眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

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眠りは世界を救う、のでしょうか?

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 そのまましばらく、なだらかな傾斜になった土の道を歩いていく。
 先に進むほど背の高い木々が少なくなっていくのを見て、夢穂は森の終わりが近いのだと感じた。
 影雪の後ろからひょこっと顔を覗かせた夢穂は、植林の間から見えてきた景色に目を大きくした。
 森を抜けたその先には石畳が敷き詰められ、広い道を挟むように木造の家屋がのきを連ねていた。
 江戸時代の城下町を思わせる光景に、夢穂は異世界に来たというよりは、タイムスリップしたような気分になった。

「ここからはまあ、安全だから大丈夫だ」

 立ち止まった影雪の着物の袖から姿を見せた夢穂は、改めて周りを見回した。
 不安と好奇心が混ざったような落ち着きのない様子は、まるで田舎の子が初めて都会に来た時のようだ。
 
 遺伝子レベルに刻まれている懐かしいと感じる町並みに、当然のように異形の者たちが歩いている。
 いや、ここでは私が異形か……と夢穂は思い直した。
 獣のような耳や尻尾、虫や鳥のような羽が生えた者から、首や手足が異様に長い者まで。どれを見ても夢穂とはまるで違う生き物だった。
 
 夢穂は思わず、隣にいるあやかしを見た。
 すると視線を感じた影雪が「なんだ?」と言いたげに夢穂を見下ろした。
 太陽の光を浴びてキラキラと輝く髪。
 それと同じ銀色の長いまつ毛と凛々しい眉。
 作りもののように秀麗な目鼻立ちと、着物の上からでも想像できる長い手足。
 影雪は特別だ。
 夢穂はそう思った。
 理屈ではなく、根本こんぽんからして他のあやかしたちとは違うと感じ取った。
 
「俺の顔に何かついているか? 今朝のおにぎりの米粒か?」

 ずいぶん夢穂が見てくるので、食べかすがついていると勘違いした影雪は、顎の辺りを触って確認していた。

「……それは私が拭いてあげたでしょ」

 はあ、とため息をつきながら額に手を当てる夢穂。
 あまりに無自覚なのも少し罪なのかもしれない、と思えた。
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