【※R-18】片恋偏差値（ミュージシャンX俳優X高校教師）

『さよなら』（SIDE 泰莉）

弥弦みつるさんは、最後まで俺にきちんと向き合おうとはしなかった。
俺が別れを切り出した途端、逃げるように海外へ旅立ったきり連絡がつかない。

「弥弦さん・・俺、アンタと、」

別れたい、という言葉を遮さえぎるように被かぶせられた言葉。

「勝手にしなよ。全部、お前の好きにしていいから。」

俺には関係ない。そう突き放された気がして、それ以上言葉が出なかった。
車に乗り込んだ彼は、普段仕事に向かうのと何一つ変わらない様子で車を出す。

最後まで一方通行な関係性。

「別れ話さえ、ろくにさせてくれねぇのかよ・・・。」


数週間後、俺は美影みかげさんに電話をして、弥弦さんとの同棲解消をOKしてもらった。

「弥弦さん、俺の電話に全然出てくれないんすけど。」

「あいつにとってはもう過去の話なんじゃない？番号もメアドも全部変えるって言い出して、社長も困り果ててたよ。」

「迷惑かけてすんません・・・」

「悪いのは泰莉たいりじゃなくて、弥弦の方だから気にしないで。」

「神崎かんざき」ではなく「弥弦」と呼ぶ彼に、違和感を覚える。

彼らは正式に恋人同士になったのだろうか。美影さんには夏弥なつやという恋人がいるけれど、immoralの２人の結び付きは普通じゃない。
どんなことだってあり得ると思った。

もう終わったはずの恋なのに、彼らが恋人同士になったかもしれないという不確かな状況を前に胸がざわつく。
この恋はまるで呪いのように、終止符を打った後にまで俺を苦しめるのか。

身分違いのスターとの恋。俺にとっては、まるで夢のような時間だった。
世紀の大恋愛でもなんでもないただの片想いで終わったけれど、激しくて濃厚な数年間には違いない。

「さよなら。弥弦さん。」

ポツリと呟くと、胸がズキンと痛んだ。