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「えっと、あの、担当、え、プロデビュー? ふえぇぇ?」
一応プロではあるんだけどなぁ……。
「大喜さん、とりあえず落ち着いて。ほら、ひっひっふーひっひっふー」
「腹痛を和らげてどうするんですか」
「え、これ腹痛緩和の呼吸法なの?」
知らなかった……。なんか慌てた人を落ち着かせる感じの奴だと思ってたのに……。
衝撃の事実に驚いていると、大喜さんは呼吸を整えて落ち着こうとしていた。深く息を吐きだし、同じくらいに大きく吸い込んだ大喜はゆっくりと顔を上げてメガネを持ち上げる。
「失礼しました……名出川さん。私は大喜といいます。兎山さんと懇意にさせてもらっているものです」
前にも一度、聞いた覚えがある挨拶を自身満々の顔でする大喜。別にそこまで仲良いって訳でもないと思うんだけど……。そんな事を考えていると、名出川さんが「そうですか」と反応してから今度は深く頭を下げる。
「それは、いつも兎山がいつもお世話になっております」
「……⁉」
丁寧な口調で伝える名出川は社長秘書を思わせる瀟洒な振舞いだった。その姿を見た大喜は目を丸くしてだじろいだ後、名出川さんを睨みつけた。え、なんで???
顔を上げた名出川さんは睨みつけられているにも関わらずしれっとした態度で大喜さんを見る。そうして暫くの間睨み合いが続き、二人が放つ熱気と外の気温に茹りそうになった俺は、大喜を部屋に招いた。
☆
「いったいどうしちゃったんですか?」
「えっ……?」
唐突に話す大喜さんに振り返った。何の話かわからないでいると、スマホを取り出した大喜さんは画面をこちらに向ける。
「これですっ、これっ!」
「ん? あー……俺の小説かこれ」
液晶画面に映っているのは小説投稿サイト、そこにアップしたばかりの新作だった。
「おお……お気に入り入ってるじゃん」
フリックして確認してみると、お気に入り数が二桁になっている。サイト全体で見ると微々たるものだが、毎回一件しか入らなかった俺の作品からしたら、驚異の出来事だった。
子供のようにはしゃいでいると、大喜さんにスマホを取り上げられる。
「そんな事はどうでもいいんですっ。なんですか今回の作品はっ」
「なんですかってなんですか……?」
「いつもと全然違うじゃないですかっ、どうしちゃったんですかっ⁉」
凄い剣幕で大喜さんはまくしたててくる。というかWEB小説見てたんだな。
「WEB小説見てくれてたんですね」
「今はいいんです、そんなことっ」
そ、そんなこと……。感謝を伝えようとしたのに……。
「いい小説でしょう?」
押し黙っていると、名出川さんが言う。表情はどこか誇らしげで、彼女にしてはめずらしく、まるで自分が書いたかのようなドヤ顔だった。ていうか何でまだいるの?
「確かに、面白かったです。ええ、ええ、面白かったですけども……少し明確すぎやしませんかっ?」
大喜さんは作った握り拳を震わせながら、選挙演説のように熱の篭った言葉をひねり出す。熱いなぁ。
「ちょっと思う所があって、余計な部分を削ってみたんです。前と比べて大分わかりやすくなっt――」
「余計じゃないっ‼」
「あ……スイマセン」
怒声で割り込まれて、思わず頭を下げてしまった。なんで俺怒られてるの??
「……微妙でした?」
唾を飲み込んでから、大喜さんに確信部分を尋ねてみると、大喜さんはぴたりと会話を止めて頭を捻った。
本当に良くなっているのか、それは名出川さんに褒められた今でも疑問に思っていた。確かに全体は見やすくなってテーマも明確になった。だが隙間の空いた物語は、俺の見ている世界をちゃんと伝えられているのかという不安を孕んでいる。これだけ明確にしても伝わっていなければ、それは否定だ。存在そのものを否定されている事だ。
「――まぁ、面白い、ですけど……」
どこか納得がいかない表情を見せてはいるが、大喜ははっきりとそう言った。とりあえず、受け入れられた事に対して大きく息を吐きだす。
「よかったですね。兎山さん」
俺と一緒に大喜の答えを待っていた名出川は、そう言ってから立ち上がる。
「あ、帰るんですか?」
「えぇ、思わず長居してしまいましたが、実は急ぎの仕事がありまして。それでは」
言いながら、名出川は帰り支度をして部屋から出て行く。忙しい中、わざわざ時間を割いてくれるなんて、俺は本当に恵まれている。そう思いながら部屋に戻ると、大喜が原稿と睨み合い。苦悶の声を上げていた。
「こっちの方が間違いなく受けるだろうけど……でも、考察の楽しみが……いやでも、売れたら製本された小説が……」
ぶつぶつと念仏のように独り言を話す大喜は新旧の原稿を交互に見ている。そこから一時間近く居座り続けた大喜は、来た時より疲れた顔をして帰っていった。
一応プロではあるんだけどなぁ……。
「大喜さん、とりあえず落ち着いて。ほら、ひっひっふーひっひっふー」
「腹痛を和らげてどうするんですか」
「え、これ腹痛緩和の呼吸法なの?」
知らなかった……。なんか慌てた人を落ち着かせる感じの奴だと思ってたのに……。
衝撃の事実に驚いていると、大喜さんは呼吸を整えて落ち着こうとしていた。深く息を吐きだし、同じくらいに大きく吸い込んだ大喜はゆっくりと顔を上げてメガネを持ち上げる。
「失礼しました……名出川さん。私は大喜といいます。兎山さんと懇意にさせてもらっているものです」
前にも一度、聞いた覚えがある挨拶を自身満々の顔でする大喜。別にそこまで仲良いって訳でもないと思うんだけど……。そんな事を考えていると、名出川さんが「そうですか」と反応してから今度は深く頭を下げる。
「それは、いつも兎山がいつもお世話になっております」
「……⁉」
丁寧な口調で伝える名出川は社長秘書を思わせる瀟洒な振舞いだった。その姿を見た大喜は目を丸くしてだじろいだ後、名出川さんを睨みつけた。え、なんで???
顔を上げた名出川さんは睨みつけられているにも関わらずしれっとした態度で大喜さんを見る。そうして暫くの間睨み合いが続き、二人が放つ熱気と外の気温に茹りそうになった俺は、大喜を部屋に招いた。
☆
「いったいどうしちゃったんですか?」
「えっ……?」
唐突に話す大喜さんに振り返った。何の話かわからないでいると、スマホを取り出した大喜さんは画面をこちらに向ける。
「これですっ、これっ!」
「ん? あー……俺の小説かこれ」
液晶画面に映っているのは小説投稿サイト、そこにアップしたばかりの新作だった。
「おお……お気に入り入ってるじゃん」
フリックして確認してみると、お気に入り数が二桁になっている。サイト全体で見ると微々たるものだが、毎回一件しか入らなかった俺の作品からしたら、驚異の出来事だった。
子供のようにはしゃいでいると、大喜さんにスマホを取り上げられる。
「そんな事はどうでもいいんですっ。なんですか今回の作品はっ」
「なんですかってなんですか……?」
「いつもと全然違うじゃないですかっ、どうしちゃったんですかっ⁉」
凄い剣幕で大喜さんはまくしたててくる。というかWEB小説見てたんだな。
「WEB小説見てくれてたんですね」
「今はいいんです、そんなことっ」
そ、そんなこと……。感謝を伝えようとしたのに……。
「いい小説でしょう?」
押し黙っていると、名出川さんが言う。表情はどこか誇らしげで、彼女にしてはめずらしく、まるで自分が書いたかのようなドヤ顔だった。ていうか何でまだいるの?
「確かに、面白かったです。ええ、ええ、面白かったですけども……少し明確すぎやしませんかっ?」
大喜さんは作った握り拳を震わせながら、選挙演説のように熱の篭った言葉をひねり出す。熱いなぁ。
「ちょっと思う所があって、余計な部分を削ってみたんです。前と比べて大分わかりやすくなっt――」
「余計じゃないっ‼」
「あ……スイマセン」
怒声で割り込まれて、思わず頭を下げてしまった。なんで俺怒られてるの??
「……微妙でした?」
唾を飲み込んでから、大喜さんに確信部分を尋ねてみると、大喜さんはぴたりと会話を止めて頭を捻った。
本当に良くなっているのか、それは名出川さんに褒められた今でも疑問に思っていた。確かに全体は見やすくなってテーマも明確になった。だが隙間の空いた物語は、俺の見ている世界をちゃんと伝えられているのかという不安を孕んでいる。これだけ明確にしても伝わっていなければ、それは否定だ。存在そのものを否定されている事だ。
「――まぁ、面白い、ですけど……」
どこか納得がいかない表情を見せてはいるが、大喜ははっきりとそう言った。とりあえず、受け入れられた事に対して大きく息を吐きだす。
「よかったですね。兎山さん」
俺と一緒に大喜の答えを待っていた名出川は、そう言ってから立ち上がる。
「あ、帰るんですか?」
「えぇ、思わず長居してしまいましたが、実は急ぎの仕事がありまして。それでは」
言いながら、名出川は帰り支度をして部屋から出て行く。忙しい中、わざわざ時間を割いてくれるなんて、俺は本当に恵まれている。そう思いながら部屋に戻ると、大喜が原稿と睨み合い。苦悶の声を上げていた。
「こっちの方が間違いなく受けるだろうけど……でも、考察の楽しみが……いやでも、売れたら製本された小説が……」
ぶつぶつと念仏のように独り言を話す大喜は新旧の原稿を交互に見ている。そこから一時間近く居座り続けた大喜は、来た時より疲れた顔をして帰っていった。
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