眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

文字の大きさ
93 / 175
輪が広がるのは嬉しいことです。

4

しおりを挟む
 その後、小人爺が何かいいことを思いついた時のような顔をすると、カッパ童の前に歩み出た。
 皺の多い痩せた両腕を空にかざし、指揮を振るように柔和に動かす。
 すると、何もない空中に焦茶色の木の板が現れた。
 さまざまな形をした木材はみるみるうちに数を増し、音もなく浮遊しながら地面に向け移動する。そして縦横斜めに重なり合わさると、あっという間に四角い小屋が出来上がった。
 嘘のように滑らかで見事な技に、夢穂は茫然とした後拍手を送った。

「す、すごい、どうなってるの」
「小人爺は木を組み立てるのが得意なあやかしでございますので、こちらを夢穂殿に差し上げたいと」
「ええっ、本当に? いいの!?」

 カウンターのような長い机に屋根がついたその姿は、夜店の屋台のようだ。
 これがあれば往来しているあやかしの目を引くだろう。実際すでに何人かの視線を感じている。
 嬉しくなった夢穂は、小人爺とカッパ童の手を順番に握るとぶんぶん振った。

「ありがとう、小人爺、カッパ童、やる気が出てきたわ」

 夢穂の背後に大人しく待機していた影雪は、照れる小人爺とカッパ童を羨ましそうに眺めていた。

「なんだ、胸の辺りがもやっとしたぞ」

 未だ腕に山盛りの薬草を携えたままの影雪は、初めての感情に首を傾げていた。
 そんな影雪の変化も知らず、夢穂は薬草を屋台の机に載せると、ちらほら足を止める往来客の一人に声をかけた。

「あの、そこの綺麗なお姉さん」

 時代遅れのナンパのような客引きになってしまったが、呼ばれたあやかしはすぐに気づき、夢穂に近づいてきた。
 派手に盛られた黒髪に豪華なかんざし、雅な着物と前に垂らされた帯はまさに花魁だ。
 その顔には目と鼻が見当たらず、代わりに裂けたように大きな口が妙に目立っていた。

「あんた、人間だろう? あちきが怖くないのかい?」
「ちっとも、すごく綺麗だから声をかけたの」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

後宮の偽花妃 国を追われた巫女見習いは宦官になる

gari@七柚カリン
キャラ文芸
旧題:国を追われた巫女見習いは、隣国の後宮で二重に花開く ☆4月上旬に書籍発売です。たくさんの応援をありがとうございました!☆ 植物を慈しむ巫女見習いの凛月には、二つの秘密がある。それは、『植物の心がわかること』『見目が変化すること』。  そんな凛月は、次期巫女を侮辱した罪を着せられ国外追放されてしまう。  心機一転、紹介状を手に向かったのは隣国の都。そこで偶然知り合ったのは、高官の峰風だった。  峰風の取次ぎで紹介先の人物との対面を果たすが、提案されたのは後宮内での二つの仕事。ある時は引きこもり後宮妃(欣怡)として巫女の務めを果たし、またある時は、少年宦官(子墨)として庭園管理の仕事をする、忙しくも楽しい二重生活が始まった。  仕事中に秘密の能力を活かし活躍したことで、子墨は女嫌いの峰風の助手に抜擢される。女であること・巫女であることを隠しつつ助手の仕事に邁進するが、これがきっかけとなり、宮廷内の様々な騒動に巻き込まれていく。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

『後宮薬師は名を持たない』

由香
キャラ文芸
後宮で怪異を診る薬師・玉玲は、母が禁薬により処刑された過去を持つ。 帝と皇子に迫る“鬼”の気配、母の遺した禁薬、鬼神の青年・玄曜との出会い。 救いと犠牲の狭間で、玉玲は母が選ばなかった選択を重ねていく。 後宮が燃え、名を失ってもなお―― 彼女は薬師として、人として、生きる道を選ぶ。

ことりの古民家ごはん 小さな島のはじっこでお店をはじめました

如月つばさ
ライト文芸
旧題:ことりの台所 ※第7回ライト文芸大賞・奨励賞 都会に佇む弁当屋で働くことり。家庭環境が原因で、人付き合いが苦手な彼女はある理由から、母の住む島に引っ越した。コバルトブルーの海に浮かぶ自然豊かな地――そこでことりは縁あって古民家を改修し、ごはん屋さんを開くことに。お店の名は『ことりの台所』。青い鳥の看板が目印の、ほっと息をつける家のような場所。そんな理想を叶えようと、ことりは迷いながら進む。父との苦い記憶、母の葛藤、ことりの思い。これは美味しいごはんがそっと背中を押す、温かい再生の物語。

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...