眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

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眠りは世界を救う、のでしょうか?

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「変わった匂いがすると思ったら……へええ、旦那様がおなごをお連れとは、珍しいですねぇ」

 うさぎのあやかしは訝しげな表情でそう言っていたが、突然ころっと笑顔になった。

「でもでも、あたちの方が美人ですねぇ」

 ちゃめっけたっぷりに笑ってみせるあやかしに、夢穂は拍子抜けした。
 外見は人間の世界ではあり得ないが、言葉を交わせるということと、無邪気な雰囲気が警戒心を下げた。

「名前はなんていうんですかぁ? あたちはうさぎ」
「夢穂よ」
「へええ、あたちの名前の方が可愛いですねぇ」
「ふふ、そうね」

 愛嬌のある仕草と雰囲気に、夢穂は思わず笑ってしまった。
 その話し方と服の感じから、女の子なのだろうと想像がつく。
 確かに見た目だけで、すぐにはわかりにくいかもしれない。
 影雪の性別判定が苦手な理由はここにあるのだろう。
 とはいえ、夢穂は今会ったばかりの奇うさぎでも「おなご」と言うくらいだ。
 影雪はよほどぼんやりしているか、女性に興味がないのかと思われた。

 そんなやり取りをしていると、夢穂の横から次の客がやって来た。
 おかっぱ頭に丸い皿、糸目に平たい鼻、黄色いクチバシをしたその姿は、御伽噺に出てくるカッパにそっくりだ。
 違うのは肌が緑ではなく白っぽいということと、質のよさそうな藍色の着物をきちんと着こなしていることだ。

「カッパどうさん、この間は素敵なお着物をありがとう、とっても気に入りましたよ」

 カッパのあやかしに気づいた奇うさぎは、着物を披露するようにその場でくるりとターンしてみせた。
 どうやら今着ている桜色の着物は、このカッパ童という名のあやかしにもらったようだ。

「それはそれは、ようございました」
「新鮮なきゅうりができたのでたくさん持って行ってくださいな、大根も白菜も……ああ、人参は少し残しておいてくださいな」

 「はいはい」と相槌を打ちながら両手いっぱいのきゅうりを受け取るカッパ童。
 その場面を見た夢穂は、先ほど影雪が言おうとしたことの続きを察した。

 この世界ではお金と呼べる通貨はなく、物々交換で暮らしが成り立っているらしい。
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