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メイドの美少女〜ポップ〜
しおりを挟む「リオン様、お待たせしました。」
抑揚のない声で喋るメイド服の女の子。
水色のショートヘアの少女は、感情が全く見えない無表情のまま、ボソッと呟くように言葉を吐く。
注意深く耳を傾けないと聞き逃してしまいそうなウィスパーボイス。
「ポップ。待ってたわよ。アンタがいなきゃ始まらないわ。」
リオン様はなぜかドヤ顔で、彼女を出迎えた。
ポップと呼ばれたその少女は、スカートの裾を摘み従順に深々とお辞儀をする。
黒のワンピースにボリュームのある白のフリルが映える。
ヒラヒラとした実用的じゃないエプロンに、ガーターベルト。
ウエストが絞ってあり、背中側はリボンで編み上げられている。
頭には白のフリルで出来たヘアバンド。彼女の可愛らしさを露骨に強調している。
これは創造主であるリオン様の完全なる趣味で、実用性はまるで考えられていないデザインなのだ。
リオン様の身の回りの世話をするために作られたお供のメイド。
無口でボソッと喋るという設定は、他でもないリオン様が作ったというのに、「はっきり喋りなさいよ!」と理不尽に捲し立てるのを何度見たことか。
「かしこまりました。」と従順に答えながらも、彼女の設定は変わらない。
相変わらずの囁き声だった。
戦闘能力はものすごく高いけれど、感情は乏しい。
力の調整がうまく出来ないほどの怪力で、幼女のような顔立ちからは想像できないパワーの持ち主。
リオン様が編み出した、魔法陣による強力な攻撃力も彼女の武器だ。
逆に僕は、戦闘能力は皆無に等しいけれど、感情豊かに創造されており、空気を読む能力だけはずば抜けている。
リオン様が好き勝手暴れ回りめちゃくちゃにした世界の現状回復を担う、都合の良い役所というわけだ。「尻拭い」係、とでも言うべきか。
自分で言っていて虚しくなるけれど、これは全て神様が決めたこと。
「神様の思し召し」というやつだ。
「さぁ!くだらない試験は、ちゃっちゃと終わらせちゃうわよ!」
リオン様は本当に、意気込みだけは素晴らしい。
僕たちが集合した理由は、これから始まる「神様最終試験」の会場に向かうためだ。
リオン様は、いわゆる「神様の卵」というやつで、来月神様養成スクールを卒業する。
本物の神様になるためには「神様の免許」が必要で、取得するための最終試験は「新しい世界の創造」とはるか昔から決まっている。
全ての神様が通ってきた道なのだ。
大体のことは予想がつくと思うけれど、僕たちが居るここは天界。
神様の住む世界。
僕たちが向かう最終試験の会場は「ナリス」というリオン様が卒業制作で作った新しい星だ。
この「ナリス」という名称も、もちろんリオン様が適当に命名した。
残念ながら神様という生き物はものすごく適当で、ものすごく無責任なものなのだ。
「神様が本当に居るのなら、こんな悲劇は起こらないはずよ。」という定番のセリフも、「神様が適当やっているせいで、このような悲劇が起きている。」と僕たちは断言することが出来る。
僕は本日何度目かわからない、深いため息を吐き出した。
応援ありがとうございます!
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