眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

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輪が広がるのは嬉しいことです。

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 長い時間をかけて絡み合った複雑な糸を、こちらの世界に来て初めての人間が、一日足らずで解いてしまったのだから。

「……あー、悪かった、な、疑うようなこと言って」

 見守るようににこやかに微笑みながら佇む夢穂に、獄樹は頭を掻きながらバツ悪そうに謝罪をした。
 それを聞いた夢穂は、意外そうな顔をした後でまた笑った。

「わかってくれてよかった、あなたもその匂い袋でゆっくり眠れたらいいわね、多少のイライラは解消されるかもしれないわよ?」

 少しからかうように言う夢穂に、影雪はないない、と言いたげに顔の前で手を振った。

「こいつの短気は不眠のせいではなくもともとだ、昔からそうだからな」
「なんだとこら!」
「道場に通っていた時も、よくぷりぷりしていただろう」
「それはお前がしょっちゅう稽古の時間に遅れてくるからだろうが!」
「うん? そうだったか?」

 「はて?」と顎に手を置き首を傾げる影雪に「とぼけるな」と叱りつける獄樹。
 すっかり打ち解けたようにじゃれつく二人に、夢穂は幼い日の彼らの様子まで浮かんでくるようだった。

 気づけば周りにあやかしたちはおらず、屋台に置いてあった薬草は綺麗になくなっていた。
 残るは夢穂の制服のポケットに入れた二つだけだ。
 薬草を作ろうと決めた時、夢穂には必ず渡したいあやかしがいた。そのためあらかじめ必要な分は取っておいた。
 影雪と獄樹がやり取りする中、夢穂はふと、視線に気がついた。
 きょろきょろと辺りを見回しその出どころを探すと、屋台の後方にある家屋と家屋の間に、隠れるようにして立っている少年と目が合った。
 彼を見つけた夢穂は、ぱっと表情を明るくして駆け寄った。
 
「八重太くん、ちょうどよかったわ」

 家の影に潜むようにして、夢穂たちの様子を窺っていたのは狸のあやかしの八重太だった。
 夢穂は影雪を慕っている彼にも、これを渡したいと考えていた。
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