眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

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やってみなくちゃ始まりません。

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「影雪って、このあやかしたちの言葉がわかるの?」
「わからん」
「ええ」

 夢穂は納得いかない様子で、低い声を漏らした。
 このあやかしたちは言語能力が乏しいのか、獣のような鳴き声の中に単語が混じって聞こえる感じだ。
 影雪が当然のように彼らとやり取りしているので、夢穂はてっきり言葉を完全に理解しているのかと思っていた。

「大体は聞き取れんが、なんとなくわかる」
「そ、そうなんだ、今はなんて言ってるの?」
「喜んで手伝いたい、そうだ」

 夢穂を見たあやかしたちは、うんうんと頷きながら、任せろと言わんばかりに力こぶを作ってみせる。
 確かに言葉はなくても、何が言いたいかは顔に書いている……ような気もする。
 そう思った夢穂は、よろしくねと挨拶をした。
 そして一緒に作業をするには、名前がないと呼べなくて不便だ、という話になった。
 ほとんど言語を必要としていない彼らには、個人を特定するべき名前がなかった。
 というわけで、急遽夢穂が名付け親になることに。
 命名は「一つ目虎」と「筋肉狼」だった。
 そう呼ばれた二人は、顔を見合わせると目を輝かせて満面の笑みを浮かべた。

「気に入ったようだな」
「見たままなんだけどね……」

 感激する一つ目虎と筋肉狼を前にすると、夢穂は自分のネーミングセンスのなさが申し訳なくなり、穴に埋まりたい気分だった。
 
 何はともあれ、人員はばっちり揃った。
 夢穂を筆頭に一同は、せっせと草摘みに励んだ。
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