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第8話 『新しい恋人役』
しおりを挟む演技の時にどうやってその世界観に入り込むのかは、人によって違う。
真白はまだ演技の土台作りや役への入り込み方が未完成で、先輩や若手声優仲間のアドバイスを聞きながら色々試している段階だった。
演じるキャラによって、入り方を変えている声優さんもいるらしい。
(俺はまだ演技に迷いがありすぎて、相手に流されてばかりなんだよな・・・・)
真白は自分が情けなくて、毎日のように自己嫌悪を感じている。
島原 蒼士に出会ったのは、あるボーイズラブゲームの収録だった。
「ボーイズラブ声優」という呼び名が付きつつある真白には最近やたらとBL関係の仕事が入る。
ボーイズラブゲームやら、CDやら、アニメ、映画まで仕事が舞い込んでくるようになった。
目指していた場所とは違うけれど、仕事がもらえるというのはありがたいことだ。
今目の前にある仕事を精一杯、全力投球でやる。
真白はそう決意していた。
島原 蒼士という男は、今注目を集めている若手声優だ。
劇場版アニメの悪役が評価され、アニメの仕事が右肩上がりに増えているらしい。
本人は俳優でも通るほどのイケメンだが、現場ではほとんど喋らない。
無口で無表情。冷たい印象を受ける涼しげな目元、何を考えているのかわからないタイプで、真白には苦手意識が芽生えていた。クールビューティーとして、女性を中心に人気を集めているようだ。
今回、真白の恋人役は彼だった。
「可愛い顔立ちのムードメーカーいつも明るいワンコ君攻めX無口で無表情愛想のない優等生受け」というコンセプトで、真白は珍しく攻めキャラを演じる。
ボーイズラブが初めてだという蒼士と、攻めキャラが初めての真白。
本番前に一緒に練習できればいいなと、真白は期待していた。
「・・・よろしく。」
彼は真白を数十秒じっと見つめると、一言ボソリと言った。
「よろしくね。」
同世代ということもあり、仲良くなれるかと期待していたが顔合わせでそっけない態度を取られて真白はガックリと肩を落とした。
しかし、打ち合わせ後の飲み会の帰り際、事態は急変した。
「真白君、恋人役をやるにあたって親睦を深めたいんだけど。今夜泊まりに行ってもいいかな。」
蒼士は抑揚のない声で真白の目をじっと見つめる。
「え?」
(え~~~!!距離感わかんねーー!!)
真白はとりあえず、こくりと深く頷いた。
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