな衝動を感じる言動。
 まさか、と思った夢穂の脳裏に、霊園の墓荒らしの光景が浮かんだ。

「あんな八重太を見たのはばあさんが亡くなった時以来だな」

 影雪は八重太の消えた場所を眺めながら、祖母を失い泣きじゃくっている彼の姿を思い出していた。

「よほどおばあちゃんが好きだったのね」
「八重太には父さん母さんがいないからな」
「えっ……じゃあ八重太くんは」
「ばあさんと住んでいた家に一人で暮らしている、食料は山や海で調達できるし、なんとでもなる、俺が八重太と出会ったのも、食い物を探していた時だった」

 子供が自分で食事を探さなければ生きられない状況は、夢穂の世界では考えにくかった。
 学校や社会の枠にはめられ守られるということがない分、危険とともに自由を得ているのだろうか。
 だからこそあやかしたちは逞しく、今を楽しもうと陽気に暮らしているのかもしれない。
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