眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

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やってみなくちゃ始まりません。

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 状況は何も好転していないのに、かすかに視界が開けたような、明るくなったような、影雪はそんな気分になった。

「さ、不貞腐れてないで、ちゃちゃっと草摘み終わらせるわよ」

 夢穂は影雪の背中を、今度は気合を入れるように強めに叩いた。
 元気よく草摘みに戻る夢穂を見て、影雪はふとある考えが頭によぎった。 
 夢穂には、悩みはないのだろうか?

「ゆ――」

 夢穂の名を呼ぼうとした影雪の声は、遠くに感じた誰かの気配によって途切れた。
 振り返った視線の先には、影雪に向かって歩いてくる彼らの姿があった。
 なんだお前たちか。
 影雪は胸中でつぶやくと、彼らに近づいた。

「夢穂」
「何……きゃ!」

 影雪が懸命に薬草を摘んでいる小さな背中に声をかけると、振り向いた夢穂は驚いて一歩後退した。
 それもそのはず、夢穂の目には思いもよらない二人が飛び込んできたのだから。

「まあそう驚くな、こんななりだが悪い奴らではない」
「見た目云々以前に、いきなりいたらびっくりするでしょうが……」

 影雪の後ろには、見覚えのあるあやかし二人が隠れるように立っていた。
 今朝森で会った、一つ目の虎に、やたら筋肉が発達した狼のあやかしだ。

「どうしたの? そのあやかしたち」
「今朝怖がらせた詫びに、何かしたいと思い来たらしい」

 あやかしは鼻がいいので、すぐに匂いを覚える。
 ここは人間の世界へと通じる鳥居があった、あの山の近くなので、影雪と夢穂の匂いを追ってきたのだろう。
 あやかしたちは肩をすぼめながら、申し訳なさそうに夢穂を見ている。
 謝罪のためにわざわざ来てくれるなんて、律儀なあやかしだなぁ、と夢穂は思った。

「そうだったの、なら、せっかく来てくれたし……薬草を集めるの、手伝ってもらおうかな?」

 夢穂の言葉を、影雪が通訳するように彼らに伝える。
 と言っても単語を強調し、身振り手振りで説明をしているだけだ。
 それでもあやかしたちは何か閃いたような顔をしたので、きちんと意味を理解したようだった。
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