眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

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やってみなくちゃ始まりません。

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 影雪からその話を聞き、夢穂の中にぼんやりとだが、残月の人格像が浮かんだ。

「……影雪、なんとなくだけど、大きな勘違いというか、すれ違いがあるように思えるわ。残月と一度、きちんと話をした方がいいんじゃないかな」

 影雪は耳は開いたものの、なぜそんなことを言うのか理解に苦しむ、と言いたげに顔を顰めた。
 本当に嫌そうな顔だ。
 いつも顔の筋肉が固まっているのではないかと思うほど、整いを崩さないくせに。
 いっそこれを機に表情筋を鍛えてしまえ、と夢穂は思った。

「あいつは、母さんが亡くなった時も、涙一つ見せなかった」
「……悲しみ方はそれぞれだからね、たくさん泣くからそれだけ悲しみが深いとは限らないわよ?」

 影雪は草摘みの手を止めると、背中を丸めて黙り込んでしまった。
 そんな影雪を見ていると、なんとなく彼の気持ちもわかるような気がした。
 影雪は、たくさん泣いたのだろう。
 動かない母にすがりつきながら、泣きじゃくる幼い頃の影雪が目に浮かぶ。
 影雪の自己肯定の低さは、大切な母親を助けられなかったことが原因かと思われた。
 身体はすっかり大きくなっても、影雪の心は、まだ母を失ったそこで止まっているのかもしれない。

「よくがんばったわよ……ね?」

 薬草の上に膝を抱えて座り込んでしまった影雪の背中を、夢穂は優しく叩いた。
 影雪は目を大きくし、夢穂を振り返った。
 過去にも、こんなことがあった。
 拗ねたり怖がったりした時、母は宥めるように、落ち着かせるように、背中をとんとん叩いてくれた。
 やっぱり夢穂は、母に似ている。
 見た目は全然違うが、どこか懐かしい。
 影雪はそう思った。
 
「余計なことを散々話してしまったような気がするが……」
「いいんじゃない? 話して楽になることもあるだろうし」

 そう言われてみて、母のことを話したのが初めてだったことに、影雪は気づいた。
 父である残月に対する愚痴のようなものも、初めて吐き出した。
 夢穂にはつい口が緩んでしまうのは、わかってほしいという気持ちの現れかもしれない。
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