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『好き』(SIDE 泰莉)

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お互い失恋したばかりの俺たちは、今まで以上に二人で過ごす時間が増え急速に仲を深めていった。
二人きりになってしまったシェアハウスは、広すぎてなんだか落ち着かない。

しずくさんの職場って、男子校なのかよ?」

「そうだよ。言ってなかったっけ?」

「言ってねぇ。聞いてねぇし、そんなの。」

都合がつく時は、一緒に食事をとることに決めている。
俺が淹れた食後のコーヒーを、二人で楽しむのも日課になった。

「共学だと思ってた?残念。どっちにしても女子高生は紹介できないよ?」

俺、教師だからねと冗談めかして笑う雫さんに、一瞬見惚れてしまった。

「女子高生なんて、全然興味ねぇよ。」

こんなに繊細で魅力的な教師が学校にいたら、高校生男子はムラムラするに決まっている。
大人の余裕があって、包容力があって、自分を心配してくれる教師が居たら、誰だって・・・・

俺はそんな自分の考えに、心底驚いてしまった。
いつの間に、彼のことをそんなふうに思うようになっていたのか。

共犯者のような、唯一の味方のような、不思議な関係。

「ってなに笑ってんの?雫さん。」

クスクスとおかしそうに笑う雫さんから、目が離せない。
彼といると、全てを見透かされている気分になった。

それも悪くないと思えるほどに、俺は彼を信頼している。

「だって泰莉たいり君がムキになるから・・なんだか可愛くて。」

(あ~くそ、・・可愛いのはあんたの方だろ・・・)

おっとりとした口調、柔らかく優しさに溢れた目元、細身の身体、中性的な顔立ち。
あはは、と俺に気を許して笑う、その無防備さ。

彼には警戒心というものが無い。

雫さんは持ち前の包容力で、俺をどこまでも甘やかした。
居心地が良い。どんなに嫌なことがあっても彼の顔を見ると、全て忘れられる気がした。


「雫さんの方がよっぽど可愛い面してるっつうの。」

「泰莉君の可愛さは、見た目じゃなくて、中身だよ?」

「俺の何が、可愛いって?」

悔しいけれど、「大人の余裕」にはまるで歯がたたない。
彼と一緒にいると、俺はただのガキなんだと思い知らされる事ばかりだ。

「見た目は強そうだけど、本当は寂しがりやで・・自信がすぐにどっかにいっちゃうところが、俺は好きだよ。」

(好きとか・・・無防備に言ってんじゃねぇよ・・・・)

「好き」というその一言に、ガキみたいに反応する。
自分の弱さを曝け出し自然体でいられる相手に出会ったのは、初めての経験だった。


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