眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

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やってみなくちゃ始まりません。

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 一時間も経てば、かなりの量の薬草が摘めた。
 左から夢穂、影雪、一つ目虎、筋肉狼の順に採れた薬草を並べているが、当然人間である夢穂のが一番少ない。
 一つ目虎と筋肉狼の分は同じくらいで、大きなザル一盛りといったところか。
 影雪の収穫量は、抜きん出ていた。
 上に上に積まれたそれは、高さが夢穂の背丈まであった。

「やればできる、って影雪のためにある言葉だと思うわ」
「何か言ったか? まだ摘んだ方がいいか?」
「ううん、なんでもない……って、もういいわよ、十分だから!」

 指示さえあればまだまだ続けてしまいそうな影雪を、夢穂は慌てて止めた。

「それ以上抜いたらハゲ野原になっちゃう、大変よ」

 なぜかふと、夢穂の脳裏を業華の頭皮がよぎった時だった。
 草を抜いて土だけになっていたはずの地面から、しゅるしゅると葉っぱが伸びてきた。
 まさか、幻覚かと勘違いした夢穂は、瞼を擦ってもう一度現場を見た。
 しかしその時には、もうすっかりと目の前の景色は元に戻っていた。
 草を摘む前、ここに来た時の、あの青青とした野原が蘇っていた。

「く、草が一瞬にして生えた……」
「ああ、ここのはそうだな、夢穂の世界にこうなるやつはないのか?」
「ありません……」

 驚きのあまり、思わず敬語が出た夢穂だった。

「人の世界とは同じようで、違うものも多いのだな、比べてみると面白いような気もするが」

 摘んでみたはいいものの、どうやって運ぶか。
 積まれた薬草の前で、頭を捻らせる影雪。
 夢穂も影雪の隣に来て、どこか薬草を洗って乾かせる場所はないかと思案する。
 その時、影雪は夢穂の異変に気づいた。
 呼吸が荒く、汗もひどい、白い頬は丸い形に真っ赤になってしまっている。

「夢穂、どうした、大丈夫か?」
「え? あ、ああ、うん、大丈夫……」

 夢穂は焦点が定まりにくい目で、影雪を見た。
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