眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

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眠りは世界を救う、のでしょうか?

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「刀を振っていたって、どこで?」
「森の中だ、この辺りは自然も多いからな」

 草一つ生えていない岩肌を過ぎると、風車が消え徐々に緑が見え始める。
 こちらも夏なのだろうか、青々と生い茂った木々は細いものから太いものまで、形もさまざまに夢穂を迎え入れた。
 とはいえ、人間の世界と特に変わらない風景だ。
 業華が言っていた、元は一つの世界だったということも頷ける。
 夢穂が通り過ぎる木々を見上げながらそんなことを考えていると、突然影雪が立ち止まった。

「どうしたの? えい……」

 名前を呼ぼうとして、夢穂も異変に気づいた。
 誰かに見られているような気がすると同時に、グルル……と、獣が威嚇する時のような音が聞こえた。 
 影雪は夢穂の手を離すと、盾になるように一歩前に出た。
 まだ朝だというのに、立派な木々の分厚い緑葉に囲まれた辺りは薄暗く感じる。
 やがて木陰から姿を見せたのは、人とも獣とも区別のつかない何かだった。

 夢穂は思わず、影雪の背中にすがるように隠れる。
 一人は虎を、もう一人は狼を二足歩行にしたような見た目で、衣類と呼べるものは腰に巻きつけた頼りない布一枚だけだ。
 虎の方は目が中央に一つしかなく、狼の方は異様なほど筋肉が発達している。
 どちらも長い牙を剥き出しにし、よだれを垂らしながら影雪の後ろにいる夢穂を狙っていた。どうやら変わった匂いに誘われて出てきたらしい。

「俺の匂いを覚えているだろう」

 影雪の一言に、虎と狼のあやかしたちはぴくりと耳を動かした。

「……エイセツ」
「エイ、セツダ」

 くんくんと鼻を利かせると、二人はようやく影雪だと認識したようだった。
 どうやら目はあまり役に立たないらしく、匂いを頼りに行動しているようだった。
 言葉もぎこちなく、人間より動物の方に近い存在と思われた。

「俺の連れを襲うな、森の仲間にもそう伝えてくれ、頼んだぞ」

 二人は顔を見合わせると、頭を縦に振り、ゆっくりと森の中へ消えていった。
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