眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

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眠りは世界を救う、のでしょうか?

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 影雪が再び歩き始めたので、夢穂はその隣に続く。
 
「何か眠りについて心あたりでもあるの?」
「いや、とりあえず歩いてみようかと思い」

 迷いなく進むので、てっきり目的地が明確なのかと期待した夢穂は肩を落とした。
 とりあえず来ようという意気込みはよかったが、何をどう始めればいいのか、夢穂は頭を悩ませた。
 しかし辺りが気になり、なかなか考えがまとまらない。
 よく見てみると、並んでいる家屋はただの民家ではないようだ。
 代わる代わるに違うあやかしが来ては、野菜や肉などを手にして帰っていく。その様子は人間が店で買い物をするのとよく似ていた。
 それを見た夢穂は、ある疑問が浮かんだ。

「ねえ影雪、この世界ってお金はあるの?」
「お金……?」
「食べ物や服を買う時……もらう時に代わりに渡す通貨よ」
「ああ、あちらではそんなものがあるのか、こちらには」
「ありゃ、影雪の旦那様」

 影雪の言葉は、変声機でも使ったかのように甲高い声に遮られた。
 立ち止まった夢穂と影雪が声の方を振り返ると、そこには白いうさぎのあやかしがいた。
 人間で例えると十歳くらいの子供の大きさで、赤くて丸い目が三つ、逆三角型に並び、ぱちぱちと動きながら影雪を見ていた。
 桜色の着物を身につけたうさぎのあやかしは、ずらりと置かれた箱の前に立っている。
 その中に入っているのがいろんな野菜であることを見た夢穂は、八百屋なのかと思った。
 
「お肉屋さんが立派なねずみが捕れたので、また寄って欲しいと言っていましたよ」
「そうか、わかった」

 影雪は相変わらず真顔だが、そのやり取りから普段から交流がある仲だと窺い知れる。
 
「旦那様の大好物ですからねぇ……うん?」

 うさぎのあやかしの視線が、影雪から夢穂に移動する。
 複数の目で探るように見つめられ、夢穂はたじろぎそうになるのをぐっと堪えた。
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