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輪が広がるのは嬉しいことです。
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「要するに、すれ違いで難しくなっちゃっただけでしょ? まどろっこしいんだから、はい、これで仲直り!」
間近で影雪と目が合った獄樹は、突然気恥ずかしくなり叩く勢いで手を離すと、そっぽを向いた。
ガキじゃあるまいし、今更仲直りなんて、どうすればいい。
そんなことを思い続けながら、何年も何十年も、時が過ぎてしまった。
あやかしの寿命は長いとはいえ、それは獄樹にとっても大きな空白期間となっていた。
時間が経てば経つほど、距離を埋めるのが難しくなるのは、人間同士でも同じかもしれない。
何かきっかけさえあれば。
そのきっかけが、二人にとっては夢穂だった。
影雪は獄樹の背中を見ていた。
こんなに近くで見たのはいつぶりだろう。
道場で影雪と対等に鍛錬できる相手は、獄樹しかいなかった。
長い月日が流れ、いつしかこんなにも大きくなった幼なじみに、影雪も遠いあの日に思いを馳せていた。
「獄樹……お前は俺を嫌っているかもしれないが、俺はお前を嫌いではない」
影雪の言葉は、獄樹に希望の光として降り注いだ。
モノクロのようだった懐かしい思い出は、今ようやく色をつけ、再び未来の糧になる。
獄樹は腕を組んだまま、決心したように影雪を振り返った。
「……べ、別に俺も嫌ってるわけじゃねえよ、やればできる癖にサボりやがって、いつまでも拗ねてふらふらしてるのがムカついてただけだ」
赤い顔で気まずそうに視線を泳がせながら、聞こえるか聞こえないかの声でぶつぶつと言葉を紡ぐ。
どうやら獄樹というあやかしは、口は悪いが照れ屋で純粋な性質のようだ。
「残月とのことも……どうにかする、分かり合えるかは別として、話はしてみるつもりだ」
これには夢穂と獄樹は喜びの反応を見せた。
影雪なりに少しずつ、前に進もうとしているのがわかったからだ。
「もう、一人の殻に閉じこもるのはやめる。夢穂も背中を押してくれたし、お前もな」
憑き物が落ちたように清々しい顔をした影雪を見ると、獄樹は夢穂の存在を無視できなかった。
間近で影雪と目が合った獄樹は、突然気恥ずかしくなり叩く勢いで手を離すと、そっぽを向いた。
ガキじゃあるまいし、今更仲直りなんて、どうすればいい。
そんなことを思い続けながら、何年も何十年も、時が過ぎてしまった。
あやかしの寿命は長いとはいえ、それは獄樹にとっても大きな空白期間となっていた。
時間が経てば経つほど、距離を埋めるのが難しくなるのは、人間同士でも同じかもしれない。
何かきっかけさえあれば。
そのきっかけが、二人にとっては夢穂だった。
影雪は獄樹の背中を見ていた。
こんなに近くで見たのはいつぶりだろう。
道場で影雪と対等に鍛錬できる相手は、獄樹しかいなかった。
長い月日が流れ、いつしかこんなにも大きくなった幼なじみに、影雪も遠いあの日に思いを馳せていた。
「獄樹……お前は俺を嫌っているかもしれないが、俺はお前を嫌いではない」
影雪の言葉は、獄樹に希望の光として降り注いだ。
モノクロのようだった懐かしい思い出は、今ようやく色をつけ、再び未来の糧になる。
獄樹は腕を組んだまま、決心したように影雪を振り返った。
「……べ、別に俺も嫌ってるわけじゃねえよ、やればできる癖にサボりやがって、いつまでも拗ねてふらふらしてるのがムカついてただけだ」
赤い顔で気まずそうに視線を泳がせながら、聞こえるか聞こえないかの声でぶつぶつと言葉を紡ぐ。
どうやら獄樹というあやかしは、口は悪いが照れ屋で純粋な性質のようだ。
「残月とのことも……どうにかする、分かり合えるかは別として、話はしてみるつもりだ」
これには夢穂と獄樹は喜びの反応を見せた。
影雪なりに少しずつ、前に進もうとしているのがわかったからだ。
「もう、一人の殻に閉じこもるのはやめる。夢穂も背中を押してくれたし、お前もな」
憑き物が落ちたように清々しい顔をした影雪を見ると、獄樹は夢穂の存在を無視できなかった。
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