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輪が広がるのは嬉しいことです。
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夢穂の言葉は本心だった。
美意識が高いのなら、恐らく不眠により悩まされているはず。ならば匂い袋を受け取ってくれるのでは、と期待を込めて誘った。
夢穂はカッパ童たちに話したように、花魁のあやかしにも眠りの巫女であることと目的を告げた。
すると花魁のあやかしは、大きな口の両端を上げ、にいい、と笑った。
真っ白な卵型の顔に、赤い唇が浮き上がって見える。
「あちきはねぇ、白粉をはたきすぎて、いつの間にか目と鼻がなくなっちまったんだよ、それなのに匂い袋だってぇ?」
「あやかしは第六感が優れてると思うの、だからきっと、肌からでも匂いを感じ取れると信じてるわ」
わざと怖がらせるように夢穂に顔を近づけるあやかしに、影雪が一本踏み込もうとする。
しかし、夢穂がその歩みを右手で制した。
夢穂は怯えていなかった。
総大将である残月と比べれば、その圧力は可愛いものだ。何より最初は怖がっていた獣に近いあやかしたちとも、匂い袋を作る工程で協力し合い、仲良くなれた。努力すれば、思いは伝わる。人間もあやかしも、垣根を越えるのは同じだと、夢穂は感じていた。
「この化粧女を誘っておいて、つまらないものをよこせば、あんたの愛らしい目と鼻をいただいちまうよ」
「うん、いいわよ」
妖怪らしく迫られても、まったく動じない夢穂は、化粧女に匂い袋を一つ差し出した。
予想外の夢穂の反応に、化粧女は腑に落ちない様子ながらも、それを受け取る。
包まれた葉に指先が触れた瞬間、化粧女は幅広い口を豪快に開いた。
「……すごい」
しばし放心状態だった化粧女の口から、ぽろりと本音がこぼれた。
そして急に覚醒したかと思うと、夢穂の肩を掴んだ。
「これはどうなってるんだい? なんて魅惑的な香り……まるで全身を優雅な花に包まれているようだよ、こんなのは初めてだ」
「そう? 気に入ってもらえたならよかった」
興奮気味に感想を述べる化粧女は、さらに続ける。
美意識が高いのなら、恐らく不眠により悩まされているはず。ならば匂い袋を受け取ってくれるのでは、と期待を込めて誘った。
夢穂はカッパ童たちに話したように、花魁のあやかしにも眠りの巫女であることと目的を告げた。
すると花魁のあやかしは、大きな口の両端を上げ、にいい、と笑った。
真っ白な卵型の顔に、赤い唇が浮き上がって見える。
「あちきはねぇ、白粉をはたきすぎて、いつの間にか目と鼻がなくなっちまったんだよ、それなのに匂い袋だってぇ?」
「あやかしは第六感が優れてると思うの、だからきっと、肌からでも匂いを感じ取れると信じてるわ」
わざと怖がらせるように夢穂に顔を近づけるあやかしに、影雪が一本踏み込もうとする。
しかし、夢穂がその歩みを右手で制した。
夢穂は怯えていなかった。
総大将である残月と比べれば、その圧力は可愛いものだ。何より最初は怖がっていた獣に近いあやかしたちとも、匂い袋を作る工程で協力し合い、仲良くなれた。努力すれば、思いは伝わる。人間もあやかしも、垣根を越えるのは同じだと、夢穂は感じていた。
「この化粧女を誘っておいて、つまらないものをよこせば、あんたの愛らしい目と鼻をいただいちまうよ」
「うん、いいわよ」
妖怪らしく迫られても、まったく動じない夢穂は、化粧女に匂い袋を一つ差し出した。
予想外の夢穂の反応に、化粧女は腑に落ちない様子ながらも、それを受け取る。
包まれた葉に指先が触れた瞬間、化粧女は幅広い口を豪快に開いた。
「……すごい」
しばし放心状態だった化粧女の口から、ぽろりと本音がこぼれた。
そして急に覚醒したかと思うと、夢穂の肩を掴んだ。
「これはどうなってるんだい? なんて魅惑的な香り……まるで全身を優雅な花に包まれているようだよ、こんなのは初めてだ」
「そう? 気に入ってもらえたならよかった」
興奮気味に感想を述べる化粧女は、さらに続ける。
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