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あやかしの世界に行ってみましょう。
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業華は、やれやれ、といった風に一つため息をつくと、影雪の前に正座をした。
「……あなたの世界では婚姻制度というものがないので、そう動物的な行動に出るのも仕方がないのかもしれませんけどねぇ」
「こんいん、とはなんだ?」
「生涯添い遂げる……一生あなた以外は愛しませんと公に知らしめる、誓約のようなものですよ。聞いたことくらいあるでしょう?」
影雪はこくこくと頭を縦に振った。
人間の世界であやかしが語り継がれているように、あやかしの世界でも人間のことは少し知られた存在だ。
「なんとなく、本で読んだことがある気がする」
「ほう、あなたは字が読めるのですか?」
「これくらいはできるようになれと、子供の頃に少し教えられただけだ……」
事情を理解した業華は、その情景が目に浮かぶようだった。
「さすがは残月、上級のあやかしとしての教育にぬかりないですね」
「やめろ、その、上級だなんだと言うのは」
わざとらしく言ってみせる業華に、影雪は渋柿でも食べた時のような顔をした。
「あやかしにはあやかしの道理があるように、人には人の道理があります。男女の中には順序というものがあるのですよ」
教えを説くように述べる業華に「順序?」と聞く影雪はとぼけた表情をしている。
「まずはお互いが好き合っているか確認をする。それから手を繋いで」
「手を……?」
「そうですよ」
「どうやって?」
「ですからこんな風に」
百聞は一見にしかず、目にすれば嫌でもわかるだろうと思い、業華は影雪の手を握ってみせた。
「それから口吸いをして、時間をかけてようやく寝所をともにするのです。あなたは何もかもすっ飛ばして、まったくもう」
「くちす……?」
「口と口を合わせることですよ、恋人同士はマウストゥマウスというやつです」
「まう? くちす?」を繰り返してちんぷんかんぷんになっている様子の影雪に、あきれた業華が顔を近づけた。
「ですからこうして、唇と唇を」
解説の途中で、すらりと襖が開く。
はたから見れば僧侶と妖狐のキスシーンだった。
「……あなたの世界では婚姻制度というものがないので、そう動物的な行動に出るのも仕方がないのかもしれませんけどねぇ」
「こんいん、とはなんだ?」
「生涯添い遂げる……一生あなた以外は愛しませんと公に知らしめる、誓約のようなものですよ。聞いたことくらいあるでしょう?」
影雪はこくこくと頭を縦に振った。
人間の世界であやかしが語り継がれているように、あやかしの世界でも人間のことは少し知られた存在だ。
「なんとなく、本で読んだことがある気がする」
「ほう、あなたは字が読めるのですか?」
「これくらいはできるようになれと、子供の頃に少し教えられただけだ……」
事情を理解した業華は、その情景が目に浮かぶようだった。
「さすがは残月、上級のあやかしとしての教育にぬかりないですね」
「やめろ、その、上級だなんだと言うのは」
わざとらしく言ってみせる業華に、影雪は渋柿でも食べた時のような顔をした。
「あやかしにはあやかしの道理があるように、人には人の道理があります。男女の中には順序というものがあるのですよ」
教えを説くように述べる業華に「順序?」と聞く影雪はとぼけた表情をしている。
「まずはお互いが好き合っているか確認をする。それから手を繋いで」
「手を……?」
「そうですよ」
「どうやって?」
「ですからこんな風に」
百聞は一見にしかず、目にすれば嫌でもわかるだろうと思い、業華は影雪の手を握ってみせた。
「それから口吸いをして、時間をかけてようやく寝所をともにするのです。あなたは何もかもすっ飛ばして、まったくもう」
「くちす……?」
「口と口を合わせることですよ、恋人同士はマウストゥマウスというやつです」
「まう? くちす?」を繰り返してちんぷんかんぷんになっている様子の影雪に、あきれた業華が顔を近づけた。
「ですからこうして、唇と唇を」
解説の途中で、すらりと襖が開く。
はたから見れば僧侶と妖狐のキスシーンだった。
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