眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

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眠りは世界を救う、のでしょうか?

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 期待と不安にドキドキしながら、夢穂は波紋の中に足を踏み入れた。
 影雪とはぐれないよう、握った手に力を込め、目を閉じた。
 そして次に開いた時には、まったく別の世界が広がっていた……わけではない。
 
 最初に目に入ったのは、降り立った硬い地面。灰色の岩と岩の間には不規則に風車かざぐるまが差され、くだり坂のずっと先まで続いている。
 瞬きを繰り返し、夢穂が見上げた先には、青空しかなかった。
 背後を振り返ると、先ほど通過したものと同じに見える鳥居が立っている。
 そしてさらにそれを越えたすぐ先には、果てしない海が広がっていた。
 荒波が歪な岩壁を打ちつける、そんな海に囲まれた崖の天辺に、夢穂はいた。

 夢穂の世界では、鳥居は人目を避けるよう隠れた場所にあったが、こちらでは崇められるように、むしろ堂々と立っている。
 とはいえこんな場所、鳥居に用事がない限り誰も来ないと思われた。
 
「こんなところにあったのだな」

 影雪は夢穂の手を繋いだまま、鳥居を眺めていた。

「そっか、影雪も鳥居を見るのは初めてなんだ?」
「ああ、刀を振ってできた裂け目から入ったからな。出たのはさっき入ってきた鳥居からだったが」

 入り口はどこであれ、出口は必ず鳥居になっているようだ。
  
「鳥居がある場所は聞いていたが、見たのは初めてだ。特に来る用もなかったしな」
「え? 知ってたの?」
「こちらでは遣い人や眠りについても公にされているからな、みんな知っているぞ」
「そう、なんだ……」

 眠りの巫女の私でさえ、さっき知ったところなのに……。
 夢穂は少し疎外感のようなものを感じ、ついそんなことを思ってしまった。
 
 影雪に手を引かれるようにして、ゴツゴツした岩の地面をつまずかないように進んでいく。
 下りていく、といった方が正しいかもしれない。それくらい急な坂道になっていた。
 赤やピンク、青などのさまざまな色をした風車が、空気の流れに靡きくるくる回る。
 やけに静かで、どこか物悲しい雰囲気だった。
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