眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

文字の大きさ
上 下
45 / 175
眠りは世界を救う、のでしょうか?

2

しおりを挟む
「刀を振っていたって、どこで?」
「森の中だ、この辺りは自然も多いからな」

 草一つ生えていない岩肌を過ぎると、風車が消え徐々に緑が見え始める。
 こちらも夏なのだろうか、青々と生い茂った木々は細いものから太いものまで、形もさまざまに夢穂を迎え入れた。
 とはいえ、人間の世界と特に変わらない風景だ。
 業華が言っていた、元は一つの世界だったということも頷ける。
 夢穂が通り過ぎる木々を見上げながらそんなことを考えていると、突然影雪が立ち止まった。

「どうしたの? えい……」

 名前を呼ぼうとして、夢穂も異変に気づいた。
 誰かに見られているような気がすると同時に、グルル……と、獣が威嚇する時のような音が聞こえた。 
 影雪は夢穂の手を離すと、盾になるように一歩前に出た。
 まだ朝だというのに、立派な木々の分厚い緑葉に囲まれた辺りは薄暗く感じる。
 やがて木陰から姿を見せたのは、人とも獣とも区別のつかない何かだった。

 夢穂は思わず、影雪の背中にすがるように隠れる。
 一人は虎を、もう一人は狼を二足歩行にしたような見た目で、衣類と呼べるものは腰に巻きつけた頼りない布一枚だけだ。
 虎の方は目が中央に一つしかなく、狼の方は異様なほど筋肉が発達している。
 どちらも長い牙を剥き出しにし、よだれを垂らしながら影雪の後ろにいる夢穂を狙っていた。どうやら変わった匂いに誘われて出てきたらしい。

「俺の匂いを覚えているだろう」

 影雪の一言に、虎と狼のあやかしたちはぴくりと耳を動かした。

「……エイセツ」
「エイ、セツダ」

 くんくんと鼻を利かせると、二人はようやく影雪だと認識したようだった。
 どうやら目はあまり役に立たないらしく、匂いを頼りに行動しているようだった。
 言葉もぎこちなく、人間より動物の方に近い存在と思われた。

「俺の連れを襲うな、森の仲間にもそう伝えてくれ、頼んだぞ」

 二人は顔を見合わせると、頭を縦に振り、ゆっくりと森の中へ消えていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ナマズの器

螢宮よう
キャラ文芸
時は、多種多様な文化が溶け合いはじめた時代の赤い髪の少女の物語。 不遇な赤い髪の女の子が過去、神様、因縁に巻き込まれながらも前向きに頑張り大好きな人たちを守ろうと奔走する和風ファンタジー。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

蛇に祈りを捧げたら。

碧野葉菜
キャラ文芸
願いを一つ叶える代わりに人間の寿命をいただきながら生きている神と呼ばれる存在たち。その一人の蛇神、蛇珀(じゃはく)は大の人間嫌いで毎度必要以上に寿命を取り立てていた。今日も標的を決め人間界に降り立つ蛇珀だったが、今回の相手はいつもと少し違っていて…? 神と人との理に抗いながら求め合う二人の行く末は? 人間嫌いであった蛇神が一人の少女に恋をし、上流神(じょうりゅうしん)となるまでの物語。

子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。

さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。 忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。 「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」 気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、 「信じられない!離縁よ!離縁!」 深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。 結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜

菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。 まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。 なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに! この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。

処理中です...